札幌、仙台、富山、福岡の事例から「LGBTも暮らしやすい街づくり」を考える

林夏生さん「地方だからこそ『誰も取り残しちゃだめなんだ』と、やっと気づくことができました」
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2015年に渋谷区と世田谷区で同性パートナーシップ制度がスタートして以降、今までに7つの自治体で同様の制度が施行されるようになった。現在検討している自治体も合わせるとその数は20にのぼるという

国レベルでLGBTに関する差別を解消する法律や、同性間のパートナーシップを保障する法律ができない中、むしろ地方自治体の取り組みの方が先行している部分もある。

その背景にあるのは、地域に根ざして活動するさまざまな団体の姿だ。

当事者の居場所づくりから行政との連携まで、幅広く活躍する全国の団体の中から、札幌、仙台、富山、福岡でアクションを起こしている4つの団体のメンバーが集結。地方から考える「LGBTが暮らしやすい街づくり」について話した。

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カミングアウトできないから「居ないことにされる」

富山県富山市で、居場所づくりをメインに活動する「ダイバーシティラウンジ富山」代表の林夏生さんは、人口が減っている街だからこそ起こってしまう問題を紹介した。

「街の人が顔見知りなので、ちょっとでも人と違うと噂になります。さらに『結婚しないの?』というようなプレッシャーが強く、大好きな街なのにいづらくなってしまうんです」

当事者が職場や学校でのカミングアウトしている割合は、全国平均が27.6%なのに対し、北陸信越では20.4%になるという。

「カミングアウトしていないから、(社会に対して)メッセージを伝えづらい。そのため困っている人が『居ないことにされてしまう』のです。故郷が好きなのに、離れざるを得ない。人口が減っているからこそ、もっと地元に残って欲しいはずなのに、行政が少子化対策とプレッシャーをかけるとさらに戻れなくなる。なんとも皮肉ですよね」。

ダイバーシティラウンジ富山代表の林夏生さん
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ダイバーシティラウンジ富山代表の林夏生さん

ダイバーシティラウンジ富山を運営する上で一番難しかったのは、活動の「拠点づくり」だった。

「街が小さいので『あの人は虹色の旗がついた部屋に入っていったよ』というだけで噂になってしまいます。なので、セクシュアリティの多様性だけでなく(国籍や宗教など)いろんな多様性を組み合わせて扱う場所にしました。また、誰もが安心して参加できるよう、プライバシーを守りながら交流できるイベントにしていました」。

もっと実感としての「繋がり」を

宮城県仙台市を中心に、HIVに関する啓発や支援を行っている「東北HIVコミュニケーションズ」、そして、東北におけるLGBTを取り巻く環境整備のための団体「レインボー・アドボケイツ東北」の代表をつとめる小浜耕治さんは、2011年に起きた東日本大震災での経験を話した。

「一番感じたのは、(当事者が)もともと繋がっているコミュニティがないと、いざというときに自分を守れないし仲間も守れないということ。匿名性が高く、プライバシーが守られているということは、逆に『あの人はどこに住んでいるのか?無事なのか?』ということがわからない。もっと実感として繋がりを持たなければならないと思いました」。

小浜さんの指摘する「繋がり」は増加傾向だ。震災前は東北のLGBT関連の団体は9つ程度だったのが、震災後は29、最近は小さな交流会等も含めて約50まで増えてきているという。

東北HIVコミュニケーションズ、レインボー・アドボケイツ東北代表の小浜耕治さん
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東北HIVコミュニケーションズ、レインボー・アドボケイツ東北代表の小浜耕治さん

環境整備の面では、小浜さんらが自治体に働きかけたことによって、宮城県でLGBTの相談事業や、行政の職員、市民向けの啓発などがはじまった。

「(行政を動かすためには)団体が必要だと思い、レインボーアドボケイツ東北を設立し、自治体に働きかけを行いました。さらに、要求だけでなく『何をやれば良いかわからない』という行政に対して、一緒にやりましょうというスタンスで取り組みました」。

