農家が人手不足なら、補助金をやめて農産物を輸入しよう (塚崎公義 大学教授)

攻める農業と止める農業を峻別しよう
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日本は、農産物に関税を課しています。それは外国からの安い農産物が流入して農業従事者が失業すると困るからです。しかし、昨今は農業従事者が高齢化により引退して、農業が労働力不足になり、外国人労働者を受け入れる必要が出てきたそうです。それならば、外国の農産物を輸入すれば済む話でしょう。

■農業が労働力不足だから外国人労働者を受け入れ

日本の農業従事者は、高齢者が多いので、彼らが引退していくと農業が労働力不足になっていくのは自然なことです。その分だけ外国人労働者を受け入れよう、という発想も、自然なものだと思います。しかし発想が単純すぎます(笑)。

日本は農産物の輸入を関税等によって制限しています。その理由は、農産物の輸入を自由化すると、安い外国の農産物が大量に流入して国産品が売れず、農業従事者が失業してしまうからです。それなら、農業従事者が高齢化により引退したことで生産量が減った分だけ農産物を輸入すれば良いでしょう。

「国産の農産物は安心だが、外国産の農産物は怖い」と感じる消費者は少なくないでしょうが、そうした消費者は高い代金を支払って国産品を買えば良いのです。そうでない消費者は輸入品を買えば良いのです。当然、市場では牛肉がそうであるように国産品と輸入品に価格差ができるでしょう。

あとは細かい点を詰めれば良いのです。不足する分の外国産農産物を政府が安い価格で輸入して、国産品を少しだけ下回る程度の価格で売り出すことによって政府が「売買益」を得ても良いでしょう。あるいは輸入を自由化して消費者に安い値段の農産物を購入してもらい、国内生産者には「輸入増によって値下がりした分の損失を補填する」ということでも良いでしょう。

いずれにしても、安い外国産農産物を輸入することのメリットが日本経済に生じることは間違いないわけで、あとはそれを政府が得るか消費者が得るか、というだけの話です。

■そもそも農業は比較劣位産業との認識が重要

経済学に「比較優位」という考え方があります。「各国が得意なものを大量に作って輸出し、不得意なものは作らずに輸入すれば良い。そうすれば、すべての国の人々が鎖国状態よりも豊かに暮らせる」というものです。日本は、土地が狭いのですから、農業は米国等々に任せて、思い切り自動車等を作って輸出すれば良いのです。

「農業従事者は農業を止めて、明日から自動車工場で働け」というわけに行きませんから、「農業従事者が高齢で引退するまでは関税で保護する」、ということは必要なのでしょうが、外国人労働者を受け入れてまで農業を続ける理由がありません。

■食料安全保障に懸念なし

「農業をやめて、外国産の食料品を輸入することになると、万が一の時に食料不足で日本人が飢え死にするリスクがあるから、やはり食料は国内で生産すべき」といった反論が聞こえて来そうですが、それは杞憂でしょう。

世界の主要食料輸出国は、米国等の友好国ですし、海上輸送ルートも特に問題ありません。万が一異常気象で世界の穀物生産が激減したとしても、穀物価格が高騰して途上国の貧しい人々が苦しむだけです。途上国の人々には申し訳ないことですが、先進国の人々が飢えることは考えにくいでしょう。要は、日本にとって食糧安全保障は単なるゼニの問題なのです。

日本人が食料難に見舞われるとすれば、石油ショックが起きた場合でしょう。アラブ諸国は石油ショックを引き起こした「実績」がありますし、ホルムズ海峡が封鎖される可能性も皆無ではありません。

そうなれば、日本中のトラクターが動かなくなり、食料が生産できなくなるでしょう。そんな時には、外国人労働者を受け入れていても何の役にも立たないでしょう。そうなっても大産油国米国のトラクターは動くでしょうから、結局はゼニの問題で解決することになるのでしょうが。

農業保護の今ひとつの理由として、水資源涵養(すいさんしげんかんよう)、洪水防止が挙げられることが多いようです。しかし、それらの目的としては、水田の維持よりも植林とダム、堤防建設の方が遥かに効果的でしょう。

■攻める農業と止める農業を峻別しよう

日本の農産物は高品質なので海外のセレブに受けるようです。そうであれば、高品質の農産物を作って自分で稼げる農業従事者は大いに稼げば良いでしょう。攻める農業ですね。

株式会社が参入しても良いですし、若い農業従事者が周辺の引退した高齢者から土地を借りたり買ったりしても良いでしょう。そうしたことが容易にできるように政府が後押しすることも、場合によっては必要かも知れません。

一方で高齢者が細々と続けている農業は本人の生きがいのため等には良いのでしょうが、生産性が高いとは到底思われないのでそうした農業に対して「農業を続けるための補助金」を出すのをやめて「農業を止めることを奨励するための補助金」を出しましょう。「農業をやめていただけたら、年金を2倍支払いますから」というわけです。民間企業がリストラする時に支払う「割増退職金」的な発想ですね。

可能であれば、山奥の寒村で数名だけが農業を営んでいるような場合には、全員揃って離農していただけるよう頼んでみましょう。それにより安い農産物が輸入できるのみならず、農道を整備する必要がなくなったり様々な行政コストが削減できるようになったりするメリットは非常に大きいかもしれません。

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塚崎公義 大学教授

※なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。

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