キハダも完全養殖目前に 近畿大学とパナマ、米国の共同研究で

近畿大学の研究者たちが、人工孵化(ふか)させて陸上水槽で育てたキハダの稚魚を海面生簀(いけす)で飼育することに成功した

クロマグロ完全養殖を実現させた近畿大学の研究者たちが、パナマ、米国の水産関係機関との共同研究で、人工孵化(ふか)させて陸上水槽で育てたキハダの稚魚を海面生簀(いけす)で飼育することに成功した。幼魚に成長したキハダは、現在、より管理が容易な陸上水槽に戻され、現在体長30センチの大きさまで成長している。研究グループは、2年後の完全養殖を目指す、と言っている。

このプロジェクトは、科学技術振興機構と国際協力機構(JICA)が進める事業「地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)」の一つ。クロマグロ完全養殖の実績を持つ近畿大学と、パナマ共和国水産資源庁(ARAP)、全米熱帯マグロ類委員会(IATTC)との共同研究として2010年にスタートした。澤田好史(さわだ よしふみ)近畿大学水産研究所教授が代表研究者を務める。

パナマ共和国のIATTCアチョチネス研究所で進められている飼育研究は、陸上水槽で飼育されていたキハダ親魚の死亡が続き産卵が停止したり、産卵再開後も卵質が悪く、孵化した仔魚(しぎょ)の生存率が低いなど、困難な時期もあった。野生親魚の捕獲を継続的に行うことで産卵が再開され、良質な受精卵が得られるようになったのは、今年の4月。

IATTCアチョチネス研究所の陸上水槽で人工孵化させ、52日間で体長が平均約12センチになった稚魚238匹を、同研究所沖合の海面生簀に移送した。配合飼料やその給餌方法さらに波の荒い海域での生簀維持方法の工夫などにより、受精卵から幼魚までの飼育に成功したという。生簀で生存していた幼魚68匹(平均体長18.7センチ)を7月上旬に再び陸上に移送し,大型水槽に戻している。現在の推定生存数は18匹という。

共同研究は、パナマ、日本ひいては世界の持続可能な漁業と養殖を支援するとともに、人材育成も大きな狙いとしている。今回の成果は、中南米のマスコミで広く報じられており、パナマと周辺国での関心の高さがうかがえる。また日本にとっても、若手研究者・技術者、大学院生が、海外の研究者・技術者との共同研究を体験することで、将来の国際的な活躍につながることが期待できる、と研究チームは言っている。

関連リンク

・科学技術振興機構「SATREPS2014 生物資源

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