ハリウッドではなくフランスのようにはなりたい クールジャパンと国家戦略--中村伊知哉氏に聞く

アニメ、マンガ、日本的な文化が、世界から評価されているのだとするとチャンスのはずだが、政府のコンテンツ政策はどう議論されていて、なにが課題なのか? 慶應義塾大学教授の中村伊知哉氏に『コンテンツと国家戦略』(角川EPUB選書)を書かれた背景を聞いた。

スマートフォンのタップ1つで人の行動が変わるネット時代には、より人の心に届くコンテンツが大きなパワーを持ちうる。アニメ、マンガ、日本的な文化が、世界から評価されているのだとするとチャンスのはずだが、政府のコンテンツ政策はどう議論されていて、なにが課題なのか? 慶應義塾大学教授の中村伊知哉氏に『コンテンツと国家戦略』(角川EPUB選書)を書かれた背景を聞いた。

■ 10年間で状況が一変、市場はむしろ縮小した

―― なぜこの本を書かれたのでしょう?

中村 知財本部(知的財産戦略本部)が内閣官房にできて10年なんですよ。10年間コンテンツ政策を政府をあげてやってきたんですが、メディアの環境がかなり変わった。コンテンツ以上にソーシャルメディアなど、コンテンツだけではなくそれを取り巻くコミュニケーションとコミュニティーが大きな意味を持つようになってきた。それから、ブロードバンドも地デジも普及して、日本全体がデジタル列島になりました。デバイスも10年前の中心だったテレビとパソコンとケータイから、スマホとかタブレットとかサイネージなどになってきた。つまり、根本的に見直さないといけない時期に来ているわけです。

―― なるほどそういう理由ですね。

中村 それから、10年前に知財本部ができたときは、コンテンツが大きな産業になると考えていて、10年間で5兆円ぐらい拡大すると目標として掲げられていたんですが、成長してないんですよ。

―― 拡大しようといったのに伸びていない?

中村 いえ、減ってます

―― 減ってるんですか!!

中村 それはアナログのコンテンツ産業の市場が減っていて、デジタルがそこまで大きくなっていない。というのと、そもそもコンテンツ産業はGDPにほとんど依存するので、コンテンツだけ伸ばそうとしても無理なんで、海外市場をやんなきゃいけないとか、所謂エンタテインメントだけじゃないコンテンツを大きく取り込んでいかないといけない。知財本部の中でそういう議論をやってるんですが、それを外に向けてきちんと発信しようというわけです。

―― クールジャパンに関しても、どんなことなのか気になります。

中村 クールジャパン政策も、やっと政府全体が乗り出すようになってきました。漫画アニメゲームを尖兵にしながら、ファッションとか食とか工業デザインとか観光にどう役立てていくかという議論も展開されるようになった。だからコンテンツ産業の12兆円を15兆円にという話だったのが、GDPの470兆円をいかに拡大するかということになってきています。

―― 日本の商品やサービスを売り込むというよりも、好きになってもらう。

中村 クールジャパンという言葉は、ダグラス・マックレーというアメリカのジャーナリストが言い出したんですね。つまり、海外から入ってきた日本の評判なんですね。ただ、それがビジネスに変えられてなかった。10年経って振り返ると、そこのビジネスは韓国がとっているわけです。

―― 10年前というと、ニューヨークタイムスの記者とニューズウィークの東京支社のかたが共著で書かれた本がありましたね(『巨額を稼ぎ出すハローキティの生態』)。まさに、GNPならぬGNC(グローバル・ナショナル・クール=国民総文化力)は世界一だとか、マイクロソフトのビル・ゲイツ元会長が3000億円でキティーちゃんの権利を買おうとしたが断わられたというウワサが出たりとか。

中村 それで、各コンテンツ業界、音楽にしろ、アニメにしろ、ゲームにしろ、海外に出て行くという取り組みはあったんだけど、点でしかなかった。それを横展開して面的にできるんじゃないかという議論で、韓国はそれを意図的にやって成功した。国家的にやった。それは韓国のK-POPとか韓流ドラマのようなものと、Samsungのような家電をセットにしたりとか、車のキャンペーンをそういう人たちにやってもらうとか。それはキム・デジュン大統領時代から、ずっと続けていて政府が相当後押ししてるんですね。それと、海外で、なぜK-POPがそんなに人気があるのですか? と聞くとK-POPの人たちは呼んだら来るもん。海外にちゃんと出かけていってビジネスをやってるというんですね。

