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2018年10月18日 07時00分 JST | 更新 2018年10月18日 10時17分 JST

花嫁や妊婦がInstagramにハマるのはなぜ? ハッシュタグで浮かび上がる女たちのリアル

私たちは、スマホ片手に“人並み“感覚を探していた。

博報堂
みんなって誰だ

「#プレ花嫁」というハッシュタグで"人並み"を探る。

一昨年、第一子を出産しました。今年から仕事に復帰し、一番嬉しいのは、日々いろいろな人と会話できることです。話には聞いていましたが、産休・育休中は外との関わりが激減。子どもはかわいいけれど、やっぱりどこか寂しかったような気がします。たまに友人に会うと、いつも以上におしゃべりになって、少々うざがられていたりもしていました。

育休中に結婚式を挙げたので、私にとっての育休は、結婚式準備期間でもありました。旦那は任せてくれるタイプだったこともあり、孤独と闘いながら準備をしていました。(かわいい赤ちゃんは泣いても相談には乗ってくれませんので!)

そんなときの息抜きは、Instagramでほかの人の結婚式準備や出産準備の投稿を眺めること。

結婚式も育児も初めてのこと不安が多かったのですが、Instagramで同じような人の投稿を見ることで、みんなはそうしてるんだ、じゃあ私はこうしよう、と大変な準備も乗り越えられたのです。

Instagramでは「#プレ花嫁」 、「#プレママ」というハッシュタグで繋がっているコミュニティがあります。結婚式前や妊娠中の女性たちが、結婚式や出産の準備について、写真やノウハウを投稿しているのです。

ちなみに、ハッシュタグとは、SNSに投稿する際に#をつけたキーワードをタグ化したもの。同じハッシュタグをつけている投稿は、検索して一覧で見ることができます。

育休中に結婚式を迎えようとしていた私は、ハッシュタグを通じて、(私と似たような状況の)ほかの人はどうしているのか?という"人並み"を知ろうとしていたのです。

申し遅れましたが、私は博報堂生活総合研究所というシンクタンクで生活者についての調査・研究をしている荒井 自如(あらい じにょ)と申します。生活総研では現在、「#みんなって誰だ」というテーマで「個」の時代の先にある新しい大衆像について研究し、その成果をこの連載で紹介しています。私は自分の育休中の体験をもとに、Instagram上に生まれる新しい"人並み"意識についてお伝えします。

無敵ハッシュタグ「 #プレ花嫁」「#プレママ」

「#プレ花嫁」「 #プレママ」は数あるハッシュタグの中でも、無敵ハッシュタグと言われることがあります。このハッシュタグをつけて投稿すれば、似た境遇の女性たちと繋がることができ、フォロワーが一気に増えることも...。

結婚式準備中の花嫁が使う「#プレ花嫁」は約385万件、特に第一子の出産を控えた妊婦が使う「#プレママ」は約88万件(2018年10月16日時点) の投稿があり、どちらも毎日すごい勢いで投稿数が増えています。

増え続ける関連ハッシュタグ

2つの基本ハッシュタグ「#プレ花嫁」「#プレママ」に加えて、より詳しく自分の属性や状況を表せる関連ハッシュタグも増え続けています。

たとえば、プレ花嫁関連でいえば、#2018秋婚 #リゾ婚 #関西プレ花嫁など。プレママでは、#妊娠6ヶ月 #12月予定日 #男の子ママ予定など。

自分と同じタイミング、同じ境遇、同じ好み...共通点が多ければ多いほど、参考度も共感度も高くなります。タイミングや状況に応じてハッシュタグは変わるので、関連ハッシュタグはこれからも増えていくでしょう。

実際、どんな投稿が並んでいるのでしょうか。

例えば、プレ花嫁であれば...

  • どんな基準でドレスを選んでいるのか?
  • 小物などのアイテムはどう作ればいいのか?
  • 引き出物は何がいいのか?

プレママであれば...

  • 出産準備は何を用意すればいいのか?
  • どんな服を着ればいいのか?
  • 出産前にしておいた方がいいことは?

などなど、尽きることのない興味や悩みが写真やテキストで並びます。実際に私も「#プレ花嫁」のハッシュタグで投稿されていたグラノーラをプチギフトにして、友人たちから「センスいいね」と褒められました。#プレ花嫁、さまさまです!

