生物には驚くべき能力が秘められている。磁性細菌の磁気微粒子合成に関与するタンパク質(酵素)を見いだし、これまでに知られていなかった磁気微粒子の結晶の形を制御する仕組みを、東京農工大学大学院工学研究院(東京都小金井市)の新垣篤史(あらかき あつし)准教授と大学院生の山岸彩奈(やまぎし あやな)さんらが解明した。
今回見つかった酵素を遺伝子工学的に利用すると、ダンベル状やロッド状など新しい形の磁気微粒子が合成できることも示した。7月の米科学誌Molecular Microbiology オンライン版に発表。多様な形のナノ磁石を大量合成して、医療分野の検査試薬、磁気記録媒体の材料、ポリマー合成の触媒に応用するなどの産業化にも道を開く成果として注目される。
細胞内に鉄分を取り込んで独自の磁気微粒子の結晶を合成し、それを鎖状に並べて磁石として使ったりする磁性細菌は川や海の泥の中にごく普通に存在する。自ら作った磁石を生存に有利になるよう活用しているらしい。研究グループは小金井市内の川の底で採取した磁性細菌で詳しく研究した。まず磁性微粒子の周囲に多い4種類の酵素を分離した。この酵素を作れないようにした遺伝子欠損株を作製して、その機能を解析した。
4種類とも磁性微粒子を合成する働きがあり、それぞれが促進する結晶成長の方向や結晶表面が異なっていた。磁性細菌の細胞内では、これらの酵素の発現のバランスによって、磁気微粒子の形や大きさが左右されていることがうかがえた。さらに、これらの遺伝子が欠損した磁性細菌は、人工的な合成が難しいロッド状の形や、報告例のないダンベル状まで合成することを確かめた。
研究グループの新垣篤史准教授は「生物が合成する結晶の形を制御する仕組みを明らかにした点に、われわれの研究の意義がある。自然界でも探せば、多様な形の磁気微粒子が見つかるかもしれない。磁性細菌の酵素をうまく利用すれば、さまざまな形のナノ磁石も自在に調節して、合成できるだろう」と話している。
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