デサントと面白法人カヤックに教わった「オウンドメディアをネットに限定するのはもったいない」という話 【突撃!隣のオウンドメディア Vol.4】 ~後編~

勇気を出して、社内で提案&実行できる人って限られるのでは?社内でどう行動し、狙った成果を得ているのかをお聞きしました。

「オウンドメディア」と聞くと、つい「自社運営のネットメディア」を思い浮かべる方が多いと思うのですが、「オウンドメディアは、ネット外にも活動領域がある」という考えを披露してくださったデサントの加勇田さんと面白法人カヤックの三好さん。

前編では、「オウンドメディアをネットに限定せず、会社自体をコンテンツ化し、他部署を巻き込んでいこう」というお話を伺い、後編の今回は、会社をコンテンツ化するために、社内でどう行動し、狙った成果を得ているのかをお聞きしました。

写真左がカヤック三好さん、右がデサント加勇田さんです。

勇気を出して、社内で提案&実行できる人って限られるのでは?

中山 お二人は信念を貫いて、"媚びぬ!退かぬ!社内で嫌われても構わぬ!"って気持ちで仕事しているんですか?

加勇田 私は"マーケターは、嫌われ者になるのも仕事のうち"って考えますね。たとえば、PCスーツのようなコンプレッションウェアが提供できるベネフィットって、たくさんあります。エコノミー症候群対策にする方もいるし、寝間着にしてもいいし、デスクワークで使ってもいい。

ただ、用途が多すぎるがために、"いつでも誰でも使えます"といった、誰にも刺さらない幕の内弁当のようなアピールになってしまう可能性もある。

中山 一番のお気に入り弁当が幕の内って人、あまりいないですもんね

加勇田 TVのリモコンがいい例ですが、顧客要望を盛り続けた結果、非常に使いにくくなってしまうということがあります。もはや説明書がないと使いこなせないですよね。

社内の議論でも似たことが起きるときがあって、あのセグメントにもこのターゲットにもアピールしたいと欲張り過ぎてしまい、「20代~50代の男性と女性をまんべんなくターゲットにしましょう」とピンぼけた訴求になることも。

そのとき私は、「嫌われてもよいのは誰ですか?」と突き返すことはありますね。面倒くさいやつだなって思われるかもしれないけど、それをするのが自分の役目。説明書が必要なTVのリモコンを、説明書が同封されていないiPhoneに変えてあげるには、そういう人間も必要だと思ってます。三好さんも、自分が嫌われてもいいって考えたりします?

三好 僕は誰からも嫌われたくない!そのためにクリエイティブは注意深く作るし、何度も見直しています。

理想は、想定ターゲットに刺さりつつ、それ以外の人に嫌われないこと。あまねくすべての人に好かれるために全力を尽くすのが僕のやり方。

まぁ、好かれたい、嫌われたくないというよりは、その企画によって誰かに嫌な思いをさせたくないですし、せっかくなら、企画を知った人が批判的な発言をすることにエネルギーを費やすより、もっとポジティブな方向にエネルギーが注がれるように企画を作りたい。そうなる企画に自分のエネルギーも注ぎたいなと。

中山 たとえば、サイコロ給って、うがった見方をすれば、突っ込みどころはイッパイありますよね

三好 そうですね。だから、ちゃんと大義名分といいますか、みんなが「確かになぁ」と思うような目的や意義はしっかり考えます。エゴサーチ採用も、旅する会社説明会も、サイコロ給もすべてそう。

サイコロ給でいうと、サイコロで給料を決めるなんて不謹慎と思われるかもしれないけど、人間が人間を評価するなんて、そもそもいい加減なものだし、上司次第でどうにでも変わってしまうものです。

給料の仕組みも、サイコロを振るくらいの遊びがあっていいのでは? 「人間の評価や運命を、最後の最後は、天に託そうじゃないですか」って考えがベースにあるんです。あと、よく誤解されるけど、給料が減ることはありません。......えっと、オウンドメディアの話から離れてしまっているけど、大丈夫ですか(笑)?

