日本、トランプ大統領の移民難民びっくり大統領令に「ノーコメント」その理由は?

トランプ大統領令は難民受け入れを5万人にすると言って批判を受けている。一方日本は・・・2ケタである。さあ、日本がどう動くかが、問われている。

27日、アメリカのトランプ大統領が発令した"大統領令"が世界中で波紋を呼んでいる。

「国民を、米国への外国人テロリストの入国から保護する」というタイトルのついた大統領令の内容を簡単にまとめるとこうだ。

①難民受け入れに関する措置

・すべての国からの難民受け入れを1/27から120日間停止

・シリア難民の受け入れは無期限に停止

・2017年の難民受け入れの上限は5万人

(昨年9月にオバマ大統領が11万人受け入れると宣言した人数の半分以下)

②「特定の懸念がある」国民の入国に関する措置

・7カ国はシリア、イラク、イラン、イエメン、ソマリア、スーダン、リビア

・永住権保持者であっても、当該7カ国の国籍を持ちかつ大統領令が出たタイミングで外国にいた者は、米国に帰国しようとする場合には入国を拒否されると政府職員が認めた報道もある。

こうして、米国に入国できずに拘束されたり、飛行機に搭乗拒否されたりした人は大統領令の翌日には約280人に上った

自分の国ではないところに送り返されたり、

JALやANAも含め、外国の空港で米国行きの飛行機への搭乗を拒否される事態が始まった。

************アメリカ企業からの反応*************

この動きに対して、アメリカ国内の企業からは反発や批判の声が相次いでいる。

スターバックス

ハワード・シュルツCEOは大統領を強く批判し、

進出先の75カ国で今後5年の間に難民1万人を雇用する計画を発表。

国境沿いに壁を建設するよう命じたメキシコについても支援する姿勢を示し、コーヒー農家への寄付や投資などを通じて「壁ではなく橋を架ける」としている。

Google

Googleはこれまでも、ドイツに逃れた難民とのコミュニケーションのため、Google翻訳に難民が話す言語の単語や文章を提供してほしいとユーザーに要請したり、難民に25,000台のChromebookを提供したりしてきた。

facebook

マーク・ザッカーバーグCEOは「助けを必要としている人々には門戸を開いておくべきだ。それが米国の姿だ」とトランプ氏の対応を批判

マーク氏はドイツで難民にプログラミングを教えるNPOを訪問し賞賛もしてきた。

夏にこのNPOを訪問する機会があったが、シリアやアフガニスタンからの難民の若者たちがいきいきと学びを語ってくれた。

Apple

クックCEOは「アップルは移民なしでは存在しない」とトランプ大統領の政策を支持しない考えを表明。

「何度も言ってきたように、多様性は私たちのチームをより強くします」と語り、影響を受ける社員にはあらゆる支援をすると述べた。

Twitter:

「Twitterはさまざまな信仰もつ移民によって作られています。私たちはいつも彼らの側に立ちます」と移民支持を表明。

「さっさとトランプのアカウントを凍結しろ」とユーザーからTwitter社へリプライが飛び続けているとのこと。

Uber

移民の運転手が多い配車アプリの最大手Uberのトラビス・カラニックCEOは、家族に会うなどの目的で母国に一時帰国したままアメリカに戻れなくなった場合は、財政的な支援をすると発表

彼はトランプ大統領の政策アドバイザーだということで、その立場から大統領に提言するとも宣言。

Amazon:

テロ対策として一時的に入国を停止された7カ国の国籍を持つ従業員をサポートしていく方針を提示。

同社幹部は「この大統領令で影響を受ける可能性のある従業員と、その家族を法的な助言などにより支援する」と社内向けの電子メールで表明した。

Airbnb

民泊サービスAirbnbのブライアン・チェスキーCEOは、米政府によって空港で搭乗拒否にあった難民や学生、グリーンカード所有者たちに向けて宿の無償提供を発表。

マイクロソフト

サティア・ナデラCEOが、「移民の1人として、またCEOとして、移民がこの会社とこの国、そして世界にもたらすポジティブな力を目の当たりにしてきた。この重要なテーマについて、これからも我々の考えを訴えていく」とコメント

GEのイメルトCEOが「当社には名指しされた国の従業員が多く在籍している」と述べたり、ゴールドマンのロイド・ブランクファインCEOが「当社が支持する政策ではない」と大統領令を批判したりするなど、多くの企業が「異議唱えて政権から非難されるか、沈黙して従業員から批判されるか」という選択を迫られている

