マラリア薬剤耐性のタンパク質を解明

マラリア原虫の薬物耐性の原因となるタンパク質の働きを分子レベルで、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の森山芳則教授、表弘志准教授、樹下成信助教らが初めて突き止めた
Mosquito (Theobaldia annulata) sucking blood.
Mosquito (Theobaldia annulata) sucking blood.
Photographed and edited by Janos Csongor Kerekes via Getty Images

マラリア原虫の薬物耐性の原因となるタンパク質の働きを分子レベルで、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の森山芳則(もりやま よしのり)教授、表弘志(おもて ひろし)准教授、樹下成信(じゅげ なりのぶ)助教らが初めて突き止めた。マラリアの新薬開発など治療を前進させる新しい手がかりになりそうだ。3月2日付の米科学アカデミー紀要オンライン版に発表した。

マラリアはエイズ、結核と並ぶ世界3大感染症のひとつで、治療薬に耐性を持つマラリア原虫の出現が問題になっている。ハマダラカによって媒介される熱帯の感染症で、現在でも全世界で年間2億人が感染し、60万人以上の死者を出している。地球温暖化で流行域の拡大も懸念され、その対策は人類的な課題になっている。第2次世界大戦中に抗マラリア薬としてクロロキンが使われだしたが、1957年にはクロロキンの効きが悪い耐性のマラリア原虫が出現して世界中に広がり、対策は困難さを増した。

その薬剤耐性の原因として、マラリア原虫の細胞内器官の消化囊にある膜タンパク質のPfCRTの変異がわかっている。しかし、マラリア原虫の遺伝子は特殊で、膜タンパク質の生産が難しく、詳しい解析はできないまま、この膜タンパク質の働きは謎だった。研究グループは、PfCRTの遺伝子を全合成し、大腸菌の遺伝子に組み込んで、独自に開発した手法で、この膜タンパク質の正常な野生型と変異型の両方を大量に作らせた。できたタンパク質をそれぞれ精製して、人工リポソームの膜に入れ、その輸送活性などを測定した。

その結果、PfCRTがクロロキンなどの薬物を輸送するとともに、アミノ酸やポリアミンなどの栄養物質を輸送することを確かめた。アミノ酸はマラリア原虫が生きていくのに欠かせない栄養素だ。クロロキンは、ヘムの無毒化を阻害して有毒なヘムを蓄積させる一方、アミノ酸輸送を抑えてマラリア原虫を飢餓状態に陥らせる仕組みが新たにわかった。この膜タンパク質PfCRTが変異すると、クロロキンを盛んに排出した。同時に栄養物質を消化嚢から細胞質に輸送してマラリア原虫に利用させて、合わせ技で薬剤耐性を獲得していた。

森山芳則教授らは「マラリア原虫の薬剤耐性の原因をタンパク質のレベルで解析でき、マラリア対策の課題解決に前進した。PfCRTが運ぶ物質がわかったため、効果的な薬物を選び出すのに使える。この膜タンパク質をターゲットにした新薬の開発も期待できる。温暖化に伴う感染流行地域の拡大や、薬剤耐性の増加など問題が多いマラリア対策に、重要な手がかりになるだろう」と研究の意義を指摘している。

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・岡山大学 プレスリリース

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