―― 売りに行ってると。

中村 日本は、コストがかかって収入に見合わなかったりするとどうしても国内でとなる。でも、ここ1年で海外市場もガラッとかわってきた。

―― それと関係してちょっといいですか? 先日あるスマートフォンの会合に出たのですが、スマホ広告関連の会社の方がアジア各国から引っ張りダコだというのですね。スマートフォンは、日本は米国より遅れて動いているけけど、アジアよりは少しだけ早い。その人は、英語も現地語もできないけどインドネシアで頑張っていますと言っていました。ここ1年から2年くらいが、ピンポイントでもの凄いタイミングではないでしょうか?

■ 海外に出る――たとえば日本チャンネル

中村 そうしたことを後押ししましょうっていうのが、ここで言っている議論なんですね。それには、韓国のやり方もあるし、アメリカのやり方もあれば、フランスのやりかたもあって、その中で日本のやり方があるだろうと。

―― アメリカはどういうやり方なんですか?

中村 アメリカは民間が中心になって、民間の資金が民間につきやすいように政府が制度を作った。要するに、普通のやり方だったら、税金を取って税金を使って支援する。一番強烈なのは、フランスみたいにテレビ業界からドンと金を取って、映画業界に投資する。一種の金融ですよね。アメリカの場合は、たとえば民間の寄付が大学にドンと集まるといったことを税制で実現したりしている。逆に、またハリウッドがパワーを持てるように、昔のことですが、テレビ局の規制をしたりしましたよね。

―― ありましたね。ゴールデンタイムの一定枠はテレビ局以外の制作にせよと。

中村 フィンシンルールですね。

―― それが、いまのハリウッドドラマに繋がっています。

中村 強いセクターをハリウッドで作ってそれで海外展開をしていく。これがアメリカのやり方なんですが、日本はそれをやろうと思ってもできない。

―― なぜできないですか?

中村 それはもう政治力の差ですよ。だから日本は逆の道を選んだ。テレビ局にいろんなことができるようにしている。だからテレビ局にパワーが集まって、映画をテレビ局が支えている。だからそのパワーをハリウッドみたいに国際的に使ってくださいよっていうのがいまのクールジャパンで言ってることなんです。

―― 番組を売るってことなんですか?

中村 番組も売るし、向こうのメディアやチャンネルに出て行く。

―― それはアメリカのケーブルテレビでジャパンドラマチャンネルみたいなものができるってことですか?

中村 そうそう。やんなきゃいけないんですよ。アメリカのケーブル放送を見てみると、中国語放送が何十かあって、韓国語放送が13ぐらいあるんですよ。でも、日本のは1個しかない。

―― 1個しかない!?

中村 そもそも流通を広げないとだめですね。かつてマルチメディアだとかニューメディアだとか言われていた時代ってがんばっていたのは銀行や商社でした。そこの影がいまないんです。そこのプレーヤーがおとなしくなった時期と韓国ががんばった時期が重なってるんです。

―― 1980年代は、それこそハードにソフトがついていったみたいな状況で、ソニーが放送機材を売り込む場合に日本の番組もありますからと言ったという話があるじゃないですか。そういうことをやっていた商社やワイルドな発想な人たちがいまはいないということですね。

中村 で、いまどうするんだと。新しいプレーヤー、ITベンチャーみたいなものがどんどん世界に出て行けるよう応援するだとか、政府だけじゃなくて実際に利益を上げている放送業界だとか通信業界がもっと前に出て、コンテンツを引っ張ってくれるだとか。

―― じゃあそこに税制面で優遇するとか、言葉は悪いけどエサはないんですか。

中村 いまのところは税制面でのメリットはないですね。政府がいまのところやってるのは予算。

―― 今回の具体例としてはチャンネルを誰がどう作るようにすべきなんでしょう。

中村 それは──たとえば日本のテレビ局です。あるいはテレビ局連合ですね。やっとそういう機運が、コンテンツ各業界に出てきたところなんですよ。テレビ番組をネットだとか海外のテレビで流すべきだという議論はずっとあったんですが、そうはいっても、株式会社なのでビジネスの観点から言うと、まだそこまでできてなかった。それが、ここ1~2年で、放送局側のほうが積極的になってきた。

