日本の銀行もガラパゴス状態?「パリ協定」に逆行する日本のメガバンク

CO2排出量世界第二位の米国がパリ協定離脱を表明した今、世界の民間企業は自らの社会的責任を改めて認識し「1.5-2℃目標」の実現に向けた取り組みを加速させている。

2015年12月、195ヵ国が世界の平均気温の上昇を1.5−2℃未満に抑えることを目標に炭素排出ゼロの社会実現を掲げた歴史的な合意「パリ協定」を採択した。

CO2排出量世界第二位の米国がパリ協定離脱を表明した今、世界の民間企業は自らの社会的責任を改めて認識し「1.5-2℃目標」の実現に向けた取り組みを加速させている。

また、世界時価総額上位5社を飾るAPPLE, GOOGLE, AMAZON, FACEBOOK, MICROSOFTなどの業界トップランナーによる積極的な温暖化対策も現在注目を集めている。その裏には、グローバル・ビジネスの資金源である、金融業界の動きが存在する。

世界の主要機関投資家が導いた「金融の脱炭素化」の流れに続くかたちで、炭素排出ゼロの経済に向けて世界の民間銀行は積極的に投融資先企業における炭素排出量の削減を目標とした取り組みを実施し始めている。

パリ協定を守る責任は銀行にもある

6月22日に発表された、世界37の民間銀行の気候変動リスクへの対応を格付けする最新の調査報告書「化石燃料ファイナンス成績表 2017」(Banking On Climate Change 2017)では「1.5−2℃目標」の達成に向けた銀行の取り組みが現在世界中で進んでいることが明らかになった。

パリ協定発効以来、科学者などの調べで世界の平均気温の上昇を1.5ー2℃未満に抑えるには、新規の火力発電所の建設が一切許されないことが分かった。

また、既存の石炭火力発電所を撤去する必要があるとも指摘されている。この明確な「炭素排出ゼロ」の目標が大きな追い風となり、近年、ヨーロッパ、イギリス、米国などの主要民間銀行が次々と炭素集約度の高い化石燃料産業への投資や貸出を段階的に減少させる方針を発表している。

最もCO2の排出量の高い石炭産業への資金提供について、「化石燃料ファイナンス成績表 2017」の調査対象となった37の主要銀行のうち22行が何らかの方針をたて、石炭鉱業への資金提供を抑制している。その中オランダのING、フランスのBNP Paribas、ドイツのDeutsche Bank、Bank of America、CITIなどを含む12行がセクター全体への資金提供を段階的に廃止すると発表している。

さらに、石炭火力発電への資金提供に関して、37行のうち21行が方針を打ち出し、資金提供に制御をかけている。これらの動きを見れば、2℃未満の目標達成に向けて石炭セクターへの資金提供を抑制している銀行が明らかに多数を占めていることが分かる。

「金融の脱炭素化」が世界的に主流化している証拠の一つであると考えられる。

日本のメガバンクは最低ランク

しかし一方で、日本政府がパリ協定の締約国となった関わらず、日本の銀行は最もCO2の排出量の高い石炭、石油、天然ガスの化石燃料産業へ巨額な資金提供を続けている。先ほどとりあげた、報告書「化石燃料ファイナンス成績表2017」の中では、日本の三大メガバンクは「F グレード」(成績の中で最も低いスコア)と格付けされた。調査対象となった銀行が全て「F グレード」となったのは邦銀と中国の銀行グループのみである。

同報告書に登場する米国、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリアなどの主要銀行と比べて、日本のメガバンクの格付けが低い根拠として、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)、三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)が世界の「脱石炭」の流れに逆行し、化石燃料の中でも最もCO2排出量の高い石炭産業への貸出を近年増加させたことが挙げられている。

さらに、環境負荷が極めて高い化石燃料関連企業による社会や環境への影響を監視・抑制するための明確な対策や方針を持たず、様々な社会問題を引き起こしているプロジェクトに日本の銀行が関与していることを調査は明らかにした。そのなかには、米国で大問題となった「ダコタ・アクセス・石油パイプライン」も含まれる。

