軽減税率~社会保障や子ども・子育て対策の財源を削ってまで導入したい理由は何か?

軽減税率は、お金持ちであればあるほど大きな恩恵を受けることが、データで明らかになっています。

現在、自民党と公明党の与党間で、消費税に軽減税率を導入すべく議論が行われています。軽減税率とは、消費税率を8%から10%に引き上げる時に、ある分野の商品に限って、10%に引き上げずに8%のまま据え置くという考え方です。8%に据え置く品目として、生鮮食品や加工食品が検討されているようです。

これだけを聞くと、「毎日のように買う食料品の消費税が8%に据え置かれるのは、良いことではないか」と思われると思います。生活必需品、特に食料品を買われる国民から見れば、税率は低いに越したことはありません。我々政治家も、誰一人として、喜んで消費税を上げたいとは思ってはいませんし、上げないに越したことはありません。

ではなぜ、消費税を上げるのでしょうか?

それは、我が国が莫大な借金を抱え、人口は減り続け、しかも若い人=生産人口が減る一方で、医療・年金・介護などにお世話になる高齢者が増えているからです。国民に厳しい生活を強いることになる財政破たんは絶対に回避しなければなりません。国家百年の計として少子化対策もやらなければなりません。

年金生活者は今や3,950万人に及び、そのうち1,023万人が、基礎年金(月額6万5千円)しかもらっていません。年金生活者の62%は年金収入だけで生活しています。こうした年金生活者のために、基礎年金の最低保障機能も強化しなければなりません。医療・介護には見直すべき部分も多々ありますが、絶対的に高齢者人口が増え続ける中で、国民の命と健康を守るためには、より財源が必要になります。もう一度言わせて下さい。

私を含めて、好き好んで消費税を上げたいと思っている議員は一人もいません。しかし、日本の構造問題を解決し、ナショナルミニマム(国家として最低限、国民に提供すべき行政サービス)を維持し続けるために、どうしても財源がいる。だからこそ、消費増税を国民にお願いしているのです。

ひるがえって、軽減税率を導入することになれば、それだけ社会保障や子ども・子育ての財源が不足することになります。しかも軽減税率は、お金持ちであればあるほど大きな恩恵(税負担軽減の金額)を受けることが、データで明らかになっています(後述)。なぜなら、所得の高い人ほど、お米にしても、お肉にしても、高い物を買う傾向があるからです。お金持ちに大きな恩恵を与え、その分、社会保障や子ども・子育てに回すべきお金を減らす。

こんな本末転倒が、軽減税率を導入することで発生するのです。

2012年、まだ民主党政権の時でしたが、私は政策調査会長を任され、「社会保障と税の一体改革」実現のために、党内の取りまとめ、自民党・公明党との調整に奔走していました。

私たちがまとめた「社会保障と税の一体改革」の基本をなす税制抜本改革法第7条第1項には、「低所得者に配慮する観点から、・・・『総合合算制度』(医療、介護、保育等に関する自己負担の合計額に一定の上限を設ける仕組みその他これに準ずるもの)、『給付付き税額控除』(給付と税額控除を適切に組み合わせて行う仕組みその他これに準ずるもの)等の施策の導入について、所得の把握、資産の把握の問題、執行面での対応の可能性等を含め様々な角度から総合的に検討する」「低所得者に配慮する観点から、『複数税率』の導入について、財源の問題、対象範囲の限定、中小事業者の事務負担等を含め様々な角度から総合的に検討する」と書かれています。

『総合合算制度』や『給付付き税額控除』は、所得制限を設けて、低所得者に対してまさにピンポイントで逆進性対策、つまり消費増税でより影響を受ける方々に対する負担軽減措置を行う制度です。他方、『軽減税率』(=複数税率)は、所得制限なく、8%に据え置かれた品目を買えば誰でも税が軽減されますから、低所得者以上に高所得者に恩恵が及びます。

しかも、税率が複数にわたることになりますから、ご商売をされている方はインボイス(税額票=販売した商品それぞれの適用税率、税額などが記載されている書類)というものが必要になり、手続きはかなり煩雑なものになります。

下の図を見て頂ければお分かりのように、軽減税率では逆進性対策にはほとんどならず、逆に、総合合算制度や給付つき税額控除は、所得を区切って対策が取られる分、効果的な逆進性対策を行うことができるのです。

2015年11月10日、衆議院予算委員会でのこうした私の指摘に対して安倍総理は、所得や資産を把握する「マイナンバー制度の運用に課題がある」と答弁しました。そもそも、財務省がはじめに出してきた「日本版軽減税率方式」はマイナンバー制度を前提にしていましたし、マイナンバーを導入する政府の責任者が、課題があるからといって否定するのはマイナンバー制度そのものの信用にかかわる重大な発言です。

唯一、安倍総理から得られた答弁で理解・納得できたのは、「連立与党で決めたことだから」というものでした。つまり全く合理的な理由ではないのです。公明党に来年夏の参議院選挙などで応援をしてもらいたいから、公明党が求めている軽減税率は、逆進性対策に有効かどうか、効率的な制度かどうか、こうした理屈の如何にかかわらず導入する、と正直に答弁したのです。

今後、消費税が未来永劫10%に収まると考えている人は少ないと思います。もしそうなのであれば、今ここで食料品だけ8%に据え置くのだとすると、他の品物はより高い税率にしていかなければ、社会保障や子ども・子育ての財源が確保できないということになり、不公平はさらに拡大することになります。

国民を、侮ることなかれ。

ポピュリズム政治・政策で国民の歓心を買うのではなく、正々堂々と、国民に日本の現状と課題を話し、その対策としての負担を求める。そんな正直な政治に、逃げずに取り組んでいきたいと、私は思います。

(2015年12月2日前原誠司の「日々是好日」より転載)

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