温暖化対策の新しい時代を切り開く「パリ協定」成立
気候変動(温暖化)は、よく今世紀最大の地球環境問題であると言われます。その理由は、それが、文字通り、地球全体の環境に影響するからというだけではなく、現在、私たちが既に抱えている社会問題全般に悪影響を与えるからです。
たとえば、温暖化によって引き起こされる影響の中には、異常気象、干ばつ、感染症の拡大、食料生産への被害、海面上昇による土地消失などが含まれます。これらは、貧困、格差、食料難、水不足、難民といった、私たちが今現在抱える深刻な問題を、より一層悪化させることに繋がります。そして、その影響は、決して遠い未来の話ではなく、現在進行形で起きているのです。
2015年9月に採択された国連の「持続可能な開発目標」(SDGs:Sutainable Development Goals)において、「気候変動(温暖化)」が、目標13として位置づけられたのは、そうした背景があります。
SDGsの採択に続き、2015年12月12日、気候変動に関する国際的な取り組みを規定する条約として「パリ協定」が採択されました。これは、フランス・パリで11月30日より開催されていたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)です。今回のCOP21では初日に150カ国以上の首脳が集い、合意成立へ向けての努力を宣言し、そして2週間の厳しい交渉の末、対立を乗り越えて合意に至ることができたのです。
「パリ協定」採択の瞬間(※筆者も含めNGO等のオブザーバーは、オーバーフローという名の別室からスクリーンを通じて見る形式だった)/©WWFジャパン
パリ協定の採択には、様々な困難があった
気候変動(温暖化)を食い止める、という大きな目標には、全ての国が賛同しつつも、その取り組みに当たっての努力・責任の分担のあり方に、国々の間で大きな意見の違いがあったからです。
気候変動対策は、原則としては温室効果ガスの排出、中でも、二酸化炭素の排出量を大幅に削減していくことが必要です。そのためには、主な排出源である化石燃料(石炭・石油・ガス)の使用を減らし、それらに依存するエネルギー経済からの根本的な脱却が必要です。
産業革命以降、化石燃料を大量に使用することで発展してきた先進国は、同時に、現在の気候変動を引き起こしてきた責任ある国々でもあります。他方、途上国と呼ばれる国々の中でも、近年では、中国・インドのように、排出量で言えば、世界1位・3位の国々が含まれます。こうした状況を受け、先進国の側からは途上国の取り組みをより求める声が、途上国の側からは先進国の責任と取り組みを求める声が強くあがり、交渉を難しくしてきました。
こうした意見対立の構図は、気候変動に関する国際交渉に永らく影を落としてきました。
COP21会場入り口/©WWFジャパン
「2℃未満」に抑えるために
合意されたパリ協定は、世界全体の平均気温の上昇を産業革命前と比較して、「2℃未満」に抑えることを掲げています。さらに、「1.5℃」に抑えて、気候変動の影響とリスクを抑えることに努力することにも言及しています。後者への言及は、気候変動に対して特に脆弱な小島嶼国や後発開発途上国の主張を反映したものです。
そのために今世紀後半には、世界全体の人為的な温室効果ガス排出量と森林などの吸収源による吸収量を「バランスさせる」ことを目標として掲げています。これは、事実上、今世紀後半には温室効果ガスの排出量をゼロにしていく方向性を打ち出したもので、化石燃料に依存した経済からの完全な移行を打ち出したと言えます。
この目標達成に向けて、各国は5年ごとに目標を見直し・提出していくことが義務づけられています。現状、各国が掲げている目標では「ゼロ」の方向には足りていないため、この5年ごとの見直しを通じて、徐々に取り組みを高めていこうということが狙いです。
こうした目標を実現するためには、資金支援を必要とする国も多く、今回のパリ協定の中では、先進国に加え、自主的ではあるものの途上国から途上国への支援が求められていることも盛り込まれています。さらに、迫り来る気候変動の影響に対して備えるための「適応」対策を、国際的に調えていくことや、適応しきれずに実際に損失や被害が発生してしまった国々への救済支援を行うことも盛り込まれています。
これら全体を通じて、気候変動という危機に抗していく決意が「パリ協定」には体現されています。しかし、パリ協定はあくまで合意文書にしか過ぎません。今後、その内容を実施していくためには、具体的な対策をとっていくことが必要です。現在の日本では、決して気候変動(温暖化)対策に積極的とは言えない状況です。
パリ協定が効力を持つのは2020年ですが、取り組み自体は明日からも加速させていかなければなりません。
気候変動・エネルギーグループ・リーダー
山岸 尚之