プレ花嫁でも、プレママでもない、まったく関係ない人からしたら、「自分の幸せを見せびらかして自慢し合っている」という風に映るかもしれません。でも実際には、「みんなどうしてる?」「私はこうしたよ」を情報交換するための、かなり内輪向きの場なのです。

自分と同じ人を見つけて安心したい

なぜ、見ず知らずの他人同士で情報共有をしあうのか。そこにはプレ花嫁・プレママ特有の「不安感情」があります。

結婚式を控えたプレ花嫁、出産を控えたプレママに待っているのは、人生で初めての、しかも(恐らく)人生に一度しかないイベント。準備期間は楽しみだけど、分からないことだらけで不安です。彼女たちは、"人並み"を知ることで、参考にしたり、安心したりするのです。

Instagramは、住んでいる地域も年齢も職業もバラバラの人たちが「境遇」という共通点で繋がることのできる、非常に便利なプラットフォームなのです。

Instagramの魅力は「リアル」感

もちろん同じ境遇の人は、Instagramの外にもいます。最近ではプレ花嫁限定のイベントやプレママ向けの地域の講習会なども増えています。そこでも情報交換はできるし、雑誌やwebサイトを見ても、先輩花嫁や先輩ママの体験談などを知ることはできます。

でもInstagramはちょっと違うんです。他の場所では得ることのできない独特な「リアル」感があるのです。

ハッシュタグを追いかけていれば、すでに終わった経験の話だけでなく、「リアルタイム」でどんどん更新されていくプレ花嫁、プレママたちの状況に、期間中ずっと接することができます。

Instagramが、文章ではなく写真がベースのSNSであることも「リアリティ」を生んでいます。継続的に投稿される写真を見ていれば、その人となりもなんとなく知ることができるからです。

そもそも、結婚も出産も十人十色。本当に参考にしたい人、共感できる人を見つけるのは、身の回りであれネット上であれ至難の業です。ですが、Instagram特有の「リアル感」によって、自分が「この人、同じだ!」と思える人を、直感的に見つけられるのです。

ハッシュタグを通じた独自の経済圏「#幸せバトン」

プレ花嫁の関連ハッシュタグをたどっていると、気になるキーワードに出会いました。

「#幸せバトン」です。

何かと思って調べてみると、結婚式を終えた人がドレスや小物などを譲る(売る)ためのハッシュタグで、「#お譲りします」というハッシュタグとも一緒に使われることが多いようです。

物品の売買という意味では、フリマアプリと同じなのですが、Instagramの投稿を見れば、どんな結婚式をしたのかが詳しく分かるので、自分のイメージする結婚式・花嫁姿に近ければ、より確信を持って譲ってもらう(買う)ことができます。

「売りたい人」と「買いたい人」を適切にマッチングさせることは商売の基本ですが、このハッシュタグの下にも、独自の経済圏ができあがっていたのですね。

他にも、「#卒花嫁レポ」とつけて、どんな結婚式だったかをレポートする人や、試着したドレスやアイテムなどを、詳しく書いている人もいます。自分がいろんな人を参考にしてきたように、自分の経験が少しでも次の人の役に立てればという気持ちがあるのでしょう。

引き出物やブーケなどの具体的な購入先を紹介するような投稿もあり、それを見て実際に購入する人もいます。

ライフイベントごとに生まれる"人並み"

実は、結婚式や出産が済んだ女性が、次の"人並み"を知るハッシュタグも存在します。「#新米ママ」「#入園準備」「#入学準備」、はては「#家づくり」というようなハッシュタグまで。

特に女性はライフステージによって生活が変わることが多く、新しいステージに入るときには不安がつきまといます。そんなときに、自分と同じ境遇のハッシュタグを通じて、みんなはどうしているのか?を知ることで安心できる。

ライフイベントごとに細かくハッシュタグがあり、その「同じ境遇の人」たちの中での新しい"人並み"を生んでいるのです。

そこには、親や友人から聞く知恵や、テレビや雑誌から得る情報とは一味違うリアル感があります。

ライフイベントの期間中だけ、ハッシュタグにゆるやかにみんなが集い、終われば離れてまた次のハッシュタグに集まる...女性たちは、自分の状況に合わせて、様々なハッシュタグを飛び歩いていきます。

これからもさまざまな#プレ○○的なハッシュタグが生まれ、みんなの"人並み"が形成されていくのでしょう。

執筆を担当した研究員

荒井 自如

博報堂生活総合研究所 研究員

2012年博報堂入社。営業として、酒類、飲料、トイレタリーなど様々な企業の戦略立案・広告制作に携わる。1年半の産休・育休を経て、2018年から現職。