AKB48の求人票を、社労士がチェックしてみた。 (榊裕葵 社会保険労務士)

AKB48がバイトル社とのコラボレーション企画で、8月10日より「バイトAKB」の募集を始めた。以下の内容はバイトル社のサイトに掲示されたバイトAKB求人票からの一部抜粋である。本稿ではこれを題材にして求人情報でチェックすべき労働条件を解説したい。

AKB48がバイトル社とのコラボレーション企画で、8月10日より「バイトAKB」の募集を始めた。

以下の内容はバイトル社のサイトに掲示されたバイトAKB求人票からの一部抜粋である。本稿ではこれを題材にして求人情報でチェックすべき労働条件を解説したい。

●仕事内容 (AKB48の)一員としてCM、テレビ、ラジオ、雑誌、握手会、イベントへの出演

●時給 1000円

●勤務時間 午前7時~午後9時(同時間内で法定労働時間を遵守)

●バイト期間 平成27年2月末日まで、その後、3か月契約更新

●その他待遇 社保完備、交通費支給、衣装貸与、食事補助あり

~バイトル社 バイトAKB応募要項より~

■勝手に仕事内容を変えるのは違法

まずは「仕事内容」についてである。

バイトAKBはもちろんAKB関係の仕事を行うわけだが、通常のアルバイト求人でも「ホールスタッフ」「警備員」「事務員」といったように、仕事内容を指定して募集が行われている。

このように、特定の仕事に従事することを前提に雇用契約を結んだならば、会社が本人の同意を得ることなく、一方的に職務内容を変更することは許されない。例えば、事務員ということで採用されたはずなのに倉庫作業や工場作業を命じることは違法だということである。

職務変更を命じられた労働者は、同意できない事情があれば当然それを拒否することができるし、それでも職務変更を強要されるならば、約束が違うということで、労働基準法の定めによって即時退職も認められている。

■時給は最低賃金を超えているか

次に「時給」である。

真っ先に確認すべきは最低賃金法で定められた最低賃金を下回っていないかということだ。バイトAKBに関していえば、主たる勤務地である東京都の最低賃金は869円であるから、時給1000円はこれを上回っており合法である。このように、自分の勤務地の都道府県の最低賃金と、求人票に示されている時給を見比べてみてほしい。

なお、新規採用者に対して研修期間が設けられ、通常の時給より低い時給が設定されることもあるが、研修期間の時給であっても最低賃金を下回ることは許されないということも合わせて覚えておいてほしい。

研修期間については無給とする会社もあるが、これはもってのほかである。その会社で仕事をするために必要な知識や技術を身につけるための研修は、法律上「業務」とみなされるので、無給研修は完全に違法である。

■アルバイトにも割増賃金はつく

また、アルバイトであっても1日8時間、1週40時間の法定労働時間を上回ったら、通常の時給に対して25%以上加算された時間外割増賃金を支払わなければならないのが労働基準法のルールである。時給1000円ならば、1250円が1時間あたりの時間外割増賃金である。

実務家として仕事をしていると、時給契約なら何時間働いても通常の時給しか支払わなくて良いと、(悪気はなくても)勘違いをしている経営者の方に出会うこともあるので、働く側が自分の身を守るために覚えておいてほしい。

そして、もう一つ見落とされがちなのは、深夜割増賃金だ。午後10時から午前5時の間に勤務をした場合、通常の時給の25%以上の深夜割増賃金を支払うことが法律上義務付けられている。コンビニやファーストフードなど24時間営業の職場で働く場合、深夜割増賃金が夜間帯の時給に正しく反映されているかを忘れずに確認してほしい。

■勤務時間は合意に基づく。早上りなら「休業手当」を

「勤務時間」については、バイトAKBでは午前7時~午後9時(同時間内で法定労働時間を遵守)とあるので、この時間帯の中で最大8時間の仕事をするという意味であると考えられる。

多くのアルバイトの方が、出勤日や出勤時間帯を決めたり、1ヶ月単位などのシフト制で働いたりしていると思うが、いちど決まった出勤日は会社の都合で一方的に変えることはできない。

例えば、ある曜日やある時間帯にはシフトを入れないと合意していたのに、忙しいからといって会社が一方的に出勤をさせることはできない。法定労働時間内で勤務させると合意していた労働者に時間外労働をさせることも違法である。