経済界を取り込みたかったはずのトランプ大統領、

経済界がこぞって反トランプに傾いているように見える今、どう動くのだろうか。

日本企業のトップ発言は、基本謎(苦笑)である。

先ほどラジオで聞こえてきたのは、

キャノンの田中副社長「ちょっと我々は予測不可能、何が起こるかわかりません」

三菱自動車工業の池屋副社長「注意関心をもちたい」

経団連の榊原会長「お袈裟にいうと、世界史的な大変動」

.........うむ、そんなことは誰だってわかっている。

そんな中で、楽天の三木谷浩史社長がツイッターで「差別的な動きだ」「許されない、悲しすぎる」として懸念を示した上で、国際通話サービスをアメリカと入国禁止の国の間で無料にする支援を行うことを明らかにした。

*************アメリカの司法からの反応********************

アメリカ国内の司法も大きく動いている。

ニューヨーク州の連邦裁判所は28日、弁護士の救済申し立てに応じ、大統領令の一部の執行を一時的に停止することを認めた。

カリフォルニアやニューヨークなど全米15州と首都ワシントンD.C. の司法長官が29日、共同声明にてトランプ大統領が大統領令で命じた難民や移民の入国制限を「違憲だ」と非難するとともに、「米国の安全保障や価値を守るために闘う」と宣言している。

そして31日、トランプ大統領は「大統領令を擁護しないように」と司法省の弁護士に指示した司法長官代行を解任した

現在は、この大統領令そのものが憲法違法だという訴訟が起こされている。

**************同盟国各国の反応******************

これに各国は黙っていなかった。

カナダトルドー首相は、

自らのツイッターに

「迫害やテロや戦争から逃げている人たちへ、カナダ人は皆さんの信仰を問わず、皆さんを歓迎します。多様性は私たちの力です#カナダへようこそ」

カナダは、去年までにおよそ3万5000人のシリア難民を受け入れている。

フランスオランド大統領は、

「難民の受け入れといった原則に従うことこそ、民主主義を守る闘いだ」

「不安定で不確実な世界に直面する中で、自国に引きこもるのは絶望的な対処法だ」

ドイツメルケル首相は、

「テロとの戦いは人を出身や信仰でひとくくりにして疑うことを正当化しない」

28日のトランプ大統領との電話会談では、大統領令に遺憾の意を表明し、 難民条約に加盟している国は戦争難民を人道主義に基づき受け入れる義務があると説明した。

イギリスメイ首相は、少し立場が複雑だ。

EU離脱路線をたどる今、トランプ大統領と良好な関係を築きたい。折しもこの大統領令が出された27日が、メイ首相とトランプ大統領のホワイトハウスでの首脳会談であった。

大統領令に対しては

「米国の難民政策は米国の責任」

と述べ、直接批判することを避けた。

入国禁止措置について会見で繰り返し問われたメイ首相が懸念を示す発言をしなかったことに、英国内では失望と批判の声が出ているそうだ。

*****************日本政府の反応******************

そして、本題。日本の対応はどうであっただろうか。

2016年度第3次補正予算案を審議する参院予算委員会が30日の午前に始まった。

毎日新聞によると、安倍首相は、

米政府の考え方を示したものでコメントする立場にない。

難民への対応は国際社会が連携していくべきだ。

と述べた。

・・・つまり「ノーコメント」であった。

それもそのはずだ。

難民に対する政策に関し、日本がアメリカを批判するにはなかなか苦しい。

テレビやネットで日本からも皆トランプ大統領を叩くが、

日本は難民支援が不十分だとして、国際社会に厳しい目を向けられている。

特に、難民認定者数が年間2ケタ台であることについて

「少なすぎる」「現代の状況に合わせた改善を」

などと国連からも注文をつけられてしまっているのが現状だ。

首相は先の国連総会の一般討論演説で、国外での難民問題に972億円の経済支援をする方針を表明したが、日本の受け入れを問われたとき「高齢者や女性の活躍が先」だと返答。

ロイター通信には「安倍首相、シリア難民受け入れより国内問題解決が先」と報道された。

今、アメリカを日本が批判したら

「ではお前の国はどうなんだ」とすぐさまトランプ大統領に言われてしまうであろう。

**************日本の難民政策と実情**********************

さて、そんな日本。実態をもう少し見てゆきたい。

日本の難民受け入れの現状だが、2016年の発表はまだ(もうじき発表か)なので、2015年の数字を見てみると、難民認定申請を行った者は7,586人で前年に比べ2,586人(約52%)増加。

(法務省「我が国における難民庇護の状況等」を参考に筆者作成)

