2016年2月5日。この日は、セーブ・ザ・チルドレンのモンゴル事務所にとって、大きな意味を持つ一日となった。家庭や教育現場を問わず、子どもへの体罰禁止が明記された法案が、国会で可決されたのだ(16年9月施行)。
私たちが、モンゴルで本格的に体罰の問題を取り上げて12年。06年には、教育現場での体罰も禁止され、体罰の全面禁止が法整備されたのは、東アジア初。世界においても49カ国目となった。私は07年以降、モンゴル事務所長として、子どもへの虐待や暴力を含む体罰の問題に関わってきた。その経験から、日本国内でも、子ども虐待の防止対策を考えるとき、体罰の法的全面禁止が不可欠であると感じている。
世界では、4人に3人の子どもが体罰を受けた経験があるといわれているが、モンゴルも例外ではない。少し古いデータになるが、05年、セーブ・ザ・チルドレンが600人以上の子どもを対象にモンゴルで実施した調査では、住む地域や、学校・家庭の区別に関係なく、半数以上の子どもが体罰を受けた経験があることが判明した。
モンゴル統計局が11年に発表した統計でも、実に半数近い46%の子ども(2~14歳)が、家庭内で体罰を受けたことがあるという結果が出た。モンゴルでは、しつけの一環として、当たり前のように存在していた体罰。この問題に取り組み始めた当初は、それまでモンゴル語で存在しなかった「体罰」という言葉を広めることから始めることとなった。
現状を踏まえ、私たちは、国会や政府関係機関に対して、メディアを巻き込む形で政策提言を行った。さらに、人権やジェンダーなど、さまざまな分野を専門とする25の組織と協働。子どもたちも、自らテレビやラジオ番組で声を上げる機会をつくった。16カ月の活動の末、06年12月、国会で教育法の改正が可決され、教育現場における体罰が禁止された。
私たちはその後も、政策提言活動はもちろん、体罰の全面禁止に向けて、実践面で支援を続けてきた。家庭や教育現場でのポジティブ・ディシプリン*の普及をはじめ、子どもたちを虐待や暴力から守るための制度づくりに取り組んだ。子どもたちが主体となり、広報啓発活動を行う「Spank Out Day」も07年から支援。毎年恒例の行事となり、メディアにも大きくとりあげられるようになった。こうした地道な活動の積み重ねが、子育てやしつけに対する国民意識に変化をもたらし、体罰の法的全面禁止につながったのではないかと考える。
*ポジティブ・ディシプリンとは、セーブ・ザ・チルドレンが世界で促進する、子どもの権利にもとづく子育てガイド
モンゴルでは、体罰が全面的に禁止されるのに12年かかった。はたして日本では、あとどれくらいたてば全面禁止されるのか。わたしたち大人の、子どもたちに対する責任が問われている。
セーブ・ザ・チルドレン モンゴル事務所 所長 豊田光明
セーブ・ザ・チルドレンでは、日本国内でも、子ども虐待の予防、家庭を含むあらゆる場面における体罰等の法的全面禁止に向けて、政策提言活動や啓発活動に取り組んでいます。