大卒の給料が高卒より高い理由 (塚崎公義 大学教授)

企業の採用担当者は、なぜ大卒を優遇するのでしょうか。

大卒は、高卒よりも高い給料で雇ってもらえます。それはなぜでしょうか。企業の採用担当者は、なぜ大卒を優遇するのでしょうか。

■大学は学生を成長させる(と筆者は信じている)

大学の教員である筆者は、迷わずに答えたいです。「大学の教育が学生を育てるからだ」と。理科系の大学は、研究者を養成するところですから、理科系の卒業者が自分の研究分野の研究者として雇われる時には高卒より高い給料をもらうのは当然でしょう。したがって、本稿ではそれ以外の場合について論じます。

大学では、暗記すべき知識ももちろんありますが、主には「物事を論理的に考える訓練」「自分の考えを他人に伝える訓練」を受けることになります。たとえば筆者は大学の法学部を卒業して銀行に勤務し、その後は経済学者となりましたが、大学の法学部で学んだ知識で役立ったことはほとんどありません。

しかし、銀行の採用担当者は筆者を評価して採用してくれました。それは、法律の適用の可否を考える過程で物事を論理的に考える訓練を受け、自分の考えを答案に書き記すために論理的に話したり書いたりする訓練を受けて来たからでしょう。法学部で受けた訓練は、経済学者となっても役に立っていると筆者自身は考えています。

もちろん、勉強以外にもサークル活動やボランティア活動等で幅広い体験や幅広い人的交流をし、「人間力」が磨かれる、ということもあるでしょう。

筆者は就職試験を受ける学生に、以下のようにアドバイスをしています。「私は大学の4年間で以下のような体験をし、以下のように成長しました。したがって、そうした成長をしていない高卒を安い給料で雇うより、私を高い給料で雇った方が、御社にとって得です」という気持ちで面接に望みなさい、と。

もちろん、その前提は大学生に「そういう気持ちで面接に臨めるように、4年間頑張って成長しなさい」とアドバイスをしているわけですが。

以上が筆者の認識ですが、読者の中には「日本の大学はレジャーランドであるから、学生は成長せず、怠惰になるだけだ」と考えている人もいるでしょう。そうした人に大学教育の有効性を説いても、納得してもらえそうも無いので、以下では大卒の給料が高い理由の二つ目をご披露します。

■大学を卒業すること自体が採用担当者へのアピール

難関大学の卒業生に関しては、異論は少ないでしょう。難関大学の入試に合格しただけで、「自分は能力も頑張る力も持っている」とアピールできるからです。では、難関ではない一般大学の場合はどうでしょうか。

ここで、一般大学へ行かないで就職する高校生について考えてみましょう。高校生は「大卒の方が高い給料がもらえる」と知りながら、大学へ行かずに高卒で就職しようとしているわけです。なぜでしょうか。

「もちろん、家庭の事情で大学に進学できない、という高校生もいるだろうが、多くは勉強や努力が嫌いなのだろう」と採用担当者は考えるはずです。「まじめに出席さえしていれば卒業できる大学」もあるようなので、そうした大学に行かずに高卒で就職するということは、「サボりたいという自分を我慢させて講義に出席させるだけの意思の力も無い」と思われてしまうかも知れません。

「それならば、高卒で就職しようとしている人よりも大学を出た人の方が、確率として優秀である確率が高そうだ」ということになるでしょう。

高卒で就職する人の名誉のために明言しておくと、筆者は決して「高卒はダメだ」などとは言っていません。「意欲も能力も劣る人は、大卒であるより高卒である可能性が高い」と言っているだけです。

したがって、採用担当者が有能で時間も十分にあれば、高卒にも大卒にも全員を長時間みっちり面接して、優秀な就活生を採用すれば良いと筆者は考えています。しかし実際には、採用担当者は十分な能力も時間も無い場合が多いのです。

そうであれば、大卒を採用した方が高卒を採用するよりも「確率的に」優秀な学生が採用できるはずです。そうであれば、採用担当者が大卒を優先的に採用することは「合理的」と言えるでしょう。

何らかの事情で優秀であるにもかかわらず高卒で就職せざるを得ない高校生には大変気の毒だとは思いますが、本稿が憤っても状況は変わらないでしょうから、とりあえず「なぜ、一見不合理なことが起きているのか」を解説することを本稿の役割と考えておきます。

余談ですが、就職戦線に於ける男女差別の一因も、似たようなところがあります。「女性は確率的に結婚退職、出産退職する確率が高いから、男性を採用したい」という企業が多いのです。これは、「結婚しても出産しても仕事を続ける」という決意を持った女子学生には大変腹立たしい事態です。

もっとも、こちらは男女差別に当たり、男女雇用機会均等法違反です。企業の担当者も、それについては理解を示し、次第に採用に於ける男女差別は減って来ている、と筆者は信じていますし、今後も減っていくに違いないと期待しています。

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塚崎公義 久留米大学商学部教授

【プロフィール】 日本興業銀行(現みずほ銀行)にて、主に経済関連の調査に従事した後、久留米大学に転職。趣味は、難しい事を平易に解説する文章を書く事。SCOL、Facebook、ブログ等への執筆のほか、著書も多数。

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