限界費用ゼロからゼロ炭素社会へ/  つながり経済が資本主義に代わる

人々が協働でモノやサービスを生産し、共有し、管理する、協働型のコモンズ(共有資源)が広がる。これが21世紀中に到来する新しい社会の姿である。

森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を発信しています。3月号の「時評」では、話題の書『限界費用ゼロ社会』を、松下和夫・京都大学名誉教授が紹介してくれました。

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ジェレミー・リフキン氏の近著『限界費用ゼロ社会』が注目を集めている。リフキン氏は『エントロピーの法則』、『水素エコノミー』、『第三次産業革命』などで知られる著名なアメリカの文明評論家である。

彼によると、現在、モノのインターネット(IoT)を原動力とする経済パラダイムの大転換が進行しつつあるという。

IoTは、①経済活動をより効率的に管理するコミュニケーション・テクノロジー、②より効率的に経済活動に動力を提供する新しいエネルギー源、③経済活動をより効率的に動かす新しい輸送手段、から構成される。新しいエネルギー源は、大規模集中型の化石燃料や原子力ではなく、分散型の再生可能エネルギーである。

これらによって、効率性や生産性が極限まで高められると、モノやサービスを追加的に生み出すコスト(限界費用)は限りなくゼロに近づく。そして将来モノやサービスは無料になり、企業の利益は消失して資本主義は衰退を免れない、と大胆に予言する。

そして代わりに台頭してくるのが、共有型(シェアリング)経済(エコノミー)である。人々が協働でモノやサービスを生産し、共有し、管理する、協働型のコモンズ(共有資源)が広がる。

これが21世紀中に到来する新しい社会の姿である。

●カーシェアリングは、国内でも広がりを見せ始めた=東京・銀座で(森林文化協会撮影)

リフキン氏は日本語版に寄せて日本とドイツを対比する章も書き下ろしている。その中では、日本では燃料電池車への移行では世界をリードし、スマートシティへの取り組みも進み、音楽や情報を共有し、住宅や衣類・傘などをシェアする限界費用ゼロの新たなビジネスも広がっていることを紹介している。

しかしリフキン氏は、ドイツが、20世紀型の化石燃料と原子力から脱し、限界費用がほぼゼロで採取できる分散型の再生可能エネルギーへと迅速に移行しようとする一方、日本は、中央集中型でますますコストのかかる原子力と化石燃料のエネルギー体制に執着しているので、日本企業は国際舞台での競争力を失う一方だ、と断じているのである。

限界費用ゼロ社会でモノとサービスをシェアするつながり経済の到来は、環境や社会にとって何を意味するだろうか。

日本全体が一つの家族のようにモノやサービスをシェアすることは資源の節約と有効利用になる。同時に、地域分散・ネットワーク型で、人々がそれぞれの能力を生かして協働して地域のエネルギー・資源を上手に生かす社会となれば新たな地域創生につながる。

地域の自然資本から生み出される生態系サービスもコモンズとして持続可能な維持管理がされるだろう。

このような社会に移行することによって、生活の質を落とさないで、モノやエネルギーの消費を減らすことが可能になるだろう。そうすると、気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定がめざす「ゼロ炭素社会」への道筋が開けてくることも期待されるのである。

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