シルクドソレイユが買収された!!騒動をめぐるアーティストの想い

正直、自分はものすごい不安でした。会社が買収されるとなれば、様々な経営方針や運営方針が変わることが予想されます。

日本時間の2015年4月21日未明、シルク・ドゥ・ソレイユが買収されたニュースが駆け巡りました。

買収を決めたのは米国テキサス州に本拠地を置く「TPG Capital LP」と中国の「Fosun Capital Group」、そしてカナダ第二の規模を誇る年金基金団体「Caisse de dépôt et placement du Québec」の3つ。

創業者のギー・ラリベルテ氏は今後も10%程度を所有し、シルク・ドゥ・ソレイユのクリエイティブ・アドバイザーとして社内に残る方針だとか。またこれらの企業が、それぞれどの割合で買収をしたかは公表されていません。

買収されるまでの内部の状況

2014年の年末にシルク・ドゥ・ソレイユ売却のニュースが流れました。

数日後には「投資者を探しているが心配ない」という手紙がシアターに貼りだされました。この時にようやく、我々ショー関係者はシルク・ドゥ・ソレイユの置かれた状況を知ることになりました。

当初は20-30%程度の売却と噂されていました。しかし蓋を開けてみるとおよそ90%の売却。ギー・ラリベルテ氏は今後10%程度しか保有しないと言われています。

正直、自分はものすごい不安でした。会社が買収されるとなれば、様々な経営方針や運営方針が変わることが予想されます。場合によっては、ショーの打ち切りや入れ替えがこれまで以上に加速するのでは?と懸念しました。

しかし、同僚のアーティスト達はそこまで不安に思っていないようでした。むしろ彼らは「この転換期を経て、より良くなればいい」と非常に前向きに捉えているのです。シアター内でこの話題が話されることも殆どありませんでした。

ピクサーも買収されて成功した

世界的に有名なCGアニメーション制作企業の「ピクサー」も、最初は買収から始まっています。その買収者がApple創業者のスティーブ・ジョブズであることは有名ですよね。

創業当初のピクサーは赤字を出し続けたといいます。出資者のスティーブ・ジョブズはAppleを追われた直後で、自身の立ち上げた企業を軌道に乗せるのに手一杯。利益の出ないピクサーの役員達と何度も衝突したと言います。

しかしその度にスティーブ・ジョブズはピクサーの持つ独自性を信じ、ピクサーの創作活動には一切の口出しをしなかったと言います。彼はピクサーの持つコンピューターアニメーションの可能性を信じたのです。

その後のピクサーの大成功は説明の必要ありませんね。トイ・ストーリー、Mrインクレディブル、カーズなど、輝かしい創作の歴史は全てスティーブ・ジョブズの買収がなければ始まらなかったのです。

買収されることへのアーティストの想い

欧米では買収=悪いという印象は薄いようです。これはあくまで会社の成長の手段の一つ。独自性を持続させるための手段と捉えているのだと思います。

そのため同僚のアーティストも過剰な不安を抱いていません。むしろ今後の発展を楽しみにしているように見えました。

ただ今回の買収を決めた創業者のギー・ラリベルテ氏の心境は察するに余りあります。コメント映像の彼はどこか疲れが見え、以前ラヌーバを見に来た時よりも痩せ細った印象でした。

30年以上にも及びシルク・ドゥ・ソレイユを発展させ、これほどまで世界中でサーカスを有名にした人は他に居ません。それは観客だけでなく、我々アーティストにとっても同じこと。一塊のアスリートだった自分達をサーカスに迎え入れ、一流の振付と舞台を用意してくれた。素晴らしい共演者とステージを共に出来るのは掛け替えの無い経験です。

これも全てギー・ラリベルテ氏の努力の賜物。一人のアーティストとして感謝してもしきれません。コメント映像で必死に明るく振る舞い笑いを取るギー氏を見ていると、心が痛みます。

今後に期待すること

今回シルク・ドゥ・ソレイユを買収した企業はいずれも、これまでの企業文化を壊すこと無く発展に力を注ぐとコメントしています。なかでも中国のFosun Capital Groupはアジアのマーケット発掘に力を入れると発表しており、今後の展開が楽しみです。

クリエイティブには時間とお金がかかり、失敗のリスクが避けらません。もしギー氏が利益のためだけにシルク・ドゥ・ソレイユを動かしていたら、間違いなくもっと早くに潰れていました。今も世界で高いブランド力を保っているのが、彼の最大の功績です。

シルク・ドゥ・ソレイユは創業者のギー・ラリベルテの手を離れたかもしれません。しかし彼のクリエイティブ・マインドはこれからも社内で生き続けることでしょう。

(2015年4月21日「なわとび1本で何でもできるのだ」より転載)