林業スクール 深刻な人手不足を背景に相次ぐ開校

近年、実践的な林業を教えるスクールが全国各地で相次いで開校している。時代に適応した新しい林業の人材が求められている。

森林文化協会の発行する森と人の文化誌『グリーン・パワー』(月刊)は、森林を軸にしながら自然環境や生活文化などの話題を幅広く発信しています。3月号の「NEWS」では、森林ジャーナリストの田中淳夫さんから、各地で開校が相次ぐ林業スクールについて報告を受けました。

近年、全国各地で実践的な林業を教えるスクールが相次いで開校している。

特に都道府県が関わる「林業大学校」に相当するものは、これまで長野県と岐阜県にあるだけだったが、2012年、京都府に西日本で初めて設置された後、昨年は秋田県と高知県にでき、今年は徳島県や大分県でもオープンする。山形県では農業大学校に林業コースが新設される。また民間の林業スクールも登場してきた。その内容と背景に迫ってみたい。

ちょうど林業機械実習の真っ最中だった。訪れた山の中の現場では、学生たちが班ごとにハーベスタやフォワーダなどの高性能林業機械を操縦し、伐採した原木を別のところへ運んだり積み上げる練習をしていた。

丸太を集材用のフォワーダに積み込む京都府林業大学校の実習=写真はいずれも、田中淳夫さん提供

先駆けとなった京都府

森の中では、チェーンソーで木を伐倒する講習も行われていた。姿勢から始まり、倒す方向の定め方や切り口の角度など丁寧な説明が行われていた。学生の表情も真剣だ。

京都府立林業大学校の授業風景だ。京都府京丹波町にある2年間の全日制で、1学年約20人。

入学生の多くは高校新卒だが、社会経験のある学生も少なくない。しかも3分の2は他府県出身で北海道、東北、九州からも来る。近年は女子も増えて、現1年生には4人いた。

学ぶのは、伐採や搬出、育苗、植林など現場作業はもちろん、経営学や森林科学、木材加工の講座もある。森林公共政策論も京都府立大学に通って受講する。さらに国内の先進地だけでなくドイツへ視察旅行に行き、実際の職場で働いてみるキャップストーン研修も行う。

「林業界は慢性的に人手不足です。担い手育成事業は幾度もやってきましたが、短期間の研修では限界があります。そこでしっかりした教育機関をつくりたいと考えたのです」(京都林大の開校に関わった木村祐一副主査)

それが府知事に取り上げられて、一気に開校に至ったのだ。

説明を受けながら、チェーンソーで木を伐倒する京都府林業大学校の学生

すでに卒業生を2度世に出しているが、就職も順調だ。多くが各地の森林組合や民間林業事業体に勤めたり、公務員になった。新しい林業界の人材育成は、軌道に乗りつつあるようだ。

森林組合の運営も登場

林業スクールの形態は、専修学校の認可を取ったところや農林部署の管轄、社団法人の運営......とさまざま。内容も数カ月の短期コースや1年制、2年制とあるほか、教育内容も多岐にわたる。また社会人向けに開講したところもある。

鹿児島大学や愛媛大学では、林業現場で働く人対象に高度な林業を学び直すコースを設けた。その中でも異色なのは、岩手県の釜石・大槌バークレイズ林業スクールだろう。

ここは釜石地方森林組合の運営なのだ。同組合は、東日本大震災で甚大な被害を被った。東京からイギリスの金融会社、バークレイズ・グループの社員が復興支援ボランティアに入ったが、瓦礫の片づけなどが一段落した後、次は雇用創出に取り組むことになった。そこへ森林組合から林業スクールを開校するというアイデアが出されたのである。

もともとバークレイズは、全世界で500万人の若者の起業と就業を支援する目標を掲げており、その一環でもあった。森林組合の高橋幸男参事は「最後のチャンス」とする。次世代を担う人材を今のうちに養成しないと、将来行き詰まると危惧するのだ。

ここの林業スクールは2015年1月からスタートした。講義は月1回1年間行われる。少人数で実践的な実習のほか、幅広く森林や林業について学ぶ一般向けの公開セミナーとの2本立てだ。

定員は約10人。新卒で入学した人もいるが、すでに林業現場で働く人や社会人も多い。山林を相続した医師もいるという。開校期間は3年間で、経費はバークレイズ側が負担する。

釜石・大槌バークレイズ林業スクールでは、バークレイズの社員も講師を担っている

内容は現場の作業技術のほか、マーケティングや流通、IT技術まで幅広く、講師も各界から選定した。バークレイズからも講師を派遣してもらっているそうだ。「緊急雇用で森林組合に入りましたが、現場では新人に対して『見て覚えろ』という教え方で、体系だった技術が身につきません。だから収入も低い。ここできちんと学びたいんです」

入学動機を語るのは、岩手中央森林組合に勤める本多公栄さん。毎月片道2時間半をかけて通っているという。

一方、「コミュニケーションの授業が目からウロコだった」と語るのは、釜石地方森林組合職員の加賀洋希さんだ。銀行に勤めていたが、震災を機に地元にもどった。森林組合に勤めたものの、仕事は手さぐり状態だった。

「講義では、交渉相手に何をどのように伝えるのか、話し方や構成などを教わり非常に役立っています。マーケティング論も今後の仕事に活かせそうです」

震災復興の新たな動きになるだろうか。

できるか? 新しい人材養成

全国各地に林業スクールが誕生する背景には、林業界の深刻な人手不足がある。従事者は5万人台まで減り、65歳以上が2割を超える。だが、それだけではない。

林業は、全業種の中で最も事故率が高い。死傷年率が全産業平均の12倍以上という高率だ。その裏には、技術の伝承がちゃんと進まずに自己流が横行しているうえ、安全教育が行われていない実情がある。

しかも機械化や低コスト化が求められる一方で、合板やバイオマス用の木材需要が増えるなど経営環境は大きく変わっている。にもかかわらず人材育成が追いつかず、新規就業者も約半分が5年以内に離職してしまう。それが林業再生が進まない理由の一つになっている。

地方創生が叫ばれる中、山村地域の振興に林業は欠かせない。しかし肝心の人材が危機的な状況なのである。

同時に林業スクールを地方の活性化の起爆剤にしたいという思いもある。釜石地方森林組合では、2月に東京でも説明会を開催したが、これはUIターンを呼び込むためである。

とはいえ、時代に適応した新しい林業の人材を養成するには、それに合った講師陣とカリキュラムが欠かせない。また卒業生を受け入れて活用できる職場の確保が重要だ。開校ラッシュの先を見据えた展開が求められるだろう。

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