1 「築地再整備」の失敗を克服するPTの「築地改修案」
平成2年に「築地再整備」計画が頓挫しています。そこで、市場関係者や都庁組織は、「築地再整備」は不可能という呪縛がありました。
しかし、かつての「築地再整備」は、建物の延べ床面積が築地市場の約2倍という過大な計画でした。
また、報告書は、かつての「築地再整備」は、「移転先でどのように営業するのか分からない不合理なローリング案」(報告書137ページ)だったと指摘しています。
今回の築地改修案は次の点が異なり、かつての「築地再整備」の失敗を克服できるとしています。
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<築地改修案と失敗した「築地再整備」との違い>
①取扱量の50%減という状況を直視した、適正規模の市場
②進歩した建築技術、積み重ねられた実績
③築地に残って営業することができる最後の機会であり、業者の協力が鍵
(市場問題PT報告書138ページ)
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2 民間的手法を導入すれば工期は3年半から7年
築地改修の方法について、報告書は、民間の活力を最大限活用する計画をA案、従来通り都庁が主導する計画をB案としています。
A案は、行政の関与をできる限り小さくし、築地用地の所有権は東京都に残しながら、定期借地権などの活用により神田市場跡地活用のように特定目的会社を活用するという方法です。
民間的手法を導入し、営業しつつローリングで築地市場を改修するという方法(A1案)では、工期7年と試算しています。また、民間的手法を導入し、築地市場は一旦どこかに移って、築地市場を改修する方法(A2案)では工期3年半と試算しています。
従来通り都庁が主導する計画(B案)の場合、営業しつつローリングする手法(B1案)では工期15年、一旦どこかに移って改修する方法(B2案)では工期7年としています。
都庁主導の場合、入札などの手続きを経る必要があり、民間的手法と比べて工期が長くなります。
3 民間的手法を導入すれば工費は778億円から878億円
工事費用は、移転費用、解体費用、新築費用、リニューアル費用に分けて積算した結果だとしています(報告書115ページ)。
新築費用は坪単価 120 万円を見込んでいます。坪単価 120万円は、京都市中央市場施設整備基本計画の110万円/坪、福岡市新青果市場の70万円/坪、札幌市中央卸売市場の77万円/坪と比べても、また、豊洲市場の契約時における卸売市場以外の建物の坪単価、超高層オフィスビル115~132万円/坪、高級ホテル138.6万円~/坪、大型物流センターで59.4~82.5万円/坪であり、その後建設工事費が2~3割高騰していることを考慮に入れても、十分な単価設定であるとしています。
なお、営業しながら改修(1 案)で、A 案878億円、B案1388億円とで大きな開きがありますが、これはA案では耐震改修の必要な建物の面積のみを積算し、B案では現在の築地市場にある建物の面積を全て足しあわせたものであるため、建物建築面積に差異があることによるものだとしています。
4 築地なら全て民間資金で開発、豊洲の費用も15年で回収
報告書には直接書かれていませんが、築地改修の費用は民間資金で賄えるという意見もあります。
市場問題PTメンバーの一人である竹内昌義東北芸術工科大学教授と投資銀行家の山口正洋氏の対談が、東洋経済オンラインに掲載されています。
この対談の中で、山口氏は、「築地市場のリニューアルだったら、都のおカネなんて一銭もいらないですよ。全部民間資金でできます」と述べています。
山口氏は、「東京都は築地市場の土地を売らずに、民間におカネを出させて市場改修をしつつ、商業施設建築をさせる。その後は都には地代まで入ってくることになるんだから、彼らにしてみれば何も問題はない。オイシイだけの話なんです。」と発言しています。
山口氏は、「豊洲の整備にかかった約6000億円は、築地のリニューアルによる民間からの収益があれば、15年ほどで回収できます。」、「築地の立地にはそれくらいの価値があります。金融マンの立場から見れば、都側が出している資料を見るかぎり、彼らは築地の価値をまったく算出していないし、その価値をわかっていない。ただの土地じゃない。築地にはそれ以外の付加価値がたくさんあります。」と述べています。
報告書は、民間的手法について、推進方法について、推進方法については、PPP(public private partnership)やプロポーザルコンペ等による民間からの提案採用方式も例にあげており、民間資金の活用の可能性もあると思われます。
5 「築地ブランド」を継承・発展させるために
報告書は、移転して改修をする方法(2案)の利点は、改修を短期間に行えることだとしています。
たしかに、仲卸業者の減少傾向からすると、10年後には300近くに減少する可能性があるため、早期に改修を終えることは有益です。
しかし、この場合、仲卸業者が減少する次のリスクがあるので、改修後の築地市場に戻って来られるよう、仲卸業者に対する支援策が必要となるとしています。
一旦移転する場合、その間に仲卸のお客さんが離れる懸念があります。一旦移転して改修を行う方法(2案)は失敗すると「築地ブランド」の中心である仲卸業者の大幅な減少を招く危険もあります。営業しながらのローリング工事(1案)も工期がさらに長くなるリスクもあります。
特に、報告書が、「『築地ブランド』を維持するため、部分的にでも築地での営業を継続する方策を検討する。例えば、中央区の築地魚河岸の拡大、改修する場所から順次某所へ移転、または、改修が終了した部分から順次開業等の方策を検討する」(報告書116ページ)としている点は重要です。
いずれの方法を採用するにしても、市場関係者との綿密な協議は欠かせないことになります。
報告書が、そのたたき台として、4つの選択肢(A1、A2、B1、B2)を示した意味は大きいと思います。
「築地ブランド」を維持するため、部分的にでも築地での営業を継続する方策を検討する。例えば、中央区の築地魚河岸の拡大、改修する場所から順次某所へ移転、または、改修が終了した部分から順次開業等の方策を検討する。
(市場問題PT報告書138ページ)
(続く)
<「弁護士大城聡のコラム」より転載>