いま地方議会で起こっている反動は、古い政治家たちの「断末魔の悲鳴」である

5月も最終日。4月に統一地方選挙が終わった各地方議会では議長や委員長などのポスト選出が終わり、新体制の門出を迎えています。

5月も最終日。4月に統一地方選挙が終わった各地方議会では議長や委員長などのポスト選出が終わり、新体制の門出を迎えています。

その中で東京都23区の議会で2つほど、残念な事態が発生しており、この点について情報共有と私心を述べたいと思います。

まず地方議会というのは当選して議員のメンバーが替わった後、思想信条や政策が近い議員同士で「会派」と呼ばれるグループを組みます。

これは政党が中心にはなるものの、国会と違って二元代表制を取ることもあり、必ずしも国政政党と同じ組み合わせ会派を組まないこともありますし、同じ自民党でも歴史的経緯で2会派に分かれている、なんて地方議会もあります。

詳細は過去記事を→

都議会のお話しVol.1 ~会派ってなに?

基本的に「議会は数」ですから、上述の記事の通り、会派の人数によって議会ポストや発言時間が決まっていきます。簡単に言えば「多ければ多いほど、議会活動が有利」になるわけです。

最大与党が内閣を出すという国会と異なり、地方議会では必ずしも「多数派」を形成する必要はありません。

首長の提案に是々非々でやっていくのだから、そもそも会派なんてグループは議員個人の自由な議会活動を

制限するものであり、必要ないではないか!という意見もあります。

一方で民主主義の議会においては、議論を尽くした上で最後に決めるのはやはり「多数決」。この意思決定のプロセスを円滑に行うためには「会派」という枠組みがあった方がスムーズで合理的である、という立場も根強いです。

以上が前提となる基礎知識。

しかしながら、たとえ会派の人数が少なくても地方議員たちは全員が等しく民意を受けて当選した対等な立場です。少数会派だからといって、議会運営から置いてけぼりにされることは許されません。

また民主主義における「数の論理」の本当の意味は(よく誤解されている方が多いのですが)「多数決に至るプロセスの中で、いかに少数意見を組み上げられるか」という点にこそありますので、議会には多数派の横暴ができないように様々な仕組みが仕掛けられています。

その一例が「議長は第一会派から、副議長は第二会派から選出する」「各委員会の委員長ポストは、ドント式で各会派に割り振っていく」という『伝統』であり『慣習』です。

これは都議会や多くの23区議会などで認められるもので、すべてを多数決で決めるような「数の横暴」が起こらない知恵が働かされています。

もちろんまったく別のポスト選出方法を取っている議会もありますが、何らかの形で同様の仕掛けがあることは間違いないでしょう。

ですが、これはあくまで『伝統』や『慣習』に過ぎません。先達が残した知恵も、多数派が本気になれば踏みにじられます。

それがいま発生しているのが、特に世田谷区議会と港区議会です。

区議会議員が「自分たちの役割は何か」という根本を理解できていないのではないか

世田谷区議会では、これまで全員が参加できていた「議会運営委員会」への一人会派議員のオブザーバー参加権を剥奪

議会運営理事会とは議会の流れを決める大事な会議なので、ここから閉めだされると情報が著しく少なくなり、不利になります。(詳細は過去記事→ 「議会運営委員会」の重要さと切なさと心強さと

なお北区議会でも今回、同様の措置が行われましたので、同じようなことが起こっている地方議会は他にもあるかもしれません。

さらには、議案に対して議員が意見を述べる「討論」の時間を、一会派あたり10分とされていたものを「1人会派は3分、2人会派は5分、3人会派は8分」と会派規模の応じて縮小していくというものです。名目は「議会運営の効率化」「平等性の担保」のためとのこと。7分や5分の時間を削って、そこまで早く帰りたいのでしょうか...。

なお都議会では、質問時間は会派人数によって持ち時間が上下するものの、「討論」の時間はどの会派にも等しく与えられています。

そして...

臨時議会のご報告とこれから。

もっとあからさまに凄いことをやっているのは、港区議会。今回港区議会では、自由闊達な議会運営の実現を目指して民主・維新・無所属などの若手議員たちが大同団結し、10名となる第二会派を結成しました。

ここに至るまでには先進自治体である港区とは思えないほどの旧態依然とした言論統制・慣習が背景にあるわけですが、書くと長くなるので詳しくは新田さんの記事あたりを...

言論の自由も、結社の自由も存在しない港区議会

今回、第二会派に躍進したこの新会派には副議長ポストや多くの委員長ポストが振り分けられるはずでした。しかしながら、「ポスト目当ての野合だ」「所属政党がバラバラの会派など、信用できない」と自民党・公明党・共産党などの既存政党・会派が猛反発。40年以上続いてきた「慣習」を覆して、ポスト配分を多数決で決定。

第二会派をのぞく議員たちが結託すれば、選挙結果は明らかです。こうして、先達が恐れた「数の横暴」によって、区民の期待を集めた新会派の発言力・政策実行能力は著しく削減されてしまいました。

選挙が終われば、4年間はフリーハンド。多少非難を浴びたところで、4年後の選挙の時には有権者は忘れている。

おそらく今回の強引な決定に突っ走った議員たちは、そのようにタカをくくっているのでしょう。それにしても、リスクをとってなぜここまで、彼らは少数会派を押さえつけようとしているのでしょうか?

私はこれは、彼らの「恐れ」の現れではないかと感じています。インターネットの発達や若い価値観の台頭により、地方議会にも

「新しいタイプ」の議員が少しずつ誕生しています。彼らは得てして、少数会派になります。

これまでであれば何の力もなかった少数会派の議員たちですが、時に彼らの奇抜な言説が世論を動かし、変えてしまう事象が起き始めました。僭越ながら、私が発信した「セクハラ野次問題」もその一つと言えるでしょう。

他の地方議会でも、ブログ発信に規制をかける動きが話題になりました。彼らは「新しいタイプ」の政治家たちが多くの情報を得て、議会の多数決では勝てないまでも、その情報を外部に発信し、世論を勝ち得て議会を動かすことを恐れているのです。

それこそが、彼らが多少の非難を被っても、多くの情報にアクセスできる「議会ポスト」から少数派を閉めだしたり、討論で発言の機会を奪おうとしている理由ではないでしょうか。

しかしながら時代の流れは、誰にも止めることはできません。こうした一時期の守旧派による反動は、断末魔の叫びのようにも思えます。

世田谷も港区も、少数会派たちの声はむなしく「蹂躙」されてしまったかに見えますが、むしろここからがスタートです。新しいタイプの政治家たちの活動は必ず世論を動かし、選挙のたびに彼らの数が増えていく。私はそのように確信をしております。

長くなりましたが、皆さまのお住まいの自治体の地方議会でも似たようなことが起こっているかもしれません。ぜひ注目をして見てください。

それでは、また明日。

(2015年5月31日「おときた駿公式ブログ」より転載)

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