多様な精神疾患に関わる遺伝子の働き解明

自閉症や統合失調症、薬物依存など多様な精神疾患に関わるAUTS2遺伝子が神経細胞の動きや神経突起の形態を制御していることが初めて突き止められた。

自閉症や統合失調症、薬物依存など多様な精神疾患に関わるAUTS2遺伝子が神経細胞の動きや神経突起の形態を制御していることを、国立精神・神経医療研究センター神経研究所(東京都小平市)の堀啓(ほり けい)室長、星野幹雄(ほしの みきお)部長らが初めて突き止めた。幅広い精神疾患に共通する病理の解明や新治療法の開発に道を開く成果といえる。12月18日付の米オンライン科学誌セルリポーツに発表した。

AUTS2遺伝子の異常は2002年に自閉症の患者で見つかり、その後、統合失調症や注意欠陥多動性障害(ADHD)、知的障害、薬物依存などのさまざまな精神疾患に広く関連することがわかってきた。てんかん発症への関与も知られており、精神医学で大きな関心の的になった。この遺伝子が作りだすタンパク質は神経細胞の核に存在すると、これまで考えられていた。しかし、その働きはわかっておらず、この遺伝子の異常がどのように各種の精神疾患を引き起こすのかは謎だった。

研究グループはマウス遺伝学の実験でAUTS2の働きを探った。まず、厳密な細胞分画と免疫染色で、AUTS2が作りだすタンパク質が核だけでなく、神経細胞の細胞質、特に突起の部分にも多く存在することを見いだした。また、この細胞質でRac1やCdc42という低分子量Gタンパク質の活性を調節し、神経細胞内部の骨格を形成する網目や糸状のアクチン構造を刻々と変化させることを明らかにした。

神経細胞が動いたり変形したりする際は、細胞内のアクチン構造がダイナミックに再編成されることが知られている。今回見つかった働きで、AUTS2が神経細胞内のアクチン構造を自在に操り、神経細胞の機能や形態変化を制御して、正常な脳神経系ネットワークの形成に関与していることをAUTS2遺伝子破壊マウス(ノックアウトマウス)の実験で確かめた。

研究グループは「胎児期から乳児期に神経細胞が移動し、さらにその後、突起を伸ばして枝分かれし、神経細胞同士がネットワークを構築することで、正常な脳神経系を作りだす。AUTS2遺伝子の機能が阻害されると、神経細胞の移動が障害され、神経突起の伸長と分岐が妨げられて、多様な精神疾患が引き起こされる」と結論づけた。

星野幹雄部長は「精神疾患の遺伝子はこれまで多数発見されたが、それぞれ個別の疾患に関わるものが大半だった。AUTS2遺伝子は幅広い精神疾患に関与するが、その働きがわかったのは初めてで、精神疾患に共通する病理の研究や新しい治療法の手がかりになる。今回、作製したAUTS2遺伝子破壊マウスと同様な神経ネットワークの障害が精神疾患患者でも起きていると考えられる。この動物モデルを使って、AUTS2遺伝子異常によるヒトの精神疾患の病理に迫りたい」と話している。

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