逆に、来客の見込みが少ないなどの理由があったとしても、本来なら出勤日としていたにもかかわらず強制的に休ませたり、出勤はしたものの勤務時間を短縮して「早上り」をさせたりすることも原則としては許されない。もし、どうしても労働者を「休み」や「早上り」にしたいのであれば、会社の都合で不就労となった時間につき、平均賃金(≒日給相当額)の60%以上の「休業手当」を支払わなければならないのだ。

とくに飲食店などでは客入りに応じて「早上り」は当然のように行われているようであるが、本来は60%の休業手当を支払わなければ違法なのである。

労働者は求人票を見て「これくらいの時間働けば、これくらいの収入になる」ということを期待して労働契約を結んでいるわけだから、会社の一方的な都合によってその期待権を裏切ることは許されないと労働基準法は考えているのである。

■契約期間は更新条件に注意

続いて「バイト期間」についてだ。

バイトAKBの求人票には「平成27年2月末日まで。その後、3か月契約更新」となっているが、これは、実務上望ましくない書き方である。

というのも、「3か月契約更新」という表現が、原則として更新するということなのか、更新するかしないかは会社次第なのか、その表現の意味するところが不明確だからである。

この点、パートタイム労働法では「更新しない」「○○な事情を勘案し更新する場合がある」といったように、更新の有無や更新する基準を明示することを求人元の会社に求めている。

アルバイトの求人票を見るときには、更新の有無を確認し、更新がどのような基準で行われるのか不明確な場合は、必ず会社側に問い合わせるようにしてほしい。いざ更新をするタイミングになって、お互いの認識にズレがあってはトラブルの元だからである。

■社保完備でも油断してはならない

バイトAKBの求人票には「社保完備」とあるが、このような「社保完備」をうたっている会社であっても、その会社に社会保険が適用されているからといって、入社したら自動的に自分が社会保険に加入できるわけではないことに注意したい。

法律上の要件を満たしたらアルバイトであっても社会保険へ加入させなければならないのだが、会社によっては、正社員に昇格するまで社会保険に加入させないとか、入社3か月は社会保険に加入させないとか、社長が許可した人だけ社会保険に加入できるとか、違法なローカルルールが運用されている場合もある。

したがって、自分の身を守るため、自分は社会保険に加入できる立場にあるのか、法律上の基準を覚えておいてほしい。まず、雇用保険についてであるが、週20時間以上の勤務かつ31日以上の継続勤務が予定されていれば採用の日から加入義務が生じる。また、健康保険と厚生年金については、週30時間以上の勤務かつ2か月以上の継続勤務が予定されていれば、採用の日から加入義務が生じる。なお、学生アルバイト場合は、休学中や定時制の学生を除き、社会保険の加入者とはならない。

■交通費は法定の賃金ではない

最後に「交通費」についてである。交通費も求人票でしっかりと確認しておきたい項目の1つである。

求人票に交通費支給と明記されていれば良いのだが、交通費のことが触れられていない場合には支給されるのかを会社側に確認してほしい。

交通費は当然支給されるものと思っている方もいるかもしれないが、交通費を支給しなければならない法律上の根拠はなく、法律上、交通費は会社の任意恩恵的な手当であるという位置づけなのだ。したがって、当然交通費が出るはずと思って入社して、あとで出ないことが分かってがっかりしないためにも確認をすべきなのである。

また、交通費が支給される場合でも、会社によって月1万円までといったような上限を設けているところもあるので、上限の有無も合わせて確認するようにしてほしい。

■総括

このように、求人票1枚見ても、色々な注意点があることが分かる。

労働基準法などの知識を持ったうえで求人票を眺めれば、明らかに法律違反をしている企業の求人は避けることができるし、求人票からは分からなくても、面接の際に労働条件を確認する中で「この会社はおかしい」と気付くことができる。また、実際に働き始めたあとも不当な扱いを受けそうになったら、「話が違います」と言うことができる。

実際問題としては、100%正論を主張できないこともあるだろうが、少なくとも知識として本稿の内容のようなことを知っておくだけでも、気持ちに余裕が出るのではないだろうか。

《参考記事》

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