最近、「音楽や文学や映画なんかに何かと詳しいお兄さん的存在の人」って減ってきたと思いませんか?
10代の終わりごろになると「通過儀礼」のようにヌーヴェルヴァーグを観たり、ビートニク周辺の本を読んだり、ジャズを聴いたりすると思います。
そして以前はちょっと年上の男性でそういうことにすごく詳しい人がいて、ひとつひとつ薦めてもらったり、名画座や古本屋の使い方を教わったりしました。
でも、最近はそういう「文化中心に詳しい人」がいなくなったんです。
どうしてかなと考えていたら、最近は「全部、検索したらわかる」から、中途半端に文化に詳しい人が尊敬できるカッコいい存在じゃなくなってきたんです。
だって、近所のそのお兄さんに「ヌーヴェルヴァーグでオススメは?」って質問しても数作の有名な作品しか教えてもらえませんが、インターネットで「ヌーヴェルヴァーグ」と検索すると、有名なものから無名なものまで全部網羅できるし、その場で買えたり、無料で観たり出来るようになってしまったからです。
でもご存知のように、インターネットの中に全世界の全ての情報が詰め込まれているわけではありません。wikipediaに出ていない情報やyou tubeにあがっていない音楽はたくさんあります。
そしてこれからの時代、そんな「インターネットに出ていないような情報まで詳しい「ちょっとToo muchな人間」が生き残る時代になるのではと感じています。
ディスク・ユニオンという中古レコードを得意とする都内に多くの店舗を展開している会社はご存知でしょうか?
最近、面白いって感じるお店や動きはそんな「ディスクユニオン出身者」が多いことに気がつきました。
代々木八幡のカフェ・バルネの原田さん。新しいジャズ評論Jazz The New Chapterの柳樂さん。あるいは鳥取のカフェ夜長茶廊の石亀さん。青森在住のポーランド・ジャズ・ライターのオラシオさん。
みなさんに共通しているのは「ある特定のジャンルが誰にも負けないくらいとにかく深く掘り下げて詳しくて、そしてそれを今の時代にあわせて表現できる」という感覚のような気がします。
でも昔は、東京の音楽絡みの面白い文化はWAVE出身者が作っていましたよね。僕、実はWAVEで働いていたこともありまして、WAVEの店員ってとにかく音楽に詳しいんです。でも、それを店舗で表現するときには「バランスのとれたお洒落なWAVEマナー」からははみ出ないんですよね。
それが、ディスク・ユニオンだと、すごくはみ出てるんです。なんだか音楽が好き過ぎて「ちょっとToo Much」になってるんです。
例えばディスク・ユニオンの出版部でDU BOOKSというのがあるのですが、出している本が何かと「Too Much」なんです。
例えば「少女系きのこ図鑑」とか「メタルめし」とか「アレクサ・チャンIT」とか、もうそのジャンルが好きな人だと必ず手にとってしまうような「え?!」って立ち止まってしまう本を出しているんです。
実は先日、ディスク・ユニオンの社長の広畑さんとお話しする機会がありました。
僕は音楽関係者と話すときは必ず「これからの音楽ソフトとインターネットの関係はどうなるんでしょう?」という話をするのですが、広畑さんはこう答えてくれました。「うちの会社は音楽が好きな人間が、音楽に携わって充実した仕事が出来ればそれで良いんです」
ディスク・ユニオンを支えているのはこれだったんだな、と思いました。
本当に狭いジャンルがあまりにも好き過ぎて、そしてあまりにもそのジャンルに詳しくて「インターネットより詳しくなってしまう人」って、やっぱりいるんです。
そんな人たちがディスク・ユニオンにはたくさんいて、そしてインターネット以降の東京の日本の文化を支えているんだなと思いました。
インターネットより詳しい人が生き残る時代のような気がします。そして音楽だけじゃなく、文学や映画といった他の分野にもそういう人がたくさんいて、これから面白い文化を作っていくように思います。