安倍一強体制と野党再編の行方

野党再編後の新党は、社会的公正と経済活力を両立させ、いろんな人の価値観の多様性を認める開放的な社会を目指します。

これまでの安倍内閣の経済政策は、強欲な金融資本主義と国家統制主義が共存したものです。農協改革でみられたように、「1億総株式会社化」を進めて、効率一辺倒の社会をつくり、しかも民間部門を政府が行政指導で操縦するというモデルです。そして、国民は高齢者も女性も経済成長のために奉仕すべきで、大学教育すら経済成長のためにあると言わんばかりです。そこには多様性を尊重する姿勢はみられません。

本来、賃金引上げは経営者と労働組合で決めることですが、安倍内閣は露骨に介入してきました。女性役員の登用も、「少なくとも一人は入れろ」と経団連に指示。企業経営の根幹である設備投資も法人税の軽減との引換えで、経団連は約束させられました。一時は内部留保に課税するなどの「脅し」まで使いました。宏池会をはじめ戦後保守政治の美徳であった権力への抑制的な態度は消えてしまいました。

また、人口1億人維持のための「産めよ、増やせよ」との人口政策も、戦時中の近衛文麿内閣以来73年ぶりに復活しました。この時の目標も同じく1億人で、「出産数は五児」というところまで決めましたが、今回は、さすがにそこまでは遠慮したようです。

そして、「反知性主義」とも評される学問や知的な積み重ねへの軽視は、法的安定性を損ねる憲法解釈の変更で極まりました。また、受信料は党派を超えて国民が払っているため、NHKの人事や予算は必ず全会派一致で行うという国会の良き伝統を一気に崩し、与党だけで強行採決しました。経済成長に役に立たないということで、人文社会科学など「文系」の学部、大学院の廃止・転換が文部科学省通達で指示された時には、腰を抜かすほど驚きました。知性を軽んじ、文学や哲学をたいせつにしない国に未来はありません。ここまで政府が暴走しても、マスコミは批判することなく、事なかれ主義で日々の時間が流れていきます。

それもこれも、野党がだらしなさ過ぎ、一強他弱の政治状況を続けているからです。私は緊張感のない政治の要因をつくっていることを深く反省しています。選挙による政権交代という歴史的な使命を終えた民主党は、すみやかに生まれ変わるべきです。企業活動、個人の信条や生活への国家の介入を避けるという、本来の意味の「自由主義(リベラリズム)」による寛容で穏健な中道新党が今こそ必要です。その意味で、北海道大学の中島岳志教授の提唱する「リベラル保守主義」という言葉が私にはしっくりきます。

私たち民主党の改革派がそのまとめ役になって、野党を再結集しなければ、与党の思うつぼです。野党再編後の新党は、社会的公正と経済活力を両立させ、いろんな人の価値観の多様性を認める開放的な社会を目指します。キーワードはインクルーシブ・グロース(inclusive growth)。一部の人だけでなく、みんなで成長の成果を分かち合うという意味です。再編のためには、「おおさか維新の会」にも呼びかけていきたいと思います。野党が割れていたら、今のように企業や個人の自由が制約されかねない政治が続きます。

1980年大平内閣、1986年中曽根内閣の2回の衆参同日選挙は与党の圧勝でした。2016年夏までに、残された時間はそんなにありません。

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