―― 米国のドラマは、『SEX and the CITY』みたいな世界的なヒット作品もあって、『The Sopranos』の製作費は1話あたり2億円だとか言っている。日本のテレビドラマをそうしたドラマに対抗できるくらいのものに変えていくことも重要とも思うのですけどね。

中村 いろんなトライアルをこれまでやってきたんで、各社戦略は違うんですが、これだったら行けるというのがある程度見えてきているんじゃないでしょうか。しかも、バラエティーとか、ドラマとは違うジャンルのもの。企画力というかフォーマットビジネスもあります。そこのパワーを発揮したら一番浸透度が高いですね。

■ 法律をどう変えるか、人をどう育てるか?

―― アメリカの場合は、メディアグループ5社がほとんどのコンテンツを握っているというような状況がありますね。ネット時代には、ワールドワイドで国という切り分けではなくて企業による地図になる可能性もありますよね。

中村 そうなるでしょうね。知財本部では国としての政策の議論をしてるんですが、これまでは国と国でどうかだったけど、もうそうじゃないよねと。GoogleとかAppleみたいなグローバル企業と国のパワーバランスを考えると、ものによっては企業のが強かったりする。これは企業対企業の関係を国としてどうみるかにならざるを得ないし、コンテンツとかメディアに国境とかなくなっちゃった。日本企業としてもそこにどうするかという話です。

―― そこで日本が主要プレイヤーになれるかですね。

中村 政策を考える上でとても難しいのは、日本企業のことを考えるのか、日本のことを考えるかなんです。僕は一貫して日本のことと考えているので、日本のために外資がどんどん入ってきてもいいと考えています。でも議論に参加する人によって立場が変わります。企業や業界団体の人であれば日本の企業を重視するでしょうね。だから議論になっちゃうんですけど。そのときに、ひとつあるのはデジタル化ですね。アナログからデジタルに切り替わるときに、たとえば電子書籍を広げるためには、著作権法をどう変えていくべきかだったりとか、著作権法が厳しい日本ではクラウドビジネスがやりにくいからどうするかとか。

―― ところが、ネットなので米国企業はそれをまたいでやってくる。

中村 そうです。それからパッケージからネットに移行していく中で産業界が世界的なスピードについていけるかという点では、人材もあります。

―― e-JAPAN戦略のときの4本の柱って、ネットワークと電子商取引、電子政府、それともう1つは人材でした。回線は、世界一安いブロードバンドという話はありますが、特に人材のところはどうだったのか?

中村 人材育成の話も変わってきたと思うんですよ。最初はコンテンツを作るプロフェッショナルをどう育てるかで、コンテンツの作り方をちゃんと教えられる高等教育機関が少ないというのが出発点だったんですよ。でも、僕自身は、コンテンツを生み出すプロの育成はそんなに問題じゃないと思っていて、問題は2つで、ひとつはプロデューサー。コンテンツを作る力はすでに日本にはあるので、問題はそれを売る力。海外市場が開拓できてないこともあって、ものはあるんだけど、どうやってビジネスにするか、がない。

―― ジブリのアニメをディズニーに売ってもらっていていいのかって話ですよね。

中村 それは法律の専門家も含めて開発しないといけない。それは日本人じゃなくてもいいわけ。そういうことやってくれる人がたくさんいれば。海外の日本ファンみたいな人でもいい。

もうひとつは子供の問題。長期的に日本がコンテンツ大国であり続けるためには基礎的な力を国民全体が持たないとだめ。それこそプログラミング学習含めて、小中学生のレベルからどんだけ創造力を高めていくか。これもまだぜんぜんできていない。

―― そこはどのように取り組むのですか?

