バチェラー・ジャパンがウケる理由を不動産鑑定士が説明してみた。 (二宮将仁 不動産鑑定士)

効用、相対的希少性、有効需要、この3つがキーワードです。
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Getty Images/EyeEm

皆さんは多くの異性から、同時に求愛されたことはありますか?

そんな夢のような設定の番組があります。1人の成功した独身男性(=バチェラー)を20人の女性が奪い合う婚活番組「バチェラー・ジャパン」です。もともとは、2002年からアメリカでThe Bachelorとしてスタートし、1人の男性を25人の女性が狙う斬新なアイディアで人気を博し、現在では世界225カ国以上で放送されました。

バチェラー・ジャパンはThe Bachelorの日本版で、amazonプライムで独占放送されています。『全世界で大人気のリアリティ・ショー。一人の完璧な独身男性を20名の女性が奪い合う「婚活サバイバル」』とamazonプライムでは紹介されています。

番組ではバチェラーが、彼の心をつかみたいと思っている女性とともに、ドラマと情熱に溢れたゴージャスな婚活生活を繰り広げます。各話の最後にはバチェラーが選んだ女性にのみバラを渡すローズセレモニーが行われ、バラを受け取れなかった女性は番組から姿を消します。回を追うごとに女性の人数は減っていき、最終話でバチェラーが運命の相手となる一人の女性を選びます。

『バチェラー・ジャパン』のバチェラー、小柳津林太郎(おやいづりんたろう)氏は医者の家系に生まれ、幼少期はアメリカで育ち、慶應義塾大学経済学部へ入学。大学卒業後はサイバーエージェントへ就職と輝かしい経歴です。しかもスポーツマンで顔面偏差値も高く、いわば中身も外見もパーフェクトなスーパーイケメンです。

■バチェラージャパンは女性に大人気

この番組を知ったきっかけは、複数の女性の友人から、絶対に面白いから!とオススメされたことでした。

私の学生時代には国産のリアリティショーである「あいのり」が大人気でした。「あいのり」は複数の男女で構成されたグループが自動車に乗って世界各国を旅行し、カップルになるかフラれたらグループから離脱、というルールです。グループは男性4人、女性3人の計7名でしたが、バチェラージャパンはまったく異なります。

バチェラージャパンの出演者は男女比率が1:20で、男性としては圧倒的な売り手市場です。ただし、ここで登場する1名の男性が凡庸な人であれば番組は成り立ちません。小柳津氏のようなスーパーハイスペイケメンの存在がこの番組成功の最も重要なファクターです。

ではこのハイスペイケメンである小柳津氏ですが、なぜモテるのでしょうか。言い換えると、どのような根拠や理由があってモテるのでしょうか。

これをあえて私の専門分野である「不動産鑑定」の知識を使い、小柳津氏がモテる理由として解き明かしてみたいと思います。

■不動産鑑定士と、不動産鑑定評価基準とは

私は不動産鑑定士という専門資格を保持しています。不動産鑑定士は、受験時には「不動産鑑定評価基準」という鑑定理論を丸暗記して試験に臨みます。これがかなりの努力を要する作業であり、一度丸暗記してしまうと頭にこびりつき、世の中のものすべてを鑑定理論に当てはめて考えてしまう、なんていう鑑定士も(私を含め)いるかもしれません。

試験科目には経済学、民法、会計学などもありますが、鑑定理論だけは不動産鑑定士の独占分野です。不動産の価格や賃料のことなら不動産鑑定士が最も知識があると言っても良いでしょう。

不動産鑑定士は不動産の価値を金額で表示するのが主たる仕事です。では、不動産の価格がそもそもどのように決まるのかご存知でしょうか。

効用、相対的希少性、有効需要、この3つがキーワードです。

(1)効用

「効用」とは、その不動産を利用して何が得られるかということです。その不動産を保有して(借りて)嬉しい、役に立つ、住みやすいなどです。たとえば企業ならば、丸の内のオフィスを借りることで優秀な人材が集まったり、業績が好調であることがアピールできたりします。

立地が良ければ通勤に便利ですし、新築オフィスであれば社員の士気向上による業績向上など様々なメリットがあるので、これらの効用が高い不動産ほど価格や賃料が高くなります。

(2)相対的希少性

相対的希少性とは、他のものと比べて数が少ないということです。不動産は同じ土地・同じ部屋が無限にあるわけではなく、それを得るためには何らかの経済的犠牲を要します。

3A(赤坂・麻布・青山)と言われる人気地区があります。これらの地区のマンションも、無限にあれば価格の高騰で「億ション」になることはありません。数が限られているからこそ価値があるのです。

(3)有効需要(実際にお金を払える人が欲しがっているか否か)

これは欲しい人が多ければ多いほど、その価値は上がるということです。上記3Aのマンションは、場所が良い、マンションの質が良い、借りたがる、買いたがるから価値があります。地方の田んぼのど真ん中にポツンとタワーマンションが建っていても、だれも欲しいとは思わないでしょう。

また、お金がない人がマンションを欲しいといっても、それは有効需要になりません。実際に買うことができない人が欲しいと思っても価格には影響を与えないからです。したがって、借りたい・買いたいという需要はあくまで買える・借りられるだけのお金を持っている人の需要に限られます。