中山 面白いので、このまま続けましょう

加勇田 我々がお伝えできるのは、"あ、こういう企画の通し方もあるのね"じゃないかなと。これが今回の裏テーマでしょうね

Webに限定して動くのはもったいない

中山 オウンドメディアって言葉が出たのでそっちに話題を振りますが、「がんばってメディア運営をしているのに結果が出ない」とか、「社内で評価してもらえない」って悩む人はけっこういますね

加勇田 ウェブ担の方々が集うイベントや勉強会で、「ウェブ部門のポジションが(社内で)低いままで辛い」ってボヤキを耳にすることがあります。私なりのコツとしては、「上位の概念で考える」ですね。オウンドメディア運営を通じて、"PVを○○○まで上げます"ではなく、一段上の"新しい流通チャネルを開拓します"のほうが、経営層には響くじゃないですか。

「PCスーツ」の事例であれば、「リクルートで展開したように、BtoE(Business to Employee/従業員向けビジネス)市場に参入します」や、「リクルートの事例を引っ提げて、ヨドバシカメラでコーナーを獲得します」が、それに当たります。成功するかどうかはさておき、チャンスは貰えそうですしね。

中山 それ、すごくいい考え方ですね

加勇田 パブリシティ1つをとっても「どこそこのウェブのメディアに掲載されました」と単体で考えるのではなく、ウェブ、紙媒体、テレビ等地続きになっているのですし、デジタルメディアでのパブリシティがデジタル以外のメディアに掲載されるための大きな計画の一部として、頭のなかでリアリティのある画を描きます。

デジタルのPRには懐疑的だけど、TVのPRには前のめりになる広報って未だに多い傾向にあるので、彼等へのニンジンという名の機動力も用意しつつ、施策のパーツとして必要なデジタルPRも企画に入れ込んでいます。

上位の概念でひとつコミットすれば、ウェブ以外の土俵に上がれます。ひいては評価も上がるというわけです。

株式会社リクルートライフスタイルが社員用の仕事服として、「PCスーツ」を導入(撮影:尾形文繁 氏)

他の企業に移ったとしても、同じように行動できる?

中山 いじわるな質問をしますと、デサントは知る人も多い大手企業、カヤックは才能にあふれたクリエイター集団として名が知られています。仮にお二人が堅い(&知名度の低い)会社に移っても同じように行動できます?

加勇田 そもそも論ですが、デサントの健康経営業界の中での知名度は高くないと思っています。企業の人事制度に従業員の健康促進につながる仕組みを組み込むことを「健康経営」と言い、先程のリクルートへの提案もその一貫なのですが、「健康経営」業界の中での知名度は、たぶん「オフィスおかん」さんの方がよっぽど知名度が高いはずです。少なくともIT業界の人事の方々の中では。

またヨドバシカメラというハコの中での知名度も同様ですよね。なので、PCスーツという施策自体が、堅い&知名度の低い会社での活動だと思っています。

三好 僕は無理ですね。超お堅い企業で、面白い企画をやりたくないってことなら、ひとりずつ説得して、巻き込んで、会社を変えていくくらいの気持ちがないとできないと思うんです。でも、難しい状況でアイデアを考えるのは得意だけど、人を変えるのは僕には無理。

会社を変えるって大変だし、消耗します。だったら最初から自分が必要とされる組織に行って、そこでしたい仕事するでしょうね。

もし、その会社が今僕がやってるみたいなことをやりたいから、どうしても一緒にやりたい!って言ってくれたなら別ですけど。ウォーターボーイズみたいで面白そうだし。

バーグハンバーグバーグ社と手がけた、『突破クリエイティブアワード

中山 お二人って、考え方は似ているのに、性格やキャラは差がありますね。もしかして、加勇田さんには"人たらし"的な能力があるんでしょうか(笑)?

加勇田 いえ、そういう素質はないどころか、どちらかといえば不得意です。得意だったらわざわざ手の込んだニンジンを仕込まないですよ。

ただ、自分が他の人と違うと思う点は、マーケターは嫌われてなんぼの仕事だって割り切っているところですかね。「そもそもスポーツって何だっけ?」とか言い出すのが私の役目。だって、世の中の流行り廃りとともに、スポーツの定義だって変化しますからね。普通の感覚からすれば、そもそも論をふっかける行為はストレスがかかる行為です。私だって、本音では嫌われたくはないです(笑)。

中山 スポーツの定義って変わるものなんですか?

加勇田 定義は変わりますし、広いです。汗水流して競技の要素の強いスポーツもあるし、SNSの「絵」を提供する要素の強いスポーツもあります。たとえば、カラーラン(Color Run)は後者の典型です。

スポーツの意味が拡大する流れがあるにもかかわらず、もしデサントが前者のみをスポーツと決めつけてしまうと、世の中と分断された鎖国になってしまいます。「我々も、スポーツの意味を考えなおさなければ」と再思考する必要があるんです。

2011年にアメリカで創設され、「The Happiest 5k on the Planet」(地球上でもっともハッピーな5km)というコンセプトで、健康的で積極的なライフスタイルを追求する、ユニークで笑顔にあふれたペイントレース。ゴール後に踊ったり、一斉にカラーパウダーを投げるカラースローなど、フィニッシュパーティーで"色のお祭り"を楽しむ。タイム計測はせず、勝ち負けも競わない。

フレッシュな刺激を脳に与えるためにどんなこだわりが?