Mizuho が No.1

日本の三大メガバンクのうち、パリ協定の後に環境負荷が極めて高い化石燃料への融資を増やした唯一の銀行はみずほである。この事実を受け、日本の銀行グループのずさんな気候変動リスクへの対応を問題視した環境団体有志は、みずほの環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みを評価する「みずほフィナンシャルグループ2016年ESG評価レポート」を「独立レビュー」として作成した。

このレポートで、みずほの炭素集約度の高い化石燃料への国際的な関与に加えて、同社が日本の化石燃料および原子力関連企業へのトップ資金提供者であること、そして東南アジアの熱帯林伐採を推進する企業に多額の資金を提供していることが判明した。みずほは2011-2016年の間、国内化石燃料関連企業へ約380億ドル(約4兆円)以上の融資と引受を行い、原発関連には約80億ドル(約8912億円)を融資した。

さらに、みずほは2014年から2016年の3年間で、化石燃料への国際的な融資を60%も増加させている。これはパリ協定で定まれた「炭素排出量ゼロ」への流れに明らかに逆行している行為である。世界の銀行が明確にしている社会や環境への影響を監視・抑制するための環境、社会、ガバナンス(ESG)方針を比較した結果、これらの分野でみずほの対応が欠如していることが明らかになった。

みずほが東芝の原発戦略を支援したことと同様に、環境や社会へのリスクを考慮せず、先がないエネルギー源に投資し続けることで、経済リスクへのエクスポージャーを増やしていると言っても過言ではない。この背景には、パリ協定の「1.5-2℃目標」に基づく気候変動対策の規制強化と再生可能エネルギーの価格急低下によって、化石燃料企業への投資が回収不能な「座礁資産」になることが予想されていることがある。

ダイベストメントすべき時?

毎年気候変動による影響が深刻化する中、住みよい地球環境を守るためには、預金者や投資家が、銀行の融資先や投資先事業による影響をより厳しく監視することが必要となってきている。

欧米で活発化する化石燃料への投資撤退を促すダイベストメント運動の影響を探ると、気候変動や人権に配慮した資金提供を求める消費者や投資家が増える事が、銀行業界の意識変革にも繋がっている。

日本の銀行業界がパリ協定を遵守し、炭素排出ゼロの経済を築くのに貢献するようになるには、消費者や株主、団体や企業が銀行に社会的責任を追及する行動が不可欠である。

みずほ銀行に対して気候変動や人権に配慮した資金提供を実施するための明確な取り組みを求めるために、NGO団体が6月23日(金)にみずほフィナンシャルグループの株主総会前で行った抗議アクション「無責任銀行ジャパン大賞2017」

炭素排出ゼロの経済へ

未来を脅かす銀行ではなく、「1.5-2℃目標」の達成に向けた具体的な行動を取る責任ある銀行を増やすために、みずほ銀行を始め、日本の民間銀行全社に以下のアクションを提案する:

●化石燃料及び原発関連企業への融資・投資の規模、資産額を開示すること。

●地球の気温上昇を1.5〜2度未満1に抑えることを目標に、 科学的な知見と整合した投資・融資方針を策定し、 投資・融資先企業における温室効果ガス排出量削減目標を達成するまでのロードマップを明確にし、その実行を宣言すること。

●2020年までに国内外の化石燃料および原子力発電事業への新たな投資・融資を凍結し、それらの投資・融資を再生可能エネルギー及び省エネ事業や社会貢献に積極的な企業へと移行すること。

350.org Japan について

350.org Japan は、日本の銀行に継続して環境に配慮した投資・融資方針を取り入れることを求めるキャンペーン、My Bank My Future を展開している。市民の声を銀行に届ける事によって、環境や人権に配慮した資金提供を行う銀行を増やし、より公平で安全な未来を実現させることを目指している。詳しい情報は公式ウェブサイトへ:www.mybankmyfuture.org

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