中村 ここんところ10年ワークショップでやってきたんですが、基礎的な学力はもちろんですが、それ以上に創造力、表現力、コミュニケーション力を高めるべきだという社会的な認識が広がったなと感じています。増えましたので、それ学校でやろうと。10年前に図画工作の時間を倍増しようって言って叩かれたんですけど、いまはあまり叩かれなくなった。そこにデジタルが入って、ここ3年デジタル教科書も出てきて、そろそろ学校でも新しい技術でそういうことをやるべきだと思います。知財本部の機能の中にもデジタル教科書とか、ひとり1台端末っていうのがテーマにあって、そのためには法律も変えないといけない。それを検討して、措置を講じるというのが今年の議題で閣議決定までいきましたから。やっと動くかという状況です。これが進めば自然にいくでしょう。

■ 大学が音楽産業化している

―― うちの女性スタッフで子供にプログラミングのワークショップを受けさせたいといっている人がいるんですよ。プログラミングって、表現力だとか、コミュニケーションとか、本来国語でやるべき内容が学べる領域でもある。そして、人と助け合って問題を解決するとか、なしとげるよろこびも体験できますからね。

中村 プログラミング教育とかデジタル教育というと、ついついプログラミング言語を教えるとか、ITを教えるといったことに見られがちだったんですが、少しやってみると、プログラミングで国語を勉強するとか、ITで理科を勉強するとかそういう話になります。

―― それもありますね。一緒に伸ばせれば一石二鳥だろうというのですね。

中村 普通に社会に出たときにほとんどの時間に使うものですからね。それと、僕も授業をやってますけど、同じようなことを繰り返す授業ならいらないやって思ってるんですよ。全部録画してサーバーに上げてみてもらって、実際の授業ではみんなでちゃんと討議するとか。それでいいじゃないと。反転授業とか言いますけど。これまでの授業は映像でオンラインで観る。

―― とくに米国で大学の授業なんかを配信するサービスが注目されていますよね(MOOCs = Massive Open Online Courses )。

中村 それも、完全にボーダレスの競争に入ってます。東大も京大も慶応も、強いコンテンツを持っているところは自分のところでそれを出し始めましたよね。しかも、困ったことにMITはそれをタダでやっている。みんな無料モデル。そっから先の回収をみんなライブでやるわけ。

―― フリーミアムモデルなんですね。

中村 そうフリーミアム。音楽業界化してるわけですよ。コンテンツフリーにしてライブで稼いだり。そのうちにグッズで稼がないといけなくなったりして、そうなると早い段階で大学がガラっと変わる。

―― 営々とやってきたアカデミズムの流れが変わるというタイミングなのですかね?

中村 大学で知識を得るという感覚はなくなってしまって、知識は大学のコンテンツ、タダ。そういう状況で実際に大学に入ってコミュニティーの中で学ぶものがあるとすると、教えて学びあったりする場だったりとか。

―― 授業は実演だったと!

中村 面白いのは音楽コンテンツそのものが値崩れしていても、ライブのチケットって値崩れしてない。日本でライブやっても中国でライブやってもどちらも1万円ぐらいで買ってもらえる。きっと教育もそうなんだよね。

―― ソーシャルブレインって言葉あるじゃないですか。脳というのは1人の人間の問題ではなくて他者や社会と関係して活動しているという。それのための場と時間を与えるのが音楽ライブであり、大学であるということなのかもしれません。

中村 学校とか授業でこそソーシャルメディアが生きてくるはずなのに、まだ日本ではソーシャルワークっていうのは皆無です。

―― 自分が先生だったら怖い部分がないですか。

中村 韓国はガンガンやってますよ。授業の中での先生と生徒の教えあい、学びあいもソーシャルネット上でやったり、家で宿題やって来いっていうのもソーシャルメディアで連絡する。教育用のソーシャルメディアがあって、それを使ったり、保護者の連絡にFacebookやTwitterを使ったりしているんです。韓国の先生も最初は怖かったそうです。

―― 生徒のほうが先生より地位があがってしまうようなことも起きかねない。

中村 あるいはモンスターペアレンツみたいな親とかを心配したらしいんですが、やってみたら逆だったそうです。学校が透明になって学校はやるべきことをやってくれているのねと評判が高まってやりやすくなったそうです。

―― なるほど学校も透明性の時代だと。

中村 日本は逆にケータイを子供に持たせるなという動きもあったりして、デジタルから子供を遠ざけようっていう空気があります。ただ保護者の年齢が下がるに連れてそういう感覚も変わりつつあります。今年からおもちゃメーカーが子供向けのタブレットを売り出したんでけど、それを買う親は小学校、中学校じゃなくて、2?3歳児に買い与える親です。かなりデジタルにネイティブな層だと思います。

