都市にも生態系づくりの視点を/   期待されるABINC認証

2016年2月末に、生物多様性保全に取り組む工場、オフィスビル、商業施設、集会場等や集合住宅の11施設が「いきもの共生事業所®」として認証された。

森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。6月号の「時評」では、京都学園大学教授・京都大学名誉教授の森本幸裕さんが、いきものとの共生に配慮した建築物件の認証制度を紹介してくれました。

本年2月末に、生物多様性保全に取り組む工場、オフィスビル、商業施設、集会場等や集合住宅の11施設が「いきもの共生事業所®」として認証された。いきもの共生事業推進協議会(ABINC)が「豊かな生態系づくりに配慮した物件」と認めたもので、今回で3回目となる。まだ知る人も多くない取り組みだが、自然共生型社会へ民間主導で向かう動きといえる。

●ABINC認証(集合住宅版)を受けた東京都世田谷区の物件。着実にいきものの生息場所として機能し始めている=写真提供:三菱地所

都市開発といえば里山を切り開き、湿地を埋め立てて、いきものを絶滅に追い込む大きな要因であることは否めない。何とか折り合いをつけようとする公園緑地や緑化だって怪しかった。高度経済成長の時代には、都市域で最も自然性豊かな河川敷が、都市公園制度に組み込まれてグラウンドとなり、造成地の斜面はすぐ緑になるからと外来芝草で緑化され、その後芝草は河川敷にエスケープして在来種の生息場所を奪うことになった。

紅葉が美しいからと植栽された外来種ナンキンハゼは、奈良の春日山原始林にどんどん侵入を続けている。

ましてや企業活動は自然環境への負荷をできるだけ外部化するのが経済合理性なので、行政の規制や指導にも限界があるのは否めない。だが、自らの存続基盤である生物多様性の危機に目覚めて、持続的な土地利用に向けて努力している事業者もある。そのような取り組みを、科学的な検証も踏まえて権威ある機関が認証していけば、いわゆる「生物多様性の主流化」に貢献するものと期待される。主流化とは、みんながその気になって、生物多様性の保全と持続可能な利用を、地球規模から身近な市民生活のレベルまで、さまざまな社会経済活動の中に組み込んでいくことだ。

生物多様性条約の締約国会議(COP)で、この重要性に気付いて「民間部門の条約への参画」を促す決議が採択されたのは、2006年のCOP8だ。氾濫原を遊水地の公園として担保しながら、都市開発を進めたクリチバ(ブラジル)で開催された時のことだった。これを受けて我が国の第三次生物多様性国家戦略(2007)でも初めて「企業の参画」を求め、企業も動き出した。

企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)が立ち上がり、多様な企業と研究者の共同研究も進められてきた。原材料調達をはじめ、企業と生物多様性の関連に関する研究と啓発活動が進む中、専門家でない企業人にも生物多様性への理解と行動を促すツールである「いきもの共生事業所®推進ガイドライン」や「土地利用通信簿®」は、持続的土地利用ワーキンググループの成果だ。

事業所がABINC認証を得るには、緑地がその地域の自生種や生物生息環境に配慮しているかどうかなどを18項目で採点し、基準をクリアする必要がある。認証の有効期間は3年間で、更新の際は改めてチェックする。環境配慮型の集客施設やマンションはこの認証が付加価値となるはずだ。さらに、認証事業所に留まらず、施設公開などを通して地域へと生物多様性の主流化の波が浸透していくことも期待される。

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