殺処分された動物の骨に咲く花

小さなポットに花が咲いている。この花は、殺処分された動物の遺骨を混ぜた土に植えられている。青森県十和田市の三本木農業高校。愛玩動物研究科の2、3年生が取り組む「命の花プロジェクト」だ。

小さなポットに花が咲いている。この花は、殺処分された動物の遺骨を混ぜた土に植えられている。

青森県十和田市の三本木農業高校。愛玩動物研究科の2、3年生が取り組む「命の花プロジェクト」だ。

2012年3月、青森県動物愛護センターを見学した生徒たちは、捕獲されたり、持ち込まれたりした犬や猫が殺処分されていることや、処分後に残る遺骨は廃棄物として捨てられていることを知る。

高校生の自分たちにも何かできることはないか。そう考えた生徒が発案したのが、骨を土に混ぜ、花を咲かせるというものだった。花を多くの人に届けることで、殺処分のことを広めることができる。ごみになって終わるのではなく、植物になってもう一度生まれ変わることができる、と考えた。

この取り組みへは賛否両論が寄せられたが「農業高校生の甲子園」と呼ばれる2013年農業クラブ全国大会の意見発表競技で、最優秀賞と文部科学大臣賞に輝いた。その後、マスコミの取材も増えた。

「命の花プロジェクト」は後輩たちに受け継がれ、中学校の道徳の授業でも扱われるなど、広がりを見せている。

青森市中心部から東へ車で20分ほどの場所に、青森県動物愛護センターはある。ガラス張りの建物で、思いのほか明るい雰囲気の場所だ。広大なドッグランがあり、動物とのふれあいを楽しむプログラムも用意されている。かわいらしい犬や猫が展示され、引き取りを希望する人には講習会などを受けてもらった上で譲渡する。手数料は1頭3千円。

だがそこから車で10分ほどの山の中にある「管理施設」は一転、門に閉ざされ、ひっそりと建っている。

中に入るとすぐ、動物たちの声が聞こえてくる。奇声、悲鳴、叫び声。死が迫っていることを察知しているのか、助けてくれ!と訴えるような鳴き声が耳から離れない。おりのすみでは小さなチワワが震えていた。

最期の時、おりの後ろの扉が開くと、正面がわのおりがせまり、犬たちは幅1メートルほどの細い廊下に出る。ここでも追込誘導機という装置によって、小さな金属製の箱に収められる。あとは扉が閉まり、そこに炭酸ガスが噴射され、犬たちは「安楽死」する仕組みだ。

猫の場合は、職員が手作業で小型の処分機に投入する。

子犬や子猫の場合、炭酸ガスでは苦しむ場合があるため、注射による安楽死も選ばれる。

動物の死体はそこから自動的に焼却機に送られる。こうしてすべての作業が終わると、最後に残るのは灰になった遺骨だ。米袋ひとつに約15キロ、推定100匹分ほどの遺骨が詰められる。しばらくは保管されるが、年に2回、産業廃棄物として処分されている。花を手向けられることも、墓に納められることもない。

高校生たちは、その骨にショックを受けた。

2012年春、高校2年生だった向井愛実さんは愛護センターの見学後、放課後の何気ない会話の中で、自分たちにも何かできないかと話した。担任の先生にも相談し、骨が肥料になることを知った。そこで思い付いたのが、骨をまぜた土で花を育てる「命の花」だった。「骨をごみにしたくない。単純にその思いだけで始まりました」と向井さん。

愛護センター側は生徒たちの計画を好意的に受け止めた。前例のない遺骨の引き渡しに、法令上問題がないかなどをすぐに調べた。動物の焼却灰は法令上、廃棄物(ごみ)以外の何物でもないことを、改めて知る結果となった。

担任は当初、生徒たちへの批判を心配したという。動物が好きな人からはおおむね受け入れられたが、苦手な人からは「気持ち悪い」「かえってかわいそう」などの否定的な声もあったからだ。

だが向井さんは「動物が嫌いな人がいるのは仕方がないこと。でもそれにかかわらず、命の大切さは訴えるべきだ」と話す。

引き取った骨は土に混ぜるために、細かく砕いてふるいにかけなければならない。その作業は想像以上につらい作業となった。レンガを使って手作業で骨を砕いていく。中には燃え残った鑑札、首輪の金具、リードの留め具、歯なども出てくる。自然に涙があふれでた。

出来上がった土に、全員で種をまく。無念の死を遂げた動物たちに、一粒一粒祈りをこめるように。

向井さんの卒業後、今年も後輩たちが活動を継続している。石橋香織さん(現在3年)は「最初は正直、やりたくないと思いました。でもその内容を知るうちに、亡くなってしまった命を、せめてもう一度花として育ってほしいと思うようになりました」と話す。

育った花は、さまざまなイベントなどで来場者に配られる。来場者は花を通して殺処分の現状や、その思いを引き継いでいく。

生徒たちはさらに議論を深め、自分たちよりも下の年齢に伝える必要も感じ始めている。今年は中学校の道徳の授業で出前授業もはじめた。今後は紙芝居もつくってさらに低年齢の子どもたちにも訴えていきたいという。

●いつか殺処分がゼロになる日を目指して。

2013年度、青森県動物愛護センターに来た犬と猫は合計2533頭。若くて、健康で、穏やかな性格のものは、運が良ければ新しい飼い主にもらわれていくこともあるが、法律や条例により、捕まえられた野良犬やセンターに持ちこまれた犬猫は、状態によって数日から1週間ほどで処分される。この年、引き取られたものは490頭。残りの約2千頭はほぼ全数殺処分された。

2012年度、全国では約16万2千頭の犬猫が殺処分されている。

犬の殺処分は幸い、全国的に年々、減少傾向だ。だが繁殖力の高い猫の殺処分は改善が見られない。結果として日本全体では毎日約440頭の犬猫が殺されている(2012年度、環境省)。

青森県動物愛護センターの荻野さんは「殺処分の数を減らすだけなら、受け入れを拒めばすむ。だがそうしたら捨て犬・猫が急増するでしょう。根本的には人間の意識を変えなければ解決にはならない」と話す。センターでは訪れた子どもたちに、動物の心臓の音を聞かせている。「ドクドクドクって、人間と同じ音がするんです」。

去勢や不妊手術、予防接種の励行、マイクロチップの導入など、物理的な対策も欠かせない。「啓蒙と対策、それが車の両輪となれば殺処分ゼロに近づくはず。我々の仕事は本来ムダな仕事です。一日も早くなくなることが望ましい」と話す。

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