LGBTのカップルが「結婚」に近づくための3つの方法(松田美幸 行政書士)

相手が認知症などになった場合において、堂々とパートナーの生活を支えることが出来ますので、未来を誓った相手と任意後見契約を結んでおくといいのではないでしょうか
Robert Daly via Getty Images

先日、渋谷区は同姓カップルに対し、「結婚に相当する関係」と認める証明書を発行出来るようにする条例案を区議会に提出すると報じられました。

タイトルに書いたLGBTとは、レズビアン(女性の同性愛者)、ゲイ(男性の同性愛者)、バイ・セクシャル(両性愛者)、トランスジェンダー(性同一性障害)の頭文字を並べた、セクシャルマイノリティー(性的少数者)を総称する言葉です。まだまだ社会的には根強い偏見や差別がある中で、少しずつLGBTの人々を支援する取り組みも大きくなってきています。

この記事では、LGBTの方々、その中でもとりわけLGBTカップルが安心して暮らすことが出来る方法を3つ取り上げたいと思います。

■老後もパートナーと共に歩む方法

LGBT支援に向けて、法律家の諸先輩方が取り組んでいるのがLGBTカップル間における任意後見契約の普及です。

任意後見契約は認知症などにより判断能力が衰え、財産の管理や契約締結行為ができなくなった場合に備えて、被後見人と後見人となる両者の間で結ぶ契約のことをいいます。

例えば、LGBTのカップルの一人が急に事故に合って死の淵をさまよっているような場合であっても、LGBTのカップルでは「家族以外はお通しできません」と病院側に断られ、苦しんでいるパートナーのそばに寄り添ってあげることが出来ないケースもあると聞きます。

しかし、あらかじめ任意後見契約を結んでおけば、後見人と被後見人という法律上の立場が生まれるため、病院側からも断られることはなく、入院契約なども代理しておこなうことができるようになります。

法律婚の夫婦は互いに日々の生活でのちょっとした事柄を代理する権限を有していますが、移行型任意後見契約の代理権の範囲を同じように設定すれば、法律婚の夫婦と同様に代理権を行使することも可能です。

また、任意後見契約の本来の使い方として、カップルの一方が認知症などになった場合において、堂々とパートナーの生活を支えることが出来ますので、未来を誓った相手と結んでおくといいのではないでしょうか。

残念ながら、相手が今のところいないという方は、LGBTに理解のある、いわゆるゲイフレンドリーの人と任意後見契約を結んでおくことをおすすめいたします。

任意後見契約は判断能力が衰えてしまっては結ぶことが出来ません。認知症が始まって以後は、法定後見とよばれる後見制度を利用するしかなく、後見人の選任は裁判所がおこないますので、LGBTに理解のない、あるいは偏見をもった人が選ばれてしまう可能性もあるのです。そんな息苦しい人に後見人をやってもらうより、お話をしてて楽な人の方がいいですよね。

後見人業務をおこなっている弁護士や司法書士、行政書士などの専門職のなかにも、ゲイフレンドリーな人間はたくさんいます。探してみられてはいかがでしょうか?

■法律婚カップルと同じ財産関係を築く方法

法律婚ができないカップルが抱える一つの大きな問題は、法律婚をしているカップルのようにはパートナーを経済的に守ることが難しいことです。

遺言すらも残さなければ、一銭もパートナーのもとには渡りません。

それをどうにかできないかと、信託の仕組みを使って、法律婚のカップルの財産関係をLGBTカップルの間でもほぼ同様に実現することを目的に考案されたのが、法律外婚姻支援信託という仕組みです。

法律外婚姻支援信託をパートナー同士で結んだ場合、契約締結後に得た財産は二人の共有財産になり、仮に別れることになった場合は、その共有財産を財産分与のように分け合う形となります。

余談ではありますが、法律上では家族となることができないパートナーは、生命保険金の受取人にはなることが出来ません。が、これも信託の仕組みを利用すれば、パートナーでも実質的な受取人にすることも可能ではないかと侃々諤々の議論が民事信託界のごく一部で巻き起こっております。

生命保険金に関してはまだ議論の段階ではありますが、どちらかが亡くなった時に、パートナーにしっかりと財産を残すことが出来るのは信託ならではの部分でもあり、長い時間を共にするカップルにとっては魅力的ではないでしょうか。

付け加えるならば、法律外婚姻支援信託を締結する際には、遺言も併せて残しておくべきです。法で定められた相続人には相続財産からある程度の財産を受け取る権利が認められています。その権利を行使されると、パートナーに残すはずだった財産が損なわれてしまいますので、遺言によって権利行使の対象となる財産を定めるなどの工夫が必要になります。

■永遠の愛を誓う方法

この永遠の愛を誓う方法は、日本ではまだ前例のないケースであって、実際に可能なのか、またどのような意味を持つことになるのかは今の段階では誰にも分かりません、と前置きしたうえで、法律婚はできないけれどパートナーとの将来を誓いたいという素敵なカップルに婚姻宣言をご紹介します。

婚姻宣言は、宣誓認証という仕組みを使って、カップル二人で婚姻届的な文書を作成し、公証役場に行って公証人の面前で、永遠の愛を誓ったその文書は真正なものであると、その名の通り「婚姻」を宣言するというもの。

宣誓認証は,私署証書の作成名義人本人が,公証人の面前でその証書の記載内容が真実であることを宣誓した上,署名若しくは記名押印し,又は証書の署名若しくは記名押印が自己の意思に基づいてされたものであることを自認した場合に公証人がその私署証書に付与するものです。(法務省HPより)

この宣誓認証の面白いところは、その文書の内容の真実性に公証人は立ち入らず、本人達にとって文書の内容が真実であれば良いという点にあります。

公証人が証明するのは、本人たちが確かにその文書を作成し押印しましたよ。というだけですので、基本的に、その内容は自由です。

とはいっても、公証人によっては拒否する場合もあるかもしれません。そして、現在のところ、残念ながらこの婚姻宣言には何の法的効力はないものと考えておかなくてはなりません。

しかし、永遠の愛を誓うだけなら可能だと思われます。

同性愛者の結婚式への取り組みも始まっている昨今、披露宴の場で公証人が2人の愛の誓いを宣誓認証するなんてことがあったら素敵じゃないかと思うのは私だけでしょうか。

日本社会においても、世界的にみても、まだまだLGBTカップルに対する理解は及んでいません。LGBTカップルが堂々と家族として暮らすことが出来る社会の実現が理想であると個人的には思うのですが、法はそうなっていないのが現状です。

この記事で取り上げた3つの方法でLGBTカップルが少しでも安心して暮らすことができるといいなぁ、と法律に携わっている者として願っております。

【参考記事】

松田美幸 行政書士