大繁盛のかき氷屋で、女子高生アルバイトが暇そうにしていた理由。 (玉木潤一郎 経営者)

私たちは往々にして同様の失敗を犯している。

筆者が高校生のころ、大繁盛していたかき氷店が商店街にあった。

店はU字形のカウンター席のみで約20席。オープンキッチンで、店主はキッチン内からカウンター越しにオーダーを取り、かき氷を作って提供し、会計も行うなど、すべての業務を一人でこなすスタイルの店だった。

夏休みで忙しすぎるその店にある日2人の女子高生アルバイトが登場した。目が回るような忙しさだった店主もこれで少しは楽になるかと思われた。

ところが店主はアルバイト2名をキッチンの隅で棒立ちにさせたまま、相変わらず一人で注文を取り、かき氷を作り、すべての業務をこなしていた。挙句の果てにはそのアルバイトが退屈だろうとかき氷を2杯作ってこれでも食べていなさいと差し出した。

■かき氷店主の犯したマネジメント上の間違い

説明すら不要だが、この店主はいくつもの間違いを犯している。

(1)20席の店に2人いっぺんにシフトに入れた。

飲食店のアルバイトではよくあることだが、理由はおそらく2人が友達同士で一緒に入りたいと希望したのだろう。これを適正なレイバー(人件費率)を維持するためにシフト分散させるのは、重要な管理業務である。

(2)初出勤のアルバイトにおそらく初期指導を行っていない。

例えば初出勤の朝15分の座学を行えば、アルバイトには「いらっしゃいませ」の挨拶と笑顔は指導できるし、お客へのお冷やかき氷の提供、洗い物なども初日からでもできただろう。

(3)自分がやった方が速いのですべて自分でやってしまう。

もちろん仕事は店主が自分でやった方が速いのだ。しかし繁忙期に雑用をアルバイトに任せることで、店主はより多くのかき氷を作ることができ、その結果として席回転とサービスレベルは向上したはずである。

■マネージャーの仕事とは

この記事を読んで店主を愚かだと思ったビジネスマンは多いだろうが、私たちは往々にして同様の失敗を犯している。実際に有能なプレイヤーが、マネージャー職として機能していないケースは多い。

自分でやった方が速いからとすべてをこなしてしまうかき氷店の店主と、職種は違えども営業案件に部下を同行させない営業マネージャーや、失敗を叱責するだけの技術マネージャーは、プレイヤーとしてどれだけ優秀であってもマネジメントの不出来としては実は同レベルなのだ。

本来であればマネージャーは自分をオペレーションのサイクルから外して考えなければならない。いかに自分をフリーにするかで見えていなかったサービスの欠陥に気づいたり、業務効率の改善が図れたりするようになる。

その上でプレイヤーを動きやすくし、不備を修正し、チームが最大の成果を挙げるように導くことにマネジメントの本旨はある。

■未熟な人材をも活用する

余談ながら、かき氷店の店主は中年男性である。店主としては自分の仕事の速さがアルバイトより勝っていると考えての個人プレイだろうが、お客としてはお冷を出したりかき氷を提供したりするのは、実は多少たどたどしい女子高生アルバイトであっても一向に構わない。

あらゆる職種で同様に未熟な人材にも適所がある。仕事に慣れたベテランが自分より経験の浅い者に対して、自分の仕事の速度と精度を誇示しても始まらないではないか。

遊兵を作らないことは兵法の基本であり、たとえ新人であっても適所に配置してチーム力を最大化するのがマネージャーの仕事でもある。

■マネジメントとは

マネジメントは直訳すれば、経営・管理であり、ドラッカーは「組織に成果を挙げさせるための道具、機能、機関」と定義している。

繰り返しになるが、ほんの少しマネジメントに意識を置くだけであの店主は現状よりはるかに楽に業績を向上でき、さらに高いレベルのサービスが提供できたはずだ。

そして私たちも同じ失敗に陥りやすい。自らオペレーションにはまっていてはマネジメントはできない。自分でやった方が速いことでもあえて手間暇かけて後進にできるようにした上で、本来のマネジメントの仕事をする時間を捻出していかなければならない。

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玉木潤一郎 経営者 株式会社SweetsInvestment 代表取締役

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