「ワーキングプアを量産する児童養護施設は、いますぐやめろ」論に反論してみる

費用の比較が生活費と養育費をごっちゃにしているなど細かい突っ込みも多々あるのですが、ポイントを絞って取り上げます。

児童相談所の決定により、保護者のない児童、虐待されている児童、

その他環境上養護を要する児童を入園させ、家庭に代わって養護し、

あわせて退所者への相談、その他の自立のための援助を行うことを目的とする。

-児童福祉法第41条より、児童福祉施設の意義-

先の民営児童養護施設である星美ホームに引き続き、

本日は都立の児童養護施設である石神井学園へと視察に伺いました。

※星美ホームの過去記事はコチラから。

その起源は明治5年までさかのぼり、戦後から一貫して日本の

児童養護を最先端で担ってきた、国内最大級の大規模児童養護施設です。

その敷地は23区内にありながら3万㎡を超え、

グランドまで完備した敷地内には100名を超える児童たちが生活しています。

(定員は134名)

星美ホームも100名を超える大規模児童養護施設でしたが、

同じ役割を担う施設でもこれほど違うものかと驚くほど、

つくりも雰囲気も異なるものを感じます。

施設型の石神井学園ではありますが、同時に地域の住宅を利用して

職員と児童がより家庭的な環境で暮らす「グループホーム」も積極的に導入しており、

少しでも子どもが愛情を感じられる環境を与えようとする、大変な努力が垣間見えました。

さて、そんな中でつい先日、ネット論壇において

掲題でも触れた言説が登場して少々話題となりました。

1人に1億円以上かけて、ホームレスやワーキングプアを量産!?

『明日ママ』でも描けなかった、児童養護施設をいますぐ止めるべき理由

(登録制ですが、無料で読めます)

費用の比較が生活費と養育費をごっちゃにしているなど

細かい突っ込みも多々あるのですが、ポイントを絞って取り上げます。

まず、児童養護施設出身者には低学歴者や低所得者が

多いことは事実で、私も前回の記事で言及しました。

後に紹介する東京都が実施した施設退所後の追跡調査でも、

施設出所者の生活保護受給者は9.5%。都内の生活保護受給者割合は1.8%と比べて、

その割合は極めて高いものになっています。

その他、正社員比率、高校卒・大学卒の比率など、

あらゆる指標をみても施設出所者の厳しい現実が伺えます。

が、このすべての要因が児童養護施設にあるわけでも、

それをなくせば解決するというものではありません。当たり前ですが。

(まあこの辺りは、筆者も炎上するのを狙って煽って書いているのでしょう)

一方で、前述の記事が指摘するように、日本では里親の比率が低く、

家庭的環境で育てた子どもの方が優位であることはまったくその通りです。

里親制度の周知徹底や、先進国では導入されている里親受け入れ世帯への

アダプション・クレジット(税控除措置)などは、真剣に検討されるべきでしょう。

東京都単独でできることも、まだまだあるはずです。

しかしそれでも、すべての施設をなくして里親に一本化することはできません。

筆者は「子どもに恵まれなかった夫婦」が里親になることを想定していますが、

そもそも現在の児童養護施設で預かっている児童たちは、虐待やネグレクトなど

深刻な愛情不足を受けて、心に傷を負った状態で施設入所を余儀なくされたケースが過半です。

単純に両親を亡くした恵まれない子どもを引き取ることとは、

千里の隔たりよりもハードルが高いことは間違いありません。

これから日本の児童養護の方向性として更なる小規模化・家庭化を進め、

里親制度の普及に尽力していくとしても、現在の児童養護施設は過渡期の措置として、

今後すくなくとも十数年はなくすことは現実的ではないでしょう。

とはいえ、児童施設出身者に問題が多く、改善の余地が多いことは確かです。

「負の連鎖」を断ち切り、立派な納税者へと成長してもらうために、

どのような改善策が考えられるのでしょうか。

やらなければいけないことは多岐に渡りますが、

その中の一つが「自立支援」です。

東京都が平成23年に独自に行った、児童養護施設出身者の

追跡調査・アンケートは、この分野において珍しい貴重な定量的データですが、

この多くの項目が「自立の際に相談する適切な相手がいること」の重要性を示唆しています。

(進学後、相談相手がいる児童の方が退学率が優位に低いなど)

ここに着目した東京都は、平成24年より

「自立支援コーディネーターの配置」という独自政策を展開しています。

これは非常に先進的かつ有意義なもので、高く評価されるものです。

しかしこちらも、まだまだ十分ではありません。

現在の東京都の政策ですと、コーディネーターの配置は、

施設一つにつき一人までと定められています。

つまり、20~30人くらいの小規模施設も、本日視察に訪れた

石神井学園のような130人規模の施設も、どちらも1名分しか

人件費が加配されない仕組みとなっています。

こうした点につき、人数に応じた適切な人員配置がなされ、

更なる改善が図られるように政策提言をしていきたいと思います。

11月20日の委員会では、早速こちらを取り上げる予定ですので、

ぜひご注目いただければ幸いです。

長くなりましたが、この分野はできること・やりたいことがたくさんあるな...。

それでは、また明日。

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