2015年に認定された人数は27人だった。

他に「第三国定住」という制度があり、

日本では "ミャンマーから他国の難民キャンプに逃れている人、年間約30人(!?)"という受け入れ人数枠が毎年決まっていて、政府が連れてきて受け入れたのでプラスの19人

他にも「難民認定はできないけれど、さすがに国に帰せない」という判断が下された人に与えられる「人道的配慮による特別在留許可」という在留許可が79人

しかしこれは、条件も待遇も、難民として受け入れたとはおおよそ言えない。

なので、27+19人=46人

これが、年間の受け入れ人数だったといえよう。

いま日本に逃れて来る難民のほとんどは、飛行機で来日する。

空港で難民申請する場合もあるが、入国管理局で申請をすることが多い。

難民認定申請者に対して、申請後6ヶ月経過しても審査結果が出ていない場合は、

在留資格変更申請をすれば、申請の結果が出るまでの就労が認められる。

自国では

研究者だった、

プログラマーだった、

技術者だった、

美容師だった、

ビジネスをしていた・・・・

そんな若くて元気で能力のある人たちも少なくない。

だが裏を返せば、申請中という理由で日本での「仮滞在」は認められるが、

就労禁止の期間が半年間続く。

国からの仕送りがあれば別だが、持ってきたお金はすぐ尽きてしまう。

彼らはどうやって暮らしているのか。

難民申請者が生活困窮を申請すると外務省の保護費が援助されることになっているが、これも27年3月末時点では受給者は160人のみで、支援団体からは周知不足だとの指摘がある。

(支援団体から物資をもらった帰り道。撮影:著者)

日本には、残念なことに政府の難民キャンプも難民シェルターもない。

NGOが緊急シェルターを用意してはいるが、必要数に追いついてはいない。

日本にたどり着いた彼らの多くが経験するのはまず路上生活だ。

特に、今の寒い時期は辛い。

四谷公園、池袋駅、仮住まいのモスク、24時間やっているマクドナルド・・・・

寒いから朝から終電まで、山手線に一日中ぐるぐる乗っていたという人もいる。

  • アラブの春の混乱後にチュニジアから逃れてきた男性
  • ロシアの軍事侵攻に反対する運動に加わり国家から狙われた男性
  • ミャンマー政府がそもそも国民と認めていないロヒンギャ族の家族
  • トルコ政府からクルド人への弾圧の恐怖から逃れ10代で家族とやってきた女性
  • コンゴDRCの大統領の虐殺に反対する学生運動に参加し家族まで狙われた男性
  • 政権を握る民族と違う民族であることが原因でセネガルで暮らせなくなった男性
  • 空爆の激しいパレスチナから命をかけて国境を超えた男性・・・

国に戻れない(だから"移民"ではなく"難民"なのである)上記のような彼らは皆、現在難民申請中で、3年後、5年後、はたまた10年後かもしれない難民認定を不安定な状況で待っている。

日本の認定認定のプロセスに時間がかかりすぎることは弁護士らも常々指摘している。

精神的にも疲れ果て、肉体的にも限界を迎える。

難民申請した人の中で「仮放免」という立場の人々は、さらに困難な日常となる。

一応、日本国内にとどまることができるが、様々な制限が課されている。

住所登録した県外に出られず、県境をまたぐときには入局管理局の許可が必要だ。

就労や健康保険の加入は認められておらず、3カ月に1度は入管に出頭して、更新手続。

突然の入管施設への収容の恐怖と日々隣り合わせだ。

先日、交流のあるクルド人女性の旦那さんが突然収容された。

今はガラスを挟んでの面会のみ。

いつ出られるかはわからない。

持病の治療も中断したままで、中で体調を崩し、体重が減る一方だと言っていた。

1日数時間の運動時間以外は壁の中で過ごしつつ、

家族とばらばらでなにもすることのない時間を今日も過ごす。

(旦那さんが突然収容されたクルド人女性。入管での面会の日。撮影:著者)

そんな状態で10年以上日本に暮らす申請者も少なくない。

難民の急増に対し「偽装難民」「経済難民」の増加だという指摘がなされることもある。

移民政策のない日本では、就労許可を得る手段として難民ではなくても難民制度を乱用・誤用する外国人もいる。その母数が増えることで、真に難民として保護が必要な方々の審査が長引くと法務省は指摘している。

しかし、仮にそうだとしても本当に難民は、27人だけなのか?

認定されるべき人は0.3%しかいないのだろうか?