効用、相対的希少性、有効需要。これら3つの要素により生まれる不動産の価値を金額表示したものが不動産の価値であり、これらを金額として表示するのが不動産鑑定士の主たる仕事です。

■イケメンの要因とは(小柳津倫太郎氏の価値とは)

ではこれらの理論を使って、スーパーイケメンの価値はどこにあるのか考えてみたいと思います。なぜ小柳津氏はバチェラーにふさわしいのでしょうか。それは、次のように捉えられているからではないでしょうか。

(1)小柳津氏に対して、女性が認める効用

小柳津氏をパートナーにした際の効用は、付き合えると嬉しい、自慢できる、いわゆる3高、実家も太そう、しかもイケメンなどでしょう。

東京大学で歴史社会学等を研究する赤川学准教授によれば、女性は上昇婚、つまり自身より学歴や収入などが同等以上の男性を選ぶ傾向にあり、女性の社会進出で学歴も給料も上昇したことで、相対的に女性と見合う男性が減ってしまった事が現在の晩婚・未婚に拍車をかけていると言います(参照 東大・社会学の先生に聞いた「私たちのまわりに"いい男"がいない理由」 ウートピ 2017/04/11)。

つまり、バチェラーで描かれる「スーパーイケメンを大勢の綺麗な女性が奪い合う」という世界は、悪趣味なようでいて、現実の世界を極めてリアルに投影しているとも言えるわけです。

もし私が女性だったら、自分よりハイスペのイケメンを捕まえ、ゴージャスな結婚式を外資系ホテルで行い、多くの友人・同僚を招待してマウンティング、返す刀で都内の湾岸もしくは3Aのタワマンに新居を構え、年に数回の海外旅行、そして子どもは幼稚園から慶應で送り迎えはアウディかカイエンというのが(最低限の)理想のパターンです。

小柳津氏のスペックは、そのような(ごく一部の)女性の理想を十二分に満たすことができる男性だと言えるでしょう。

(2)小柳津氏のような男性の相対的希少性

小柳津氏のような、すべてを取り揃えるスーパーイケメンはめったにいません。不動産鑑定評価には「需要と供給の原則」という理論があり、簡単に言うと、欲しい人が多いほどその商品の価格は高騰し、その商品の価格の変化が需要量と供給量に影響を与えるということです。

小柳津氏のようなハイスペイケメンには圧倒的な需要があるにもかかわらず、まったく供給がありません。たとえば小柳津氏のようなハイスペイケメンは世の中の男性のうち、何%ほど存在するのでしょうか。

小柳津氏は優良企業勤務でおそらく年収1,000万円以上であり、30代、慶應卒、独身のスポーツマンです。同じ条件でスクリーニングするだけで、残念ながら世の男性のほとんどが対象から外れるでしょう。さらに、ここに「イケメン」「実家が太い」という条件を加えると、もはや0.1%を切るレベルかもしれません。

つまり不動産と同じく、小柳津氏のような男性は相対的に希少であるがゆえに需要があり、供給がほとんどなく、小柳津氏をゲットするためには相当な努力を要します。

(3)小柳津氏に対する有効需要

バチェラージャパンには、小柳津氏の心をつかみたいと思っている美貌の女性が少なくとも20人出演しています。これが有効需要を証明する第一の証拠でしょう。AKB総選挙で3連覇を果たした指原莉乃さんですら、小柳津氏がハイスペイケメンであると発言しています。

著名タレントである指原莉乃さんが小柳津氏をハイスペイケメンであると認めている時点で、その男性の魅力はさらにインフレを起こします。有名な投資家などがマーケットである銘柄を「投資推奨」などと発言した途端にその銘柄が高騰するのと同じです。

これら3つの要素により、小柳津氏はバチェラーたりえるのです。つまり、女性が感覚的に捉えているスーパーイケメンの価値は、鑑定評価を使って論理的に説明できてしまうのです。

■おわりに

最後になりますが、不動産の鑑定評価とは「現実の不動産売買市場で、これくらいの価格で取引されるはずだ」という理論値を把握する作業です。

ただし、実際の不動産の取引価格等は理論通りに形成されるわけではなく、むしろ取引相手同士の個別的な事情に左右されがちです。

また現実には不動産は常にベストな状態で使用されているわけではなく、まったく不条理な、又は個人的な事情のために十分な効用を発揮していない場合が多々あります。

恋人関係や夫婦も同様で「この人しかいない!」と思っても、時が経つにつれて「なんかこの人違う」ということも多々あることでしょう。

不動産も人間関係も、理論通りに行かないことのほうが多く、長期的な関係のもとに形成されるものでしょう。常に変化の過程にあることを理解して、上手に理論を利用して人生を歩んでいくのがよろしいかと存じます。

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二宮 将仁 不動産鑑定士

【プロフィール】

不動産鑑定士。オフィスビルのリーシング、財務や不動産投資運用、J-REITの新規上場などを経験。現在は街を活性化させ賑わいを生み出し、広い視野でエリア全体をブランディングするエリアマネジメントに携わっている。

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