LGBTへの差別禁止が明記された東京都人権条例が成立。残る懸念と今後の影響は。

東京都にとどまらない全国への影響の広がりを期待したい。
Soshi Matsuoka

LGBTへの差別を禁止し、ヘイトスピーチを規制する「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念実現のための条例」が昨日成立した。

オリンピック憲章の理念の実現に向けて、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に、LGBTや民族差別をなくすための条例で、3日に総務委員会を通過。5日の本会議では、かがやけTokyoが棄権、自民党が反対したが、都民ファーストの会、公明党、共産党、立憲民主党・民主クラブ、日本維新の会、東京・生活者ネットワークの賛成で可決、成立した。

パブリックコメントが反映

今年5月に小池東京都知事から発表された条例の概要では、「LGBTへの差別をなくしましょう」というアナウンスやLGBTに関する相談を受け付けはするが、それ以上は特に対応しない可能性がある、というものだった。

そのためfairでは、6月に東京都がパブリックコメントを募集した際、差別をしてはいけないという基本的なルールを示す「差別禁止の明文化」、差別的取り扱いを受けた場合に訴えることができる「当事者が入る審議会や苦情処理委員会の設置」、そして「SOGIに関する相談窓口の設置」の3点を求めるパブリックコメントの提出を呼びかけた。

多数のパブリックコメントが送られ、9月に公開された条例案では、第4条に「都、都民及び事業者は、性自認及び性的指向を理由とする不当な差別的取扱いをしてはならない」という差別禁止の文言が明記された。

差別的取扱いの禁止が入ると、例えばトランスジェンダーであることが理由で、職場を異動させられたり、解雇に追い込まれたりした場合に救済される、東京都が都営住宅に同性カップルを入居できるよう入居基準の見直しを検討する可能性などが出てくる。

また、「性的指向や性自認を理由とした差別はいけない」という認識が広まり、行政や企業がLGBTに関する取り組みを進める根拠にもなる。

現状、LGBTに対する差別をなくすための国レベルの法律はないが、今後の法制化に対して影響を及ぼす可能性もある。国だけでなく、東京都下の自治体や、他の都道府県で、これからLGBTに関する条例を制定する自治体にも何らか影響があるかもしれない。

こうした意味で、東京都がLGBTに関する「差別をしてはいけない」というルールを示すことは非常に大きな一歩だ。

ちなみに、条例に違反した場合の罰則はなく、対象は「差別的取り扱い」であり、個人の表現については対象ではない。

救済措置がないという懸念

一方で、今回の条例にはまだ懸念点もある。「差別禁止」が示されても、もし差別的取扱いを受けた場合に当事者はどのように訴えることができるのか等の措置が明記されていないのだ。

今年4月にLGBTに対する差別を禁止する条例を施行した東京都世田谷区では、性的指向や性自認を理由とする差別的取扱いを受けた場合、その区民の申し立てを受け、区が調査し、対応が適切かどうかを審議する「苦情処理委員会」が設置されることが明記されている。

もし区の取り組みで何か差別的な取り扱いがあれば、苦情として受け付け、区民どうしや事業者で差別的な取り扱いがあった場合は、区の職員が条例の説明をしに行く可能性がある。

基本計画にどう盛り込まれるか

今回の東京都の条例では、LGBTに対する差別の解消や、啓発を進めるために「基本計画」を作るよう指示されている。

実際に当事者が差別的な取り扱いを受けた場合、どういった措置がなされるのか、この「基本計画」に何が入るのか、今後注目していく必要がある。

本来は、いつ、どの地域で生活していても、 LGBTであることが理由で不当な扱いを受けることがないよう、国レベルの法律が求められる。しかし、それがない中、首都である東京都でこうした条例が制定されることのインパクトは大きいだろう。東京都にとどまらない全国への影響の広がりを期待したい。

(2018年10月5日fairより転載)