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2018年12月01日 20時02分 JST | 更新 2018年12月03日 01時01分 JST

アウンサンスーチー国家顧問率いるNLD政権への不満の声。「約束したけど守ってくれなかった」

国会と地方議会の補欠選挙があった、ミャンマー北部カチン州を歩いた。

11月3日の投票日、最大都市ヤンゴンの投票所には現職のウィンミン大統領も姿を見せた=染田屋竜太撮影

少数派イスラム教徒ロヒンギャの難民問題で揺れるミャンマーで11月、国会と地方議会の補欠選挙があった。アウンサンスーチー国家顧問率いる国民民主連盟(NLD)政権にとっては、2020年の総選挙への折り返し地点を迎えた時期。改選数はわずかながら、国民から盤石の支持を受けていたとみられていた政権のほころびが見える結果となった。地方部で漏れ聞こえる、NLD政権への不満の声を探った。

「スーチーさんはたくさんの約束をした。でも、守ってくれなかった」

ミャンマー北部カチン州の州都、ミッチーナで、キリスト教徒が多数を占める少数民族カチン族に大きな影響力を持つ、カチンバプチスト教会(KBC)のカラン・サムソン代表(57)は口調を強めた。

「今の政権にはがっかりしている」と話す、カチンバプチスト教会(KBC)のカラン・サムソン代表=11月、カチン州ミッチーナ、染田屋竜太撮影

ミッチーナは今回、唯一の上院補選があった選挙区だ。NLDが大勝した2015年の総選挙では、NLDの議員が46%の得票率で圧勝。この議員が死去したことによる、今回の選挙ではなんと、NLDの候補は得票率が3割を下回り、全体の3位で落選した。勝利したのは、旧軍事政権系、連邦団結発展党(USDP)の候補だった。

当選した連邦団結発展党(USDP)のシフドゥエ候補。活動中は熱心に有権者と握手を繰り返していた=11月、カチン州ミッチーナ、染田屋竜太撮影

ミャンマーでは、国境付近で国軍が少数民族武装勢力が戦闘状態にある。カチン独立機構(KIO)との衝突は、双方に死者が出る深刻な状況が続く。今回の選挙活動中、安全のために候補者が入れない村もあった。このことに、地元の不満が高まっている。「スーチー氏は国軍との関係を重視するあまり、紛争解決に踏み出せないんだ」とサムソン氏は語る。

カチン州は、もう一つ、大きな問題を抱えている。中国との国境近くのワインマウで、「ミッソンダム」として知られる大規模な水力発電ダムの工事が、宙ぶらりんのまま止まっている。2009年、当時のミャンマー軍事政権と中国の企業が合意した36億ドル(約3960億円)の事業。これを、11年の民政移管後、中国と距離を置こうとしたテインセイン前政権が凍結。中国から来た労働者は引き揚げたが、工事のための橋などがさびついたまま残されている。

野党時代、スーチー氏は、環境への影響などを理由にこのダムの計画に強く反対してきた。しかし、NLD政権になっても、「中止」の決定はされていない。長年、計画に反対してきた市民団体「カチン開発ネットワーク」のスティーブン・ノウアウン代表(44)は、中止を明言できないことは、「工事を進めたい中国側に配慮したからだろう」と見る。「以前、地元の人たちを一緒に戦ってくれたスーチー氏は今、遠く離れてしまったように感じる」と、ノンアウン氏は残念そうに話した。

こうした不満の受け皿を狙ったのが、カチン族を中心につくられた地域政党だ。15年の総選挙では一部が軍政系のUSDPと合同し、その他もバラバラに候補者を擁立していた。今回、カチン族系の4党が、カチン国民党(KNP)の候補者を推すことで合意。「カチン族のための政治家を」と訴えた。

10月下旬、KNPの候補者、アウンカム氏(50)の選挙運動に同行した。バイクや車十数台が連なって村などを回る。大きな音量で党のテーマ曲を流し、アウンカム氏も車内から手を振る。多くの住民が家から出てきて手を振ったり、声をかけたりしていた。

