微小渦が大きな渦を活性化して海洋循環

冬に50㎞規模の小さなスケールの渦(サブメソスケール現象)が活発化すると、よりスケールの大きい100~300km規模の現象(メソスケール現象)の中規模渦に運動エネルギーが移って活性化させ、海洋循環の季節変動に大きな影響を及ぼしている。

海洋はさまざまな渦に満ち、大きさの異なる渦が作用しあって大循環につながる。冬に50㎞規模の小さなスケールの渦(サブメソスケール現象)が活発化すると、よりスケールの大きい100~300km規模の現象(メソスケール現象)の中規模渦に運動エネルギーが移って活性化させ、海洋循環の季節変動に大きな影響を及ぼしている。こうした渦がもたらす海洋循環のダイナミズムを、海洋研究開発機構の佐々木英治(ささき ひではる)主任研究員と笹井義一(ささい よしかず)主任研究員らが初めて解明した。

日本南岸を通過して東に流れる黒潮続流の周辺で、冬に海洋表面の混合層(密度が一様の海水層)が厚くなり、その混合層内で発生する微小な渦や筋状の流れのような1~50㎞規模の微小なサブメソスケール現象の影響を調べるため、同機構のスーパーコンピューター「地球シミュレータ」(横浜市)で数値計算して確かめた。フランス国立海洋開発研究所とハワイ大学との共同研究で、12月15日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。

海洋における中規模渦の活動は、地球規模の熱循環、海洋生態系や二酸化炭素(CO2)などの物質循環に大きな役割を担っているが、微小渦と中規模渦が具体的にどのような関係があるかは十分にわかっていなかった。研究グループは、2001年1月~02年12月の北太平洋の渦と黒潮などの大規模循環を再現する数値計算をした。計算には、地球シミュレータで高解像度海洋モデルを使い、従来の10kmメッシュよりも高解像度の3kmメッシュで解析した。

予想の通り、大気が海洋を冷却する冬に黒潮続流の周辺の広い海域で混合層が厚くなり、その混合層の内部で微小渦や筋状構造の小さなサブメソスケール現象が活発になる一方、大気が海洋を暖める夏には混合層が浅くなり、サブメソスケール現象が穏やかになる季節変動を精度よく再現できた。この季節変動は海面高度から推定した流速の回転運動の強さともよく一致し、高精度の海面高度からサブメソスケール現象の季節変動を診断できることが裏付けられた。

また、スケールごとの渦の振る舞いを詳細に解析した。冬季の厚い混合層内で活発になった25km~100km規模のサブメソスケール現象の運動エネルギーが、メソスケール現象(中規模渦)を含むより大きなスケールに移り、それらを活性化させていることがわかった。一方、半径が25km未満のごく小さな渦や筋状構造は、運動エネルギーが周囲の大きな渦に取り込まれることなく、消滅することも確かめた。また、小さな渦から大きな渦への遷移は、晩冬から数カ月継続し、大きな渦の季節変動をもたらしていることも判明した。

研究グループは「微小渦が中規模渦の発生に多大な影響を及ぼすことが明らかになった。今後、高解像度海洋モデルで全球規模の再現実験を行い、さらに地球温暖化による海面水温の上昇が渦の挙動に与える影響を推定することによって、渦の挙動と海洋循環の関係の解明が進むだろう。今後10年の間に打ち上げ予定の地球観測衛星がもたらす高解像度の海面高度データは、全球レベルで中規模渦、微小渦の詳細な空間分布、季節変動を捉えることが期待される。この衛星観測データで、今回の数値計算結果も検証したい」としている。

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海洋研究開発機構 プレスリリース

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