先ほど述べたような人々を難民として認めないとしたら、難民とは誰なのか。

難民の保護を専門にする弁護士の先生にも理解不能な不認定の理由はなんなのだろうか?

多くの疑問が残る。

シリアからも日本に逃れてきている方々がいる。

490万人以上の難民を生み出しているシリアの内戦は泥沼化し、

そのほとんどは今もトルコ、ヨルダン、レバノンに逃れて暮らす。

国内避難民も600万人超。

テレビでも見るように、アレッポなどもう90%が瓦礫の山である。

だが、これまで日本で難民認定を得られたシリア人はわずか6人

トランプ大統領令は難民受け入れを50000人にすると言って批判を受けている。

一方日本は・・・2ケタである。

かなしいかな、トランプ大統領が寛大に見えてしまうではないか。

アフリカから来ているある方が、日本で一番辛かったと言っていたのは、

制度の厳しさよりも、経済的な厳しさよりもこんなことだった。

「地下鉄に乗ったとき、席が空いたから座ったんだ。そしたら隣の女性が、あからさまに嫌な顔をして、席を立って僕から離れた。僕の肌が、黒いからかな。ガイジンだからかな。」

「僕はどこにもいてはいけないような気がして、あの日から外にでるのが辛くなってしまった。」

...日本にいる彼らは「生活者としての外国人」として生きている。

難民だということは、外見ではわからない。

そうだとしたら、普通に働いている外国人も、外国人留学生も、日本で育った外国人も、mixed ルーツの人も、同じことに直面しているということではないだろうか。

(日本語を懸命に勉強する難民申請中の方。撮影:著者)

そうなると、法律や、制度のみが問題なのではない。

私たちの心の中に、彼らを受け入れる隙間があっただろうか。

しかし、そんな日本でも、小さくも大きな前進があった。

JICAを通してシリアから5年間で150名の「留学生」受け入れを支援すると踏み切ったことである。※残念ながら「難民」ではない

年間にすると平均30人、と失笑されてしまいそうな人数だが、

日本にとって大きな前進であることは間違いない。

「妊婦は対象外」という規定が波紋を呼んで修正されるという出来事はあったものの、その後も内戦の長期化で祖国へ帰国する見通しが立たない人へ、就職支援をしようというイニシアチブもとられている。

*****************これから*********************

せめてノーコメントではなく、なにか発言できる国に。なにか発言できる人に。

まだまだ日本は、国際社会に対して影響力のある国のはずだ。

賛成であっても反対であっても、わたしたち市民の議論の中に、

もっとこの話題が出てこなければ、首相の口からコメントは出てこないままだ。

もしかしたら今日すれ違ったかもしれない、ご近所に住んでいるかもしれない。

テレビの向こうの話だけではなく、日本にいる難民の方々にも意識を向けていきたい。

「認定人数」は年に2ケタだったとしても日本国内にいま、

難民・難民申請中の人々が2万人はいると推定されている。

1億人以上いる国で、たった2万人。

学校の中に、地域の中に、仕事場の中に、

彼ら・彼女らを受け入れていける余裕と力が日本にはあるはずだ。

私の所属するWELgeeという団体では、

難民の方々と日本人の共生の扉として「難民ホームステイ」を始めた。

一般の日本人家庭の御宅に、難民申請中の方がホームステイに行く。

共に食事をし、話し、時間を過ごす。

お互いを知ることが、共生と寛容への一歩だからだ。

(秋のホームステイは稲刈り体験もしたり。撮影:著者)

農家の家で稲刈りを手伝ったり、「お父さん」と呼ぶ仲になったり、

日本の料理を教えてもらったり、何度も足を運んだりする人もいる。

そこでの笑顔は「難民/日本人」の前に、

我々がひとりの人間同士であることを思い出させてくれる。

彼らの多くは平和になったら母国に戻りたいと願っている。

世界中に日本での思い出と日本人への感謝に繋がり続ける人が増えるのだ。

さあ、どう動くかが、問われている。

不寛容と排斥主義が再びはびこる今、世界は試されている。

日本も、試されている。

トランプ批判の前に安倍さん批判の前に、

これをきっかけに、声をあげよう。

こんな機会がなかったら考えなかったかもしれないのだから、

このピンチは、紛れもないチャンスだ。

国民が「興味なし」だったら、首相もノーコメントのまま。

自分に、自分の学校に、自分の会社に、自分の地域にできることはないだろうか。

沈黙ではなく、対話を。

批判ではなく、提案を。

これからの日本は、多様性を力に変えられる。

ノーコメント」にさせない。

そのために、自分の言葉を紡ごう。

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