経済協力開発機構(OECD)の原子力機関(NEA)は2月29日、原子力安全確保は経験と研究を通し学ぶ中で進化し、不断に規制と実践を見直すことによって発展し続けるものであることを強調する報告書を公表した。
報告書「福島原子力発電所事故後5年の原子力安全」は、福島原発事故後これまでにNEAが指摘した改善項目に対し、加盟各国の取り組みが進んでいることを認めている。原発そのものに起因する内的ハザードだけでなく、津波のような外的ハザードに対する評価手法のさらなる発展・向上や、極端な自然事象時でも炉心から熱を除去できるような代替経路での冷却水の提供、受動的冷却機能の整備などさまざまな対応だ。
その上で「安全とは、運転経験の評価と研究を通じてわれわれが学ぶことにつれて発展するプロセスである」として、重大事象の際に利用できる多重的かつ多様な電源を確保する追加的な可搬型電源や新型または改良された固定設備の導入、格納容器ベントや水素の低減に関して原発の能力を向上させるための取り組み、使用済み燃料プールの水位と温度表示機能の多重性や冷却水供給の多様性確保、といったさまざまな課題に対して今後も引き続き努力を続ける必要を挙げている。
また「極限の状況下における確実なヒューマンパフォーマンスの重要性」も福島原発の重要な教訓として挙げ、原子力安全文化の重要性について理解し、根付かせる努力の必要をあらためて強調している。さらに深層防護やリスクの知見の活用の重要性もあらためて指摘した。
関連リンク
・OECD東京センタープレスリリース「福島原子力発電所事故後5年の原子力安全」
サイエンスポータルの過去の関連記事
・2016年1月28日「リスク評価のずさんさ 福島原発事故最大の教訓か」
・2015年1月29日ハイライト・原子力発電所過酷事故防止検討会 主査 宮野 廣氏「防災まで含めたリスク評価を 原子力安全向上に不可欠」
・2015年8月11日ニュース「川内原発再稼働 新規制基準下で初めて」
・2015年8月7日オピニオン・東京都市大学 客員教授 宮林正恭 氏「クライシスマネジメント-緊急事態が起こった時の対応」第1回「トップの覚悟と最前線の判断力」
・インタビュー・原子力発電所過酷事故防止検討会主査、法政大学大学院客員教授 宮野 廣 氏「原発安全確保に欠けているもの」
第1回(2015年6月3日)「対応策万全か常に検討する仕組み必要」
第2回(2015年6月5日)「『リスクとは何か』の理解不可欠」
第3回(2015年6月12日)「国、学界、事業者、製造者の責任明確化を」
・>2015年6月1日オピニオン・宮林正恭 氏・東京都市大学 客員教授「リスクマネジメントに対する正しい理解を!」
・2013年2月8日レビュー「原発過酷事故防止には人材も」
・2011年8月25日元東北大学 総長 元総合科学技術会議 議員 阿部博之 氏「大震災と科学者(技術者)の倫理(エートス)」
;nbsp;第1回「"想定外"とは、安全設計の意識がないこと」
・2011年3月20日緊急寄稿・産業技術総合研究所 活断層・地震研究センター 海溝型地震履歴研究チーム長 宍倉正展 氏「地層が訴えていた巨大津波の切迫性」