4月で僕がUIに事業を絞ってから丸3年が経ちました。3年前、起業して半年間色々な事がうまくいっておらず、他の事業を全部捨ててUIデザインにフォーカスしました。

本稿は、グッドパッチ代表取締役社長 土屋 尚史(@tsuchinao83)氏の寄稿記事である。Skyland Ventures Newsでは、スタートアップのCEOやベンチャーキャピタリストなどの記事の転載をスタートし、スタートアップの動向を伝えたい。

4月で僕がUIに事業を絞ってから丸3年が経ちました。今から3年前、グッドパッチを起業して半年間色々な事がうまくいっておらず、共同創業者がグッドパッチを離れ僕は1人になり、そのタイミングで色々やってた他の事業を全部捨ててUIデザインにフォーカスしました。

当時は日本にUIにフォーカスしている会社もなく、世間でUIにお金を払うという認識はまだまだ少なかったので、僕がUIに絞るというのを聞いた人たちは心配した人たちも多く、「UIってマーケットあるの?」なんて言われてました。ましてや、3年前のグッドパッチはデザイナーでもあった共同創業者に見限られた僕1人と残り3ヶ月生きれるかどうかのキャッシュ、そしてUIにフォーカスすると言ったにも関わらず実績なしの状態、グッドパッチはどう考えても周りから見たら潰れる会社でした。

不安がなかったかというともちろんそんな事はありませんでしたが、だけど僕には確信を持っていることがありました。

4年前に僕が働いていたサンフランシスコではスタートアップはβ版の状態からUIに力を入れてサービスを作っており、経営チームの中にデザイナーがちゃんといてUIやUXデザインの重要性をトップマネジメント層が認識していました。日本は当時まだアプリは作れれば良くて、色んな機能をアプリに盛り込み使い勝手やUIをちゃんと考えている会社はかなり少なく、これではサンフランシスコ、シリコンバレーの会社には勝てないし、これから世界中に使われるようなサービスを作るためにはUIに力を入れなければいけない時代が必ず来るはずだ!と思っていました。

※3年前にたった1人で借りた秋葉原のオフィス

あれから3年、日本でもUIデザインの重要性が段々と認識され、アプリやサービスを作る時にユーザーとの最初のタッチポイントであるUIは非常に重要だという認識が以前より広がり、3年前はほとんどなかったUIデザイナーの求人募集がかなり増えました。グッドパッチもあれからGunosyやマネーフォワードといった世の中の人が多く使ってくれるサービスのUIを手がけ、スタッフの人数も50人を越えて、毎日受けられないくらいの量の仕事の問い合わせが入ってくるようになりました。それだけ、日本にもお金を払ってでもUIを改善したいという会社が増えたのです。

※Googleトレンド キーワード「UI デザイン」

ピーターティールも独占するためには小さな市場を狙えと言ってましたが、3年前はまさにUIはマーケットの黎明期で、そこから僕らグッドパッチがUIデザインの重要性を啓蒙し、マーケットの拡大を引っ張ってきたという自負はあります。僕らの後にUIデザインにフォーカスしている会社もいくつか出てきましたが、今のところグッドパッチは数ある会社の中で、マーケットでは取れない取れないと言われているUIデザイナーやエンジニアやPMなど50名を越える優秀なスタッフを多く抱え、他には負けないブランドもできていると思っています。

「多くの人が信じていなくてあなただけが信じている隠れた真実はなんだろうか?それを実現するビジネスをやろう。」ピーター・ティール

日本でiPhoneが発売されて、今年で7年も経ちますがスマートフォンアプリを作る際にUIが重要だという認識が広まったのは最近になってやっとです。おそらく7年前にUIデザインの会社ですと言っても刺さらなかったかもしれません。僕がグッドパッチを起業したタイミングはマーケットに同じようなアプリケーションが出回り、UIの使い易さや心地良さでユーザーがアプリを選び始めるというような動きが増えてきた時で、非常に良いタイミングだったと思っています。世間でもUIやUXが重要だという論争が業界で増え、運良くGunosyのUIが話題になり波に乗り、そしてUIやデザインの重要性をもっと広めるためにMEMOPATCHで情報発信をし、DeNAとUI Crunchを立ち上げ、自ら波を作っても来ました。日本でのUIのマーケットは自分達が作っているという気概を持って事業を行っています。

「事業の成否は、適切なタイミングで適切な選択をし、そこに集中できるかどうかで決まる。」

言うは易し行うは難しですが、これをやってきた結果が今です。

では、これから僕らがやっているUIの事業が安泰かと言うとそれはわかりません。ただ一つだけ言えることはこれから先様々なデバイスが登場しても、UIはなくならないと言うことです。もちろん、それが触れるUIではなく音声や脳波かもしれません。だけど、人間と機械の間には必ずUser Interfaceがあり、その間の関係性をデザインするUIデザイナーはデバイスが増えれば増えるほど重要になっていくと思っています。

今までの歴史を振り返るとイノベーションや大きな転換点のポイントでは必ずUser Interfaceが関係しています。その昔、コンピューターは真っ黒な画面にプログラムを打ち込み操作していたのが、1984年にMacintoshに初めてGUIが搭載され一般の人達にもパソコンが普及するキッカケになり、iPodも既存のミュージックプレイヤーとは一線を画するUser Interfaceで全世界に広がりました。そしてiPhone。それまでも全面タッチパネルのデバイスはありましたが、iPhoneのUIは今まで触ったことがない人も直感的にわかるUser Interfaceで世界中に爆発的に広がりスマートフォン時代を到来させました。未だに忘れられないのがSteve JobsはこのiPhoneの初めての発表の場でiPhoneの事を「Revolutionary UI」と序盤で強調しています。デバイスだけでなく、ソフトウェアのUIが革新的だと。

Appleの話ばかりになってしまいましたが、世の中が大きく変わるポイントの裏にはUIの革新が起きている事が多いのです。

グッドパッチも将来そんな世界を変えてしまうようなプロダクトのUIを手がけるようになっていたいものです。

UIにフォーカスして3年が経ち

大分、壮大な方向に話はズレましたが、グッドパッチはこの3年で1人から50人に成長し、これまで役員は僕1人でやってきましたが、この4月から執行役員を2人選任し、新たな体制で会社運営を行っていくことになりました。ここから、さらにちゃんとした会社として社会の公器としての責任を果たしつつ、グッドパッチの持つクリエイティビティを失わないように会社をスケールさせていかなければなりません。大変な事も多いですが、それ以上に毎日が刺激的で楽しいです。3年前のUIにフォーカスするという選択は正解でしたが、ほっといても正解になったかというとおそらく違くて、その選択を正解にさせるように行動してきたと言った方が正しいですね。この気持をいつまでも忘れずに頑張りたいと思います。

※3月末に完成した本社別館のGoodpatch Annex

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