もはや巻き戻らない「働き方改革」ーイチ早く取り組んで先行者利益を得るべき (岡崎よしひろ/中小企業診断士)

働き方改革は一部の先進的な企業が取り組むべきことではなく、もはやすべての企業にとって避けられない。
リモートワークのイメージ写真
Westend61 via Getty Images
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働き方改革が叫ばれていますが、いよいよ今年は進展しそうな雰囲気があります。

広島県庁ではこの日が仕事始めだったが、「慣例化している行事を柔軟に見直す」として今年、仕事始め式をやめた。湯崎英彦知事のあいさつを動画で配信し、出勤した職員らが業務用パソコンで見た。人事課の担当者は「式をやめることで、休日の取得や、本来の業務に充てることを期待した」という。

仕事始め式なし、知事あいさつは動画 広島県が「改革」 朝日新聞 2019/01/04

お堅いイメージの県庁が、働き方改革の一環として行事を取りやめる動きが出てきています。元日の小売業・飲食業の休業がニュースとして報道されていたことを記憶されている方も多いでしょう。

このように、働き方改革はすでに実行段階に入っています。そしてこの流れは止められないと考えられます。今年は働き方改革に取り組むべきか否かではなく、一刻も早く働き方改革に取り組み、それによって競合他社よりも多くの利益を得ることを目指した方が望ましいでしょう。

筆者は働き方改革の流れはもはや不可逆的であると考えており、その理由について本稿で述べていきたいと思います。

■なぜ働き方改革への流れは不可逆的なのか

筆者はその理由を、企業を取り巻く外部環境の変化に求めます。企業は単独で存在しているものではなく、外部の環境から影響を受けながら存在しています。そのため、企業を取り巻く外部環境が働き方改革を要請するようになっていれば、必然的に対応を求められます。

もちろん、どれだけ環境が変わっても対応をしないといった選択も可能です。しかし、生き残る企業は強い企業ではなく環境に適応できた企業であるという適者生存の理論を信じるのならば、悪手であると考えられます。

では、どのような外部環境の変化が起こっているのでしょうか?

■技術的な変化が生じている

オフィス以外で業務を行うテレワークを可能にする技術はたくさん存在しています。また、その技術も今となっては特別な技術ではなく一般的なPCリテラシーがあれば使いこなすことが可能です。

これは競合他社がテレワークの全面的な解禁といった、働き方改革の方策を打ち出す可能性が常に存在することを意味します。

■政策的な変化も生じている

国が音頭を取って進める働き方改革ですが、都道府県レベルでも取り組みが広がっています。

「私は本気で取り組みます」―。県のワーク・ライフ・バランス推進本部(本部長・吉村美栄子知事)は、職員の長時間労働是正に向けて、各部局長が順番に庁内放送でメッセージを伝える試みを始めた。「業務量を減らすには、まず部局長の強力なマネジメントが重要」の考えに基づく、初の取り組み。初回は大森康宏総務部長が決意表明も含めて、資料作成の手間の削減などを訴えた。

「働き方改革」本気です! 県の長時間労働で部局長が決意表明 山形新聞 2018/12/02

行政で働いている方がこのような取り組みをしているということは、何らかの行動規範に働き方改革が組み込まれていることを意味します。

行政はとかく動きが遅いと批判されがちですが、一方で影響力が極めて大きいことから法令に根拠を求めながら慎重に行動しているためです。ただ、一度動き出せば優秀な人材の宝庫ですから、目標の達成はかなりの確度でなされるはずです。一度動き出した働き方改革を見直す意思決定も難しいため、しばらくはこの流れが続くと考えられるのです。

また、岩手県では働き方改革を進める県内中小企業に対して補助金を出す制度を創設しました。

県は、中小企業の働き方改革を後押しするため、労働環境の改善に要する経費を最大50万円補助する制度を創設した。就業規則作成を専門家に依頼する費用や備品購入、講師代などを想定。3年間の改善計画提出を企業に求め、毎年達成状況を確認する。本県は人手不足が深刻化する一方、全国に比べて労働時間が長く働き方改革の動きが鈍い傾向にあり、官民一体で改善につなげる。

県、働き方改革に補助金 中小企業へ最大50万円 岩手日報 2018/11/08

このような流れは官民挙げて働き方改革へ取り組むといった考え方の表れです。

■社会的な変化

企業を取り巻く環境のうち社会的な環境はどうでしょうか。

総務省統計局による労働力調査平成29年(2017年)平均(速報)によると、我が国の労働力人口は2012年の6565万人を底に、2017年段階では6720万人まで増加しています。しかし、将来的には人口減の影響が強く出てくるため、これ以上の増加は難しいと考えられます。

一方、有効求人倍率は平成30年(2018年)10月時点で1.62倍となっており、募集をしてもなかなか応募がないといった状態を示しています。このことから、従来は働いていなかった人が働きに出るようになったものの、求人の増加ペースの方が高く、働き手を見つけにくくなっていることが読み取れます。

求人の方が多いということは、働く人にとっては条件の悪い企業で働かなくても良いことを意味します。そして行政が働き方改革を率先して行うなど、労働を取り巻くこの国の文化が変わりつつあります。ある程度以上年齢を重ねた人ならば、従来はなんとなく許されてきたけれども、社会の流れが変わった途端に一切許容されなくなった事例を思い浮かべることができると思います。その例に従来の働き方も加わる時期に来ているように感じられます。

これらの理由から筆者は働き方改革への流れはもはや不可逆的であると考えるのです。

■では企業はどうすべきか

働き方改革は一部の先進的な企業が取り組むべきことではなく、もはやすべての企業にとって不可避です。では、個別の企業はどうすべきでしょうか。

筆者は、どうせ取り組まなければならないならば、競合他社よりも先に取り組みをすべきだと考えます。いち早く取り組んでしまえば、前述の補助金のような行政からの支援も期待できますし、働き方改革へ取り組んだ企業であるといった社会的な名声も得られます。

らーめんチェーンの幸楽苑が2018年から2019年にかけて年末年始の休業を発表して注目を集めたように、先駆者として利益を得ていくことが重要であると考えます。また何よりも、従業員の士気が高まれば、定着率の改善や好ましい評判の醸成など経済的な見返りが期待できます。

多くの企業が先を争って働き方改革へ取り組めば、仕事の環境が大きく変わると考えられます。年の初めに、自社にとっての働き方改革を一人ひとりが考えてほしいと思います。

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岡崎よしひろ 中小企業診断士

【プロフィール】

全ての事業者に事業計画を。2009年に中小企業診断士登録後、地に足の着いた事業者支援に取り組む傍ら、まんがで気軽に経営用語というサイトを運営。朝型生活を実践する2児の父。