大学院を修了して博士号を取得したポストドクター(ポスドク)の就職難は誠に深刻である。その実態の一端を、科学技術・学術政策研究所の小林淑恵(こばやし よしえ)上席研究官と渡辺その子総括上席研究官がまとめ、6月5日発表した。
それによると、任期付きで不安定なポスドクの人が毎年、「常勤で任期なし」の正規職員に移行する比率は、男性で7.0%、女性で4.4%、男女平均で6.3%になっていた。この率は、ほかの調査(慶応大グループが実施している「慶応家計パネル」)が示した、契約社員や派遣職員らから正規職員への移行率に比べると、極めて低かった。ほかの学歴の比較では、男性の正規職への移行率が特に著しく低いことがわかった。
研究グループは、文部科学省基盤政策課(当時)が実施した「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査-大学・公的研究機関への全数調査(2009年度実績)」の個票データを用い、研究機関や大学で任期制の研究員として在職していた延べ1万7千人について分析した。ポスドクは「博士号を取るか、大学院博士課程を修了するかして、大学や研究機関に任期付きの非常勤で在籍している人たち」として調査した。日本の社会はもともと、非正規雇用の人々に厳しいが、ポスドクは正規職に就くのが難しい実態がよりはっきりした。
調査したポスドクは、4分の3が男性、4分の1が女性、全体の4分の1は外国籍。分野別では、理学と工学でそれぞれ約30%を占め、農学、保健(医・歯・薬・看護)、人文・社会は各10%台だった。年齢は40歳未満が87%を占め、30~34歳が全体の半数近くで、最も多かった。年齢が上がるにつれて、全体数が急減する中で、女性の比率が増加していた。女性の方が正規職になれないまま、少数だがポスドクに滞留する傾向が浮かび上がる。
正規職への年間の移行率は35~39歳で最も高くなっていたが、それでも、平均7.2%にとどまった。全般に女性の正規職移行率が低い。大学卒の女性は、ほかの学歴より移行率が高いが、大学院を終えてポスドクになった女性の場合、4.4%と中・高卒以下だった。博士号取得後に正規職に就くまでは平均4.8年かかっていた。半数程度が大学の教員、4割が研究機関の研究開発職になり、非研究職に移るのは1割に達しなかった。主婦や無職になる人も1割程度いた。
研究グループは「ポスドクの移行率を示したのは初めてだ。近年は、任期を繰り返して不安定な地位にいる期間が長引く傾向にある。任期の変わり目の5年目あたりで、安定した職への移行を支援することが必要だろう。今回は2009年のやや古い調査結果なので、12年の調査データを基に現在分析を進めている。正規職への移行の低さは、特任助教などの任期付き雇用制度とも関連していると思われ、今後明らかにしていきたい」としている。