ワタミのバイトが最低賃金?じゃああなたの時給は大丈夫?(松永大輝)

先日、ワタミグループの居酒屋がその地域の「最低賃金」で人材募集をしているとして、国会議員から批判を浴びました。「大企業がこれではイカン!」とネット上でも物議を醸したこのニュースですが、ちょっと待ってください。批判しているあなたは本当に最低賃金以上のお金を貰っているのでしょうか?

先日、ワタミグループの居酒屋がその地域の「最低賃金」で人材募集をしているとして、国会議員から批判を浴びました。「大企業がこれではイカン!」とネット上でも物議を醸したこのニュースですが、ちょっと待ってください。批判しているあなたは本当に最低賃金以上のお金を貰っているのでしょうか?

■そもそも最低賃金とは?

最低賃金とは最低賃金法に基づき、地域別や産業別の最低賃金について定めたものです。使用者は、この最低賃金以上の賃金を労働者に支払わなければなりません。

また、この最低賃金は基本的には時間あたりの賃金額、つまり「時給」で判定されます。「貰っている賃金額(通勤手当・残業手当など一部の賃金は除外します)÷自分の総労働時間」が最低賃金を下回っていれば、それは最低賃金法に違反していますし、自分は一生懸命働いた結果として、最低賃金以下のお金しか貰っていない事となります。ちなみに、筆者の住む東京都の地域別最低賃金は869円(H26.3月現在)で、全国の加重平均額は764円です。

時給制で働くアルバイトであれば、自分の時給は明白です。しかし、月給制で働くサラリーマンにからしたら、「自分の時給がいくらか?」というのは以外と意識していないのではないでしょうか?

■自分の時給を計算してみよう

「基本給(職務手当などは含む)÷173」で、自分の大まかな時給を計算することができます。(会社の制度によって勤務日数や所定労働時間は異なるため、実際の金額は多少前後します。)

※173の根拠※

1週間の所定労働時間を40時間とすると、1年間は52週なので年間の所定労働時間は40時間×52週=2080時間です。これを1ヶ月に換算すると2080時間÷12ヶ月なので、1ヶ月の所定労働時間は「約173時間」となります。

では、以下で具体的に計算してみましょう。

●基本給30万円のAさん

30万円÷173時間で時給は「1735円」(小数点切り上げ、以下同じ)になります。

民間給与実態統計調査結果によればサラリーマンの平均年収は約400万円なので、ボーナスが月収の1ヶ月分で年2回支給されると仮定すれば月収はだいたい30万円になります。アルバイトよりは良い時給貰ってるんだな、という印象でしょうか。

●基本給20万円のBさん

20万円÷173時間で時給は「1157円」となります。

大卒の初任給は一部上場企業の平均で20万円前後と言われていますが、時給で換算するとこのような金額となります。業種によっては都心であれば1200円前後の時給が支払われるアルバイトも珍しくないので、あまり高くないなという印象でしょうか。

・・・あれ、これだとどの地域でも最低賃金には該当しそうにありませんね。「じゃあ俺たちサラリーマンは大丈夫だ!」という声が聞こえてきそうですが、何か忘れていませんか?

■「サービス残業」を考慮して時給を計算すると・・・

社労士法人に勤める筆者としてはこのサービス残業の存在を認めたくないし、とても許容できないのですが、実態としてサービス残業をされているサラリーマンの方々は多いと思います。サービス残業に関する明確な統計データは私の知る限りありませんが、筆者の周りでも「そもそも残業代が全く支給されない」会社に勤める人が少なからずいます。(これはこれで当然、未払い賃金という別の問題になりますが・・・)

では、先ほどの時給計算の例をサービス残業があったとして再計算してみましょう。

●Aさんが、もしも毎月100時間のサービス残業をしていたら・・・

月の所定労働時間173時間にサービス残業の100時間を足すと、毎月273時間働いていることになります。毎月の基本給30万円÷273時間で、実質の時給は「1099円」となります。最低賃金こそ下回りそうにないですが、大卒初任給の水準すら下回る数値になってしまいました。

●Bさんが、もしも毎月100時間のサービス残業をしていたら・・・

同様に、毎月の基本給20万÷273時間で、実質の時給は「733円」となります。全国の平均賃金加重平均額(764円)を下回る数字となり、最低賃金法違反の可能性が非常に高い数値といえます。(このケースでは、残業代の未払いをはじめ他にも法令違反はたくさんありそうですが・・・。)

■まとめ

平均年収、初任給を例にとってざっくりと時給を計算してみましたが、皆さまご自身の時給はいくらだったでしょうか?筆者としては、「最低賃金よりは上だけど、近所のコンビニの時給と変わらない・・・。」「げ、最低賃金下回ってる・・・!」といった声が聞こえてこないことをただただ祈るのみです。

ただ、自分の現状を知れば次に進むべき道が見えてくるのではないでしょうか?

結果、自分にとって満足のいく時給だったのであれば、そのまま働き続けるのもありかもしれません。不満の残る結果であれば、社内外でキャリアアップの方法を模索することも考えられます。また、未払いの賃金が溜まっているようであれば、その支払いを求めて会社と交渉するという道もあります。

働き方に関しては以下の記事も参考にして下さい。

冒頭で紹介したニュース、世間的には「ブラック企業批判」として盛り上がっている部類のものかと思います。しかし、この記事を見ている皆様には「自分の現在地点を見つめ直す機会」「今後の働き方を考える機会」としてこのニュースを捉えていただきたいと、私は考えています。

社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 松永大輝

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