事業は永遠に生き続けられるか?~大切な事業を確実に引き継ぐためには (小紫恵美子 中小企業診断士)

先日4月25日に「平成25年度中小企業の動向」及び「平成26年度中小企業施策」 (中小企業白書)が閣議決定されました。その第3章で、事業承継・廃業について、詳しく取り上げられています。廃業の決断を下す前に検討してほしいことがある、という想いで、記事を書くことにしました。

先日4月25日に「平成25年度中小企業の動向」及び「平成26年度中小企業施策」 (中小企業白書)が閣議決定されました。その第3章で、事業承継・廃業について、詳しく取り上げられています。廃業の決断を下す前に検討してほしいことがある、という想いで、記事を書くことにしました。

急速に進む経営者の高齢化と「廃業やむなし」の決断

経営者の高齢化が止まりません。2012年時点の自営業主の年齢構成をみると、もっとも多くを占めるのが60-64歳の経営者であり、70代の事業主が占める割合が過去最高となるなど、高齢化がますます進んでいます。今後、中小企業・小規模事業者の経営者についても高齢化が進展し、引退を決断する経営者の数は増えることこそあれ、当面は減っていくことはないものと予想されます。こうした中、中規模企業で6割、小規模企業で4割の経営者が事業承継を望んでいます。

一方、今回の白書では、事業承継が容易ではない実態が浮き彫りになっています。特に、小規模事業者の約2割は「自分の代で廃業することもやむを得ない」と回答しています。その「廃業やむなし」と考えている経営者のうち、事前に事業承継を検討した方はなんと約3割しかないとのこと。検討したものの円滑にいかなかった理由としては以下のことが挙げられています。

(1) 将来の業績低迷が予測され、事業承継に消極的(55.9%)

(2) 後継者を探したが、適当な人が見付からなかった (22.5%)

(3) 事業承継に関して誰にも相談しなかった (9.9%)

まず、「廃業やむなし」と考えた経営者の約7割は承継を検討すらしていないこと、そして、後継者不足よりも将来の業績低迷が予測されるために承継に消極的、という判断を経営者の方たちがしていることに、残念な気持ちになりました。業績低迷については事業性そのものの問題であり、その解決は確かに容易ではありません。しかし、新規事業の創出という手もあるはずですし、後継者のことも含め、専門知識や実績のある第三者の意見を聞いてからの判断でも遅くないはずです。是非、早期に各地域の支援機関や専門家へご相談頂きたいと思います。

事業を引き継ぐ3つのパターン

我が国の事業承継の形態としては、依然として親族への承継(親族内承継)が一番多いのですが、長期的には全体に占める割合は低下しています。その反面、内部昇格や外部招へい等の、親族外の第三者への承継(第三者承継)や買収(事業売却)が占める割合が上昇してきています。2012年では親族・内部昇格が約4割ずつ、外部招へいが約1割となっています。

白書では、企業が能動的に外部から経営者を招く、「外部招へい」による事業承継について特にとりあげ、検討をしていますが、トレンドを表したグラフ(上記中小企業白書第3-3-10図「形態別の事業承継の推移」)を見て私が最初に感じたのは、親族への承継が難しい場合、次に検討されるのは内部昇格の方ではないかということです。確かに外部招へいも内部昇格同様、長期的には上昇トレンドにありますが、親族による承継が難しい場合には、事業についてよく中身を知っており、また、ステークホルダー(企業の利害関係者)ともなじみのある、自社内部の人材に継がせたいというのが経営者の心情ではないかと思うからです。

事業は生き物で、人が相手です。もちろん外部招へいする場合にも、長くお付き合いのある取引先など、今までの自社の経営について十分な理解のある人を探す必要がありますが、それも簡単なことではありません。しかも、白書によれば、後継者の育成には3年以上かかると考えている経営者が8割以上いる、とのこと。自社内部の人材を時間をかけて育成し、事業を承継してもらうほうが現実的なのではないでしょうか。

人材育成、ましてや経営者育成には十分な時間が必要

以前「事業承継をドロドロなものにしないために大事なこと」という記事でも書きましたが、事業を承継する親子の間で徹底した話をするのと同様、内部で親族以外の人が後継者になる場合も、経営理念等に関する相互理解ができていることはその後の事業継続のために非常に重要です。

この観点からすると、経営者の企業理念に心から共感し、一緒に仕事をしてきた長年の部下に対する事業承継がもっとも円滑にいくと考えられます。会社のほかのメンバーやステークホルダーとの信頼関係が構築されており、事業の継続性という面で比較的スムーズです。そのためには、経営者ができれば5年、10年といった時間をかけて、承継を視野に入れて、事業について意見交換をする時間を多くもつのはもちろん、営業や会合に同行させたり、取引先との商談に出席させたりするなど、少しずつ経営者としてのマインドを伝えるとともに、仕事内容について実質的な経営者育成をしていくことが重要です。

人は一朝一夕に育つことはなく、経営者が毎日従業員に言い含めたとしても、その意図を理解し、共感し、自分の仕事に活かせるようになるのに、短くても半年や一年、場合によってはそれ以上の年単位でかかってくるものだからです。ましてや経営者を育成するとなれば、もっと多くの時間を要します。

こう書くと、長年の部下に対する事業承継は親族への承継よりもスムーズにいくと思われるかもしれませんが、実際には財産の相続にからんだ親族間の思惑が複雑にからむほか、事業を承継する方のほうでも、借入金の個人保証や株式の買い取りといった財産的な課題があることから、どちらかが適しているのかというのは、個別ケース毎に検討していくことが不可欠です。

人の時間は有限だが事業の時間はひきのばせる

事業承継は、経営を向上させるきっかけにもなり得ます。白書によれば、事業承継をし、新しい事業に取り組んだ企業の6割が、「よくなった」「ややよくなった」と回答しています。せっかく大きなリスクをとって起業し、継続してきたわが子のような事業を廃業してしまう決断をする前に、一度は前向きに事業承継を検討してほしいと思います。カネを産まない事業は廃業、というのももちろん正しい判断ですが、承継を機に成長する可能性を最初から捨ててしまう必要はありません。

経営・事業継承については以下の記事も参考にして下さい。

事業を引き継ぎ発展させていくには、年齢をきっかけとして事業承継を考え始めるといろいろ制約が出てきてしまいます。経営者は起業して軌道に乗った時点で、あるいは起業した時点から考え始めても早すぎることはありません。より本質的には、経営者自身がいなくなっても事業が回る仕組みを早く作り上げることが、事業を長期的に存続させることができるカギになります。

小紫恵美子 中小企業診断士

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