地域政党がまとまったカチン国民党(KNP)は、民族衣装を着て選挙運動をしていた=11月、カチン州ミッチーナ、染田屋竜太撮影

同時期、NLDやUSDPの候補者の選挙運動にも同行していたが、ここまでも盛り上がりは感じられなかった。KBCのサムソン氏は、「やっとカチン族のための政党ができてくれた。選挙では大きく躍進すると思う」と期待を込めて話していた。

候補者のアウンカム氏も、15年の選挙ではNLDに期待した1人だった。ただ、「スーチー氏は選挙の時、ゆっくり話し合いながら停戦を進めるといっていたのに、政権に就いたらすぐに停戦協定にサインするように求めてきた」とアウンカム氏は口調を強める。「こうした態度がKIO側を硬直させた。私が当選したら、KIOと国軍との間をうまく取り持てると思う。NLD政権では動かせなかった和平を前に進められる」と自信を見せていた。

確かにKNPは健闘し、NLDの候補を上回る票を得て2位に食い込んだ。しかし、勝ったのはUSDPの候補者だった。何が勝因だったのだろうか。

ミャンマーには、選挙期間中において相手陣営の批判をしてはいけないという法律があるため、取材に対し、USDP側がNLDを攻撃することはなかった。一方、「あなたたちはNLDと何が違うのか」と尋ねても、明確な答えを得られなかったのも事実だ。

USDPでカチン州の代表を務めるラワン・ジョーンズ氏(63)は、「平和を求める、民主化を進めるという意味で、NLDと我々は一緒だ。やり方は少し違うかもしれないが」と話した。しかし、その具体的な内容は、いくら質問しても明言しなかった。

ただ、彼らの選挙活動を見て気づいたことがある。有権者に繰り返し訴えていたのは、「テインセイン政権時代の方が良かったのではないですか」ということだった。11年以降の民政移管で与党だったUSDP。テインセイン前大統領は、少数民族和平も含めた民主化を進めた。「様々な問題を抱えて物事を前に進められないNLD政権よりもUSDP政権の方が良い政治をしていた」というのが言外にある。

NLD政権が政権をとってからの2年半、法律の改正やルールの改定など様々な分野に手をつけているのは事実だ。各地で取材していても、「汚職はなくなり、わいろは見なくなった」という声を多くきく。しかし、それ以上に強いのは、「NLDになって、期待していたほど、民主化が進んでいない」という声だ。

カチン州の地元紙「ミッチーナ・ニュース・ジャーナル」のサライクウェシン氏(25)は、「人々のスーチー氏への期待が大きすぎて、現実とのギャップに落胆したことが、NLDの支持離れを生んでいるのではないか」とみる。

「期待したほど民主化が進んでいない」という人は多いが、難しいのは、立場によって「民主化」の意味が違うことだ。「民主化すれば平和になる」という人もいれば、「経済発展こそが民主化だ」という。「物価が上がるのは民主化が進んでいない証拠だ」という人すらいる。これらがスーチー氏の肩にのしかかっているわけだ。

今回、補選は国会議員5議席の他に地方議会などの8議席も対象になった。NLDは15年の選挙でこのうち、国会4議席、地方7議席を奪っていたが、今回、国会は3議席、地方は4議席にとどまり、計4議席を落とした。ヤンゴンなど都市部では強かったが、地方部で取り落とした格好だ。改選前に0議席だったUSDPは国会で1議席、地方でも2議席を奪った。

投票所に多くの人が訪れた=11月、ヤンゴン、染田屋竜太撮影

次の総選挙までちょうど2年。KBCのサムソン氏は、「これから、カチンだけでなく様々な地域で地域政党、民族政党の合流が始まるだろう」と予想する。これまでNLDを支援していた人たちの票が地域政党に流れれば、NLDが議席を減らす可能性が高い。

軍事政権下でつくられた現憲法では、議会の25%が軍人で占められている。NLDが残りの議席だけで過半数をとるためには、次の総選挙で地方部でも順調に議席をとることが必要だ。このまま、NLDからの支持離れが進めば、次の選挙で単独過半数をとれなくなり、政権運営はさらに難しくなることが予想される。

選挙の1週間後、NLDは、厳しい選挙結果を検証するための委員会をつくると発表した。有権者への戸別訪問を増やしたり、地方の選挙チームを強化する案などが出ているという。幹部の1人は地元メディアの取材に、「今回の補欠選挙は、我々に対する警鐘だと思っている」と話した。