「機会」をつくるよう心がけた

3人目に登壇したのは、福岡県福岡市を中心に啓発や支援活動を行っている「NPO法人RainbowSoup」代表の五十嵐ゆりさんだ。

五十嵐さんは九州にある8つのLGBT関連の団体で協力して立ち上げた「LGBTアライアンス福岡」の呼びかけ人でもある。

「地域の団体と月に1回ぐらいのペースでミーティングをしています。勉強会のようなイベントも行っていますが、行政の職員、議員への参加を呼びかけることによって、多方面と繋がる『機会』をつくるよう心がけてきました」。

そうしたイベントをきっかけに、福岡市の人権推進課の担当者と繋がることができたという。

「そこから、LGBTアライアンス福岡のメンバーで要望書を出そうという流れが出てきて、他の地域で活動する団体の要望書を参考にしながら、連名で市長に提出しました」。

その結果、4月2日にパートナーシップ制度や、LGBTに対する支援、啓発事業がスタートした。

NPO法人RainbowSoup代表の五十嵐ゆりさん
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NPO法人RainbowSoup代表の五十嵐ゆりさん

特に、パートナーシップ制度施行のニュースは、メディアでも大きく報じられた。

「ある人から連絡がきて、『40年間、僕は親にカミングアウトすることができなかったけど、親がこのニュースを見ていて、やっとカミングアウトできたよ。本当に嬉しい、ありがとう』と伝えてくれました」と、ポジティブな影響の広がりについて話した。

声を上げると、呼応してくれる仲間がいる

北海道札幌市で活動する「コミュニティセンター・にじいろほっかいどう」事務局長の亮佑さんは、1990年代に同性愛者の居場所づくりや差別に対する抗議活動を行っていた「札幌ミーティング」や、1996年から2013年にかけて開催された「さっぽろレインボーマーチ」について紹介。

こうしたコミュニティの歴史がある札幌だからこそ「声をあげると、それに呼応して一緒に活動してくれる仲間がいる、というのが強みだと思っています」。

その強みが特に活かされたのが、昨年6月にスタートしたパートナーシップ制度を求める時だったという。当事者や弁護士、学識経験者らが集まり「ドメスティックパートナー札幌」を設立。市長に要望書や署名を提出し、実現に至った。

今後の課題は、北海道の「広さ」だ。

「東京から見ると札幌は地方ですが、札幌から見ると北海道内の街が地方です。昨年からレインボーマーチも再開し、イベントもやっていますが、札幌以外の街からくるのはとても遠い。

また、例えばパートナーシップ制度を他の街でやったとしても、知り合いばかりの街で、行政の窓口に行ってパートナーシップ宣誓をするのは難しいと言われたことがあり、それはそうだなと思いました。札幌と同じことをやっても、他の地域の当事者が生きやすくなるかというと、そうでもないかもしれません」。

後半のパネルディスカッション。モデレーターはやっぱ愛ダホ!idaho-net.代表の遠藤まめたさん(写真左)
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後半のパネルディスカッション。モデレーターはやっぱ愛ダホ!idaho-net.代表の遠藤まめたさん(写真左)

私たちの視点は普遍的に通用するものだ

仙台市で活動する小浜さんは「街づくりの担い手がいなくなっている中で、LGBTは貴重な存在です」と話す。

「マイノリティも共に生きられるという街にしていくとき、私たちの視点は普遍的に通用するものだと思いますし、当事者ひとりひとりが自信を持って欲しいです。そのために、地域の中で繋がりをどれだけ作っておけるかはとても大事。私たちから地域に投げかけていけば、どんどん返ってきます。これをチャンスだと思って、私も経験をどんどん共有していきたいと思っています」。

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「今日のようなイベントがあって欲しかった」と話すのは、富山県で活動している林さん。

「ほっといたら人口の多い街の情報が伝えられて縮小再生産がされていきますが、そういう街では、そもそも意見があう人とだけで走り出すことができます。地方だと、それが内部の軋轢になってしまうのです。全員の意見を完全に一致させるというのは難しいけれど、地方だからこそ『誰も取り残しちゃだめなんだ』と、やっと気づくことができました。

トニ・モリソンの『あなたが読みたい本があるのに、まだ誰もそれを書いていないなら、書くのはあなたです』という言葉があります。これからも、地方の人たちをつなげる拠点を作り続けていきたいと思っています」。

(2018年5月4日fairより転載)