企業がB to BまたはB to Cのコミュニティを支援・運営するときの大事なポイント

今回は「B to C 型コミュニティ」と「B to B 型コミュニティ」の違いについて整理します。

こんにちは!ディベロッパーリレーションマネージャーのにっくです。

前回の記事では「コミュニティに参加する立場」から見た、コミュニティの魅力をお伝えしました。

今回からは視点を変え、主に「企業としてコミュニティの支援・運営に関わる立場」を想定して、

  • 自社サービスやプロダクトのコミュニティをどのように支援(もしくは運営)していくか
  • どのようにコミュニティプランを考え、どのようにコミュニティを創造・活性化していくか

について、何回かに分けて書いていきます。今回は「B to C 型コミュニティ」と「B to B 型コミュニティ」の違いについて整理します。

企業の立場から見た「コミュニティ」の定義

前回の記事では、コミュニティに参加する個人の立場から、コミュニティの定義を

「地理的な制約を超えて、同じ興味・関心・利害を共にし、情報の共有・問題の解決などを行う共同体」

としてみました。

それでは、企業の立場から見た場合、コミュニティとはどのような存在なのでしょうか。

企業が提供するプロダクト・サービスと、それを使う利用者には、「事業者」と「顧客」という立場の違いがあります。顧客はお金を払ってプロダクト・サービスを利用します。事業者は、自社のプロダクト・サービスを通じて、売上の拡大を目指します。そこには金銭取引が生じます。

その一方で、単なる金銭取引の間柄では説明できない、「顧客同士のつながり」や「企業と顧客を結ぶグループ」というものも、確かに存在します。

例えば、人気の高いゲームソフトについて考えてみましょう。

通常、ユーザーはお金を払ってゲームソフトを買い、そのソフトを楽しみます。

それとは別に、ゲームファンの一部では、ユーザーどうしでゲーム大会を開いたり、オフ会を開いてゲームの話題に興じたり、ゲームのイラストを書いて発表したり、自主的にゲームファンクラブを作ってオンラインで繋がったりと、「金銭取引」では説明できない、ゲームソフトへの愛情を行動に移すファンが沢山います。

これは企業と顧客の金銭的な取引では説明できない行動であり、グループです。別の言葉で言えば「ゲームソフトのコミュニティ」と言えるでしょう。

ゲームソフトにかぎらず、ビジネスソフトや、その他の企業プロダクト・サービスについても、同じように、金銭取引の関係を超えた行動やグループが生まれることが多々あります。

これらのような、企業が提供するプロダクト・サービスが生み出すコミュニティとは

「企業・顧客の立場を超えて、企業が提供するプロダクト・サービスに対する興味・関心・利害を共にし、情報の共有・問題の解決などを行う共同体」

と定義できそうです。

B to C 型コミュニティと B to B 型コミュニティの違い

企業のサービス・プロダクトは、大きく分けて「B to C」型、「B to B」型の2つに分かれます。企業が提供するプロダクト・サービスの本質がどちらなのかによって、若干コミュニティの特徴が変わってきます。

まず最初に、この2者を整理してみましょう。

B to C 型のコミュニティでは、嬉しい・楽しい・感動するなどの「気持ちを分かちあう」コミュニティが中心となります。

B to C (Business to Consumer) とは、主に、企業が個人向けに提供するサービス・プロダクトを提供する事業形態です。B to C 型のサービス・プロダクトはたくさんあります。例えば

  • ゲーム
  • 音楽および音楽プレイヤー
  • お菓子・清涼飲料水
  • 家電製品
  • 写真・動画共有サービス

などは、B to C 型のプロダクト・サービスに分類できるでしょう。

B to C 型のプロダクト・サービスに対して、ユーザーがお金を払って利用する、あるいは時間を作って利用する理由はなんでしょうか。いろいろな理由があると思いますが、突き詰めると

  • 遊ぶ(聞く、使う)と楽しい
  • 心が動く、感動する
  • (お腹が満たされるなど、希望が叶い)満足する
  • 自分だけの空間が作れる
  • 友人と繋がることができる
  • 思い出を残すことができる

など、感情や気持ちに働きかける場合が多いことでしょう。別な言葉で言うと、「気持ちが動く」ことが、購買の動機になっています。

このようなプロダクト・サービスの場合、コミュニティが果たす役割は「嬉しさ、喜び、驚き、感動などの、気持ちをわかちあう」ものとなります。このため、企業がB to C型コミュニティに関わっていく場合、「気持ち」を大事にする施策が重要となります。

例えば、

  • オフラインミーティングを企画して、ユーザーとサービス・プロダクトの距離を縮める
  • 思い出を形として残すグッズをつくる
  • イベントを企画して、ユーザーどうしがふれあい、楽しい時間を過ごす場所を作る

利用してくれるユーザーのポジティブな気持ちを大事にし、分かち合うようなコミュニティの創造が大事になる、と言えるでしょう。

B to C 型コミュニティの例として、例えば以下の様なものがあります。

ポケモンの楽しさは、なんといっても自分が育てたポケモンを使った対戦です。この対戦をいつでも行うことができるのが、「ポケモングローバルリンク」です。グローバルリンクに登録すると、ユーザーはいつでも世界中のポケモントレーナーたちと通信対戦ができます。ときどき行われるオフィシャルな大会では、自分たちの日頃の成果を試すべく、たくさんのユーザーが参加します。

「ポケモングローバルリンク」への参加には、お金はいりません。事務局は、ポケモンユーザーたちの遊びの世界を広げるために、このサービスを運営しているのです。

キリンは、「キリンビール大学」というサイトを運営しており、バーチャルな学校というストーリー仕立てで、ビールの楽しみ方を提案しています。このサイトを訪れると、ビールの歴史や楽しみ方、マーケティング的なデータ、ちょっとしたビールの薀蓄などを楽しむことができます。

