株価の暴落は「売りたく無いのに売る人」が加速させる。(塚崎公義 大学教授)

その背景には、市場のムードの変化による暴落が更なる暴落を招くメカニズムが働いています。
2019年1月4日、東京
2019年1月4日、東京
Bloomberg via Getty Images

日経平均株価が大幅に下落しています。暴落と呼んでも良いほどです。こんな時に投資の初心者は狼狽売りをしがちですが、冷静になりましょう。そのために必要な株価が動く原理原則を伝えたいと思います。

■株価が暴落する原因は3つ

株価が暴落するのは「バブルの崩壊」「客観情勢の悪化」「市場のムードの変化」による場合が多いでしょう。暴落に際しては、そのいずれが原因となっているのかを見極める事が最も重要です。

バブルが崩壊する時に株価が暴落するのは、自然な事です。高すぎた株価が「正しい価格」に戻るのみならず、それを超えて下落する場合も多いと思います。したがって、現在生じている株価の下落がバブルの崩壊によるものであると判断するならば、直ちに売却すべきでしょう。

もっとも、昨今の株価にバブルが生じていたとは考えにくいので、本稿ではこうした可能性については論じない事にしましょう。

今まで流れていなかった悪いニュースが流れて来た場合にも、株価が暴落する場合があります。たとえば戦争が始まりそうだ、といったニュースです。しかし、12月の暴落を考える時、新しいニュースで大きなものは見当たりません。

米中貿易摩擦が急に激化したという事ではなく、10月4日のペンス演説で方向性は明らかになっていたわけですから、それ以降に起きている事は「市場の予想通り」と言っても過言では無いほどです。

トランプ大統領が好き勝手な人事をするのも、わかっていた事です。したがって、今回はこれにも該当しそうにありません。

そうだとすると、今次暴落の主因は「市場のムードが楽観から悲観に変化した事」だと言えそうです。問題は、市場のムードの変化による暴落が更なる暴落を招くメカニズムが働いている可能性が高い事です。

■「売りたく無い売り」が暴落を加速させる

スーパーで売っているカブは、値段が下がると買い注文が増えますが、証券会社の株は値段が下がると買い注文が増えるとは限りません。「もっと下がるだろうから、今少し待ってから買おう」と考える投資家も多いからです。

更に問題なのは、ある程度以上に値段が下がると売り注文が増える4つのメカニズムが働く事です。「銀行の不安」「損切りルール」「投機家の売り」「初心者の狼狽売り」です。

株価が下がると銀行は、借金で株を買っている人の借金返済能力について不安になります。そこで返済を要請する事になります。投資家は「値下がりした今は買い増すタイミングなのに、売らなければならないのは非常に悲しい」と思いながらも泣く泣く持ち株を売却する状況に追い込まれます。

信用取引を行なっている個人投資家が、株価が下落すると「追加証拠金」を迫られて、泣く泣く売却する場合も同じです。

それとは別に、機関投資家は「担当者が一定以上の損を被った場合、持っている株をすべて売却して休暇をとって頭を冷やすべし」というルールを設けている場合が多いようです。株価が暴落すると、このルールを発動される担当者が増えるわけです。

「損失が無限に拡大するリスクを防ぐ」「損失を抱えた担当者は冷静な判断が難しい」という事のようですが、担当者としては泣く泣く持ち株を売却する事になるわけですね。

こうした「売りたく無い売り」は、株価が下がれば下がるほど増えますから、ますます株価を暴落させる悪循環を招く可能性があるのです。

■売りたくない売りを見越して投機家が先回り

さて、投機家たちは、株価が暴落すると「売りたくない売り」が増えて更なる下落を招くであろう事を予想しますから、「値下がりしたら買い戻そう」と考えて先回りして株を売っておきます。

こうして株価が下げ止まらないのを見た投資初心者が、「この世の終わりが来るのかも」と狼狽して売りを出しますから、暴落は一層加速します。

弱気論者が株価暴落を機に急に元気になり、鬼の首でも取ったように「私が予想していたとおりの事が起きている。もっと下がるに違いない」と言い始めるので、投資初心者は「予想が当たった人の予想だから、次も当たるのだろう」と考えてしまう場合もあるようです。

ところが、それが下げ相場の終わりになる場合も多いのです。売りたい人はすべて売り終わり、売り注文がそれ以上出てこないからです。

そうなると、投機家たちは「やっと底値がついた」と考えて買い戻しを始めます。売り注文が残っていないので、相場はスルスルと値を戻し、何事も無かったかのように市場に安定が戻る場合も少なくありません。

投資初心者が底値で売る事が多いのは、こうしたメカニズムを理解していないことも一因でしょう。しっかりメカニズムを理解して、狼狽売りを避けるようにしたいものです。

もっとも、狼狽売りが危険である一方で、初心者が暴落相場で買いを入れるのも危険です。底値がいつであるのかを見極めるのは非常に難しいので、「落ちてくるナイフを素手で掴むな」という格言もあるほどです。

魚は頭と尻尾は食べられませんが、相場も同じだと心得ましょう。暴落幅が大きい場合は、相場が戻り始めた事を確認してから買いを入れても十分間に合いますから。

■初心者は積み立て投資が無難

株は、銘柄選びも難しいですが、それは分散投資をすれば何とかなります。買うタイミングの判断も難しいですが、それも同様に、時間分散をすれば何とかなります。

投資初心者は「株価が上がってくると最後の買いのチャンスであるような気がして高値づかみをする」「株価が暴落すると狼狽して投げ売りをする」という傾向があるようですから、まずはそれを避けましょう。高く買って安く売る、という状況です。そのためには欲張らない事が失敗しないための第一歩だと考えることも重要でしょう。

筆者のオススメは積み立て投資です。「毎月1万円の投資信託を購入する」と決めて、相場が上がっても下がっても気にせず自分の決めたルールどおりに購入していくのです。そうすれば、高い時も安い時も少しずつ買うことになるので、初心者の典型的な失敗が回避できます。これをドルコスト平均法と言います。

売る時は、老後の生活資金として毎月一定額を売っていきます。そうすれば、高い時も安い時も少しずつ売る事になるので、狼狽して底値で投げ売りするのを避けられます。

ちなみに本稿は、一般的な考え方を示しているだけで、「今は売るな」と言っているわけではありません。今後本当に戦争が起こるかもしれませんし、相場の先行きはわかりませんから、投資は自分の判断、自己責任でお願いします。

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塚崎公義 久留米大学商学部教授

【プロフィール】

日本興業銀行(現みずほ銀行)にて、主に経済関連の調査に従事した後、久留米大学に転職。趣味は、難しい事を平易に解説する文章を書く事。SCOL、Facebook、ブログ等への執筆のほか、著書も多数。

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