中山 サムライトさんを取材させてもらったとき、インタビュイーの後藤さんは、"尊敬する先輩にならって、自分が興味のない本を5冊、毎月読む"って話していました。その先輩が加勇田さんなんですよね?

加勇田 ええ、毎月雑誌を5冊買うのを習慣にしています。それ以外にはイベントに行きますね。行く前は気乗りしなくても、とりあえず参加してみます。ただ、どんなに楽しいイベントでも100%純粋に楽しむのではなく、「30%は傍観者としていよう」と自主規制します。行く前には、「参加者の人たちはこういった目的で参加するのでは?」と仮説を持参するのもマイルールです。

コンサートでもフジロックでも、気付いたら裏方のことを考えています。「なぜこの演出法にしたんだろう?」、「楽しんでいるお客さんたちの状態を4文字で表現するとしたらなんだろう?」、「柳原可奈子さんがフジロックものまねをするとしたら、どんなデフォルメをするだろう?」等と思いを馳せてみますね。

中山 いわゆるマーケター気質ですね(笑)

加勇田 最近おもしろかったのは、「BRUTUS」の約束建築という特集(2015年8月)で、デザインやリノベーションが得意な建築家を10人集めて紹介しています。応募ハガキがついているのがユニークで、読者がどの建築家に家を建ててほしいかを決めて、土地と予算を書いて送ることができるんです。

もしかすると、BRUTUSは自分たちをただの出版業だとは思っていないかもしれませんね。編集を「情報を集めて編む」だけではなく、人をマッチングさせることも含めて編集の定義を変えているように感じました。ビジネスモデルを再構築させようとしている予兆なのかなと思って興味深かったです。

脱線し過ぎましたが、本題のオウンドメディアに話を戻すと、メディア業界の中でも「編集」「コンテンツ」の定義が変わっている中で、いつまでもオウンドメディアが狭い定義の中に縮こまっていてもいいのか?という危機意識は、もっと持ったほうがいいと思っています。

中山 三好さんは、どうやって脳へ刺激を与えています?

三好 LINEニュースとかFacebook、あとははてなブックマークをかなりの頻度でチェックします。細かく中身は読まないけど、読んで役に立ちそうなモノはEvernoteにガンガン放り込みます。情報をカットするより、大量に晒されるほうが好きですね。ただ、Facebookとかは二次、三次情報なので、それだけに頼るのはまずいですが。

中山 ふむふむ。加勇田さんのように、リアルのイベントは行きますか?

三好 いろんなイベントに、気乗りしなくてもとりあえず足を運びます。カラーランも参加しましたよ。やはり、実際に体験してみないと一次情報は得られないですから。

最近面白かったのは、乃木坂46の真夏の全国ツアー2015と、中野サンプラザで行われた仮面ライダードライブのファイナルステージ&番組キャストトークショーですね。仮面ライダーはチケットが大人気で全然取れないところを、探しまくって獲得できました。

中山 仮面ライダーって、てっきり子供限定イベントだと思ってました

三好 たかが仮面ライダーと思うかもしれませんが、音響、照明、花火での演出がちゃんとしていて、変身シーンもうまい。必殺技はプロジェクションマッピングでやって、ぴったりマッチしていて大感激でした。最後はSOPHIAの松岡充さんまで登場して、一年間の放送を締めくくるエンディングに中野サンプラザ中が感動の渦に包まれたんですよ!

乃木坂46のライブは、予想していなかったダブルアンコールがかかったんです。ふつう、ダブルアンコールって会場とか時間とかいろんな制約があって無理なので、アンコールを叫んでいた自分が震えるくらい、すごいサプライズでした。スタッフさんの対応も早かったし、乃木坂46のメンバーも泣いていて、大感動でしたね。......えっと、完全にオウンドメディアの話から外れてしまったけど、大丈夫ですか(笑)?

中山 面白かったので、すべてよしです。貴重なお話、ありがとうございました!

もともと、加勇田さんと三好さんにはオウンドメディアをテーマに取材させていただく予定だったのですが、盛り上がるにつれて話がドンドンと広がり、当初のテーマ以上の興味深いお話が伺えました。とくに印象的だったのが、オウンドメディア運営を通じて、単純に"PVを○○○まで上げる"ではなく、一段上の"新しい流通チャネルを開拓する"ほうが、経営層には響くというくだり。何のために自社メディア運営するのか、のヒントになれば幸いです。

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