■ デジタルで日本のコンテンツの山を作る

―― お話をうかがってきて、ここでいう"日本"という言葉の意味はなんだろうみたいなことを少し感じました。これは、日本人が持っている感受性とかを維持していこう、ちょうど国土の自然や環境を守っていこうというのと同じように、国のやることですよという合意というのですかね。

中村 そうですかね。根本的に国としてコンテンツについてやることは何かといったら教育。なんでクールジャパンなんですかっていうとき、結局みんなが絵を書ける国だからです。道を聞かれて地図を描ける、さっさと図形で何かを示せるって外国だとそんなにいないんですよ。そういう力をデジタルに変えて、ビジネスに変える。そういう山を作っていくんです。ビジネスの最前線にいる人たちがこういう議論の場でデジタル教科書をやるべきだというのはそういうことだと思うんですよ。そういう議論がここへきてだいぶ広がってきているなと思います。

―― いまデジタルをやることは生活力とも同じだし、クリエイティブ力とも同じってことですね。

中村 たとえば、いまクールジャパンって何がくるんですかね? って聞いたら、お母さんたちが作るキャラ弁とか。みんなが自分でいろんなものを作れる力とかねありますからね。

―― あとフクロウカフェとかありますからね。フクロウカフェ全国検索ガイドみたいなサイトまであるんですよ。ああいうのは、日本は広告代理店が仕込んだのでもなく本当にイケてる。

中村 え、フクロウ見に集まるの? 面白いじゃないですか。

―― 自分たちが日本人だから特別だと思いたいという意識も持ちがちだけど、1980年くらいから、カラオケだとかウォークマンだとか、マリオやキティみたいなキャラクターも含めて新しいものを生み出したし売ってきた。こういうことをいまの時代に合致したやり方で意識的にやるのは結構ハードルが高いですけど、テーブルにあげて議論することが大切ですね。どっかでこそこそクールジャパンで税金を使っているというのが一番いやじゃないですか。

中村 コンテンツ政策に関しては、そんなことをするなという批判もあるけれど、議論が分かれるところだと思います。僕はどっちかだと思っています。やんないならまったくやらないけど、やるんだったら本気で100年やれと。だから本気で100年やるために書いたのがこの本です。

中途半端にやっても意味がないと思っています。日本は自分たちが持っているものの程度には世界に出ていけていないので、もっと積極的に出て行きましょうというのがクールジャパン。ところが、行き過ぎて早すぎれば文化侵略になってしまうし、気をつけないといけないところ。コンテンツはそういう意味で難しい。

この間もフランスでイベントを開催することになり、現地のメディアに「文化進出か文化侵略か? ハリウッドのようなことをやりたいのか」と盛んに聞かれました。やっぱりそういった感度の高いフランスのような国はそう思うんですね。そのとき僕は、「日本はハリウッドのようになりたいわけではない。世界から尊敬されているフランスのようにはなりたい」と言ったら、むこうはニコニコしていたんですけど。世界から評価は受けているので、ずっとそれが続けられればと考えています。

※本原稿は2013年12月26日ASCII.JP掲載の「ハリウッドではなくフランスのようにはなりたい/クールジャパンと国家戦略??中村伊知哉氏に聞く」と同じものを掲載しています。

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コンテンツと国家戦略―ソフトパワーと日本再興―

(中村伊知哉著、角川EPUB選書)

著者は、ポップカルチャー政策の第一人者として、生でコンテンツに触れながら新しいテクノロジーやサービスにも目をむけながらやってきた。巻頭「資源も安価な労働力もない日本が、グローバルに連結した世界で自ら望む位置を占めるには、知財の生産と活用以外に道はない」と書かれている。知財計画をまとめるたびに総理大臣はじめ官僚たちに「議論は尽きました。あとは実行です。実行を、お願いします」と申してきた。それが、3年連続。総理が代わるので繰り返しになるというはがゆさ。政府の知的財産戦略本部の「コンテンツ強化専門調査会」での激論を共有しようというのが本書である。

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