ビール大学の活動はオンラインだけではありません。「セミナー」という形で、実際にビールを楽しみ、味わう機会を提供しています。

これらはビールの販売に直結するものというよりも、「ビールが好きな人達」を一つのコミュニティとみなし、ビジネスの取引を超えてアプローチする、ブランディングの一環となっています。

大型バイクで有名なハーレーダビッドソンは、オンライン・オフラインでハーレーのオーナーたちとコミュニティを形作っています。

オンラインSNS「H.O.G.」(HARLEY OWNERS GROUP)では、オンラインのSNSという形でハーレーオーナー同士のつながりをつくっています。また、各地域のコミュニティのオフ会を積極的に紹介したり、国内のハーレーオーナーが一同に会する大型イベント「BLUE SKY HEAVEN」の運営を行うことで、ハーレーオーナー同士、ハーレーと販売店・メーカーとのつながりを深めています。

B to B 型コミュニティは「信頼関係をつくる」コミュニティ

続いて、B to B 型プロダクト・サービスのコミュニティについて考えてみましょう。

自分は、B to B 型コミュニティにとって大切なのは「信頼関係をつくる」ことだと考えています。

B to B (Business to Business) とは、企業が企業向けにプロダクトやサービスを提供する事業形態のことです。B to Bのプロダクト・サービスは、例えば以下の様なものがあります。

  • 大型重機、業務用車両
  • 業務用冷蔵庫・厨房器具・調理器具
  • 医療機器
  • データベースなどのビジネス・ソフトウェア
  • サーバー・ネットワーク機器
  • ホスティング、ハウジング、クラウドサービス
  • 専門的なパーツの購買・マッチングサービス
  • 専門家向けの情報提供サービス・ナレッジマネジメントサービス

B to B型のプロダクト・サービスにおいて、何よりも大事なのは「安心して使うことができるか」ということです。

  • 金銭に見合う価値がある
  • 想定通りの機能を発揮している
  • 安心して利用できる、仕事をお願いできる

など。別の言葉で言い換えると、「プロダクトやサービスが信頼できるか」ということが、重要視されます。

B to B 型コミュニティが機能すると、互いの信頼や安心感を確かなものにすることができます。このような場合、コミュニティが果たす役割は「プロダクト・サービスと利用者の間を信頼でつなぐ」こととなります。企業がコミュニティの支援や運営を行う上で、「関係者とどのように信頼関係を結び、安心してもらえるか」が大事になります。

例えば、

  • プロダクトやサービスの実例、経験談を知ることができる
  • 活用方法について、情報交換を行う場所がある
  • 使い方についてのナレッジが得られる

ビジネスツールとして安心して使うことができれば、プロダクト・サービスの利用者は増えていきます。このような場を作るのが、コミュニティに求められることといえるでしょう。

B to B 型コミュニティの例として、例えば以下の様なものがあります。

グループウェアで有名なサイボウズが運営する技術者向けコミュニティが「cybozu.com developer network」です。

ここでは、サイボウズの各種サービスを利用する、あるいは各種サービスを利用して拡張開発を行う技術者に対して、技術情報を提供しています。

オンラインドキュメントのような一方通行なナレッジだけでなく、Q&A的な掲示板があったり、セミナーや勉強会の告知を行ったり、双方向のコミュニケーションを行うことで「技術者が安心して使えるサービス・プロダクト」である、という信頼感につながっています。

弊社のプロダクト「Movable Type」には、各地にユーザーグループが存在しており、各地域独自の企画・運営による勉強会やイベントなどが開かれています。参加しているのは主にウェブ制作者、開発者といった方々で、仕事上の情報交換やネットワーキングを行っています。

プロダクトを送り出す側である我々も、ひとりの参加者としてイベントや勉強会に参加しています。ときには登壇者の立場で、ときには参加者として、そしてときにはスタッフとして、各グループの運営を支援しています。

大事なのは「ひとりの参加者として加わる」こと

B to C 型コミュニティと、B to B 型コミュニティについて説明しましたが、企業の担当者が、このようなコミュニティを支援・運営する場合、どのようなことが大事でしょうか。

いろいろな意見があると思いますが、一番大事なのは「ひとりの参加者として加わる」ことだと、自分は考えています。

近年は、企業がコミュニティをマーケティング施策の一環として捉え、販売促進に利用するといったことも増えています。しかし、中にはコミュニティ施策を「広告宣伝の一つ」と考え、実行してしまい、予想外の反発・炎上を引き起こすケースも少なくありません。

例えば、企業がゲームユーザーのために掲示板を運用していたとしましょう。その掲示板では、ゲームファンが楽しく意見交換を行ったり、ゲームの楽しい箇所について語り合っています。

そこに、たとえゲームメーカーの人間とはいえ、自社のゲームの宣伝や、グッズの購入を進めるような書き込みをしたら、集まっているゲームファンたちはしらけてしまい、「せっかくゲームの感動を分かち合っているのに、なぜ『もっと金を出せ』というようなことを言われなければいけないのか」と感じてしまうことでしょう。

企業の担当者が、同じくそのゲームソフトを遊んでいて、他のユーザーと同じようにゲームの名場面や、難しかったイベントについて話し、コミュニティの参加メンバーと気持ちを共有できていたら、きっと結果は違っていたと思います。

コミュニティを支援・運営するにあたって、何よりも大事なのは「自分たちも参加者の一人である」という立場から、ユーザーと同じ立場・目線でコミュニティ活動に参加することです。

コミュニティの中に入る以上は、他のメンバーと変わらない「参加者の一人」であると自覚することが、コミュニティの支援・運用に欠かせない事だといえるでしょう。

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