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2018年12月31日 10時00分 JST | 更新 2018年12月31日 10時02分 JST

「私たちはもう黙らない」LGBTをめぐる2018年の社会の動きを振り返る

今年一番注目を集めたのは、やはり杉田水脈議員の寄稿文を発端とする騒動だろう。

Soshi Matsuoka

LGBTをめぐる今年のニュースを振り返るイベント「Year in Review 2018:LGBTニュースから振り返る2018年」を開催。

勝間和代さん、ロバート・キャンベルさんら著名人のカミングアウトや、杉田水脈議員の寄稿文を発端とする騒動など、今年のLGBTをめぐるさまざまなニュースを振り返った。(今年のニュース一覧はこちら

Soshi Matsuoka
Year in Review 2018:LGBTニュースから振り返る2018年

イベントでは、トランスジェンダー活動家の杉山文野さん、神戸市看護大准教授の藤井ひろみさん、明治大学法学部教授の鈴木賢さん、世田谷区議会議員の上川あやさんが今年特に印象的だったニュースや、杉田水脈議員や新潮45をめぐる騒動について語った。

杉田水脈議員・新潮45騒動

東京レインボープライドに今年15万人が参加し、浜崎あゆみさんがライブを行なったことは非常に話題になった。

「女性のカミングアウトはまだまだハードルが高い」という藤井さん。

勝間和代さんのカミングアウトは「勇気がいることだったと思うし、画期的だったと思います」。

現在9つの自治体で実施されているパートナーシップ制度は、来年以降9つで施行予定。合わせて18になる。鈴木さんは「ドミノ現象が来年見られるのではないかと思っています」と話す。

世田谷区で施行された差別禁止条例。東京都でも性的指向や性自認を理由とする差別の禁止を盛り込んだ条例が成立するなど、行政の動きも活発化してきている。

Soshi Matsuoka
イベントの登壇者

さまざまな前進を見ることができた2018年だが、一方で、今年一番注目を集めたのは、やはり杉田水脈議員の寄稿文を発端とする騒動だろう。

「これは黙っていられないと思った」と語る上川さんは、約5000人が集まった7月27日の自民党本部前での抗議にも参加した。

「セクシュアルマイノリティに限らず、人の尊厳が踏みにじられたとき、基本的に黙っていてはいけないと私は思っています」。

同じく抗議に参加した鈴木さんは「あの晩は日本の『ストーンウォールの反乱』だったと思います」と語る。

「散々議論されましたが、杉田議員の言説の何がひどいかというと『ある属性の人間を低く評価し、その評価に基づいて税金投入の可否を決めて良い』と、その権限を持っている国会議員が言ったことです。

なので、この言説は非常に重く、LGBTだけでなく、障害者の方なども怒りを共有してくれたのはそういうことだからなんですよね」。

杉田議員の言説がまかり通ってしまうことに危機感を持ったという鈴木さん。

「しかし、自民党前であれだけ声をあげてくれる人が出てきて、ようやく日本も変わるのかなと、希望も抱きました」。

「抗議すること」の是非

「傷ついた人も多いと思いますが、これまで議論の土俵にすら上がることが少なかったLGBTに関する話題が、一連の騒動をきっかけに議論されるようになったという部分はよかった」と杉山さんは語る。

「(LGBTの人たちが)『いない』という前提条件がかわり、『いる』という認識に変わりつつあります。これからどんどん議論が広がっていくと良いと思っています」。

一方で、「対立を生まないことも大切にしている」と杉山さんは話す。

「LGBTといってもいろんな意見があるので、これまでは(活動する上で)なんとか対立しないよう、喧嘩しないようにと心がけてきました。

抗議に対して慣れていない部分もあると思います。でも、結果として今回の騒動については声をあげることの大切さも学びました」。

これまで、LGBTに対してあまり理解のない人とも対話を重ねてきたという杉山さんは「人として向き合っていくと(相手の)感覚も変わってくる」ことも実感してきた。

「正義の反対が悪だったら話は簡単なのですが、『自分が正義だ』と思っているのと同じ熱量で、相手も『同じ正義だ』と思っている。どういう形で進めるのがお互いにとって良いのかということを考え続けたいと思います」

Soshi Matsuoka
Year in Review 2018:LGBTニュースから振り返る2018年

藤井さんは、この一連の騒動を語る上で「傷ついた人」という言い方に注意しているという。

「傷つかなかった人がいるけど、傷ついた人もいる、ではなくて『みんなおしなべて傷つけられている』という感覚を私は持っています。

中には、傷ついたという感覚を強く自覚できる状況にいる人、自覚しないで前に進んで行かなければいけない状況の人もいると思っています。そこを踏まえてどのような抗議活動をするかは、いくつも方法があります」

昨年、フジテレビの番組で保毛尾田保毛男という同性愛者を揶揄するキャラクターが30年ぶりに登場し、批判を集めた事件があった。藤井さんはこの時フジテレビの担当者と話をした経験を振り返った。

「あの時、フジテレビに行って、LGBTを取り巻く状況について説明をしました。帰りに新幹線で友達と話していたら、ふと見たらその友達が泣いていて・・。

これだけ活動をしてきた人たちどうしでも『誰もほんとは怒りたいわけじゃない』という涙だったと思っています。

でも、こういう(差別的な)事象と直面させられて、これまでは見ないようにしてきたというか、目をつぶってでもとにかく前に進んできたけれど、目を開けざるを得なくなってきたと感じています。

何が正解かはわからないけど、今年の杉田議員を発端とする騒動に対する抗議は意味があったと思います」。

社会との向き合い方を考える

一方で、自民党前の抗議について上川さんは「気をつけないといけないのは、では自民党自体を敵視することが正しいのかどうか」だと話す。

杉田議員の発言に意を唱える自民党議員もいるように、各政党の中にもさまざまな立場の人がいる。

「与党が圧倒的な議席数を占める議会で、野党だけを応援するのは非現実的です。現政権下、なりを潜めている心ある議員を見落としてはいけないし、耕していかないといけない。

やはり、実際に対面で話すことで、目の前の人の体温や熱意が伝わり、イメージを塗り替えていくことができると思います。はじめから向こう岸に追いやるのではなく、理解できるひとがいるという可能性を広げていくことが大切です」。

その上で、「明らかに足を引っ掛けてくる人に対しては反論していく。このバランスが必要なのではないかと思います」。

Soshi Matsuoka
Year in Review 2018:LGBTニュースから振り返る2018年

鈴木さんは今回の騒動について「LGBTコミュニティ内からの批判が大きかったことは意外だった」と話す。

「日本では、抗議に対するフォビア(嫌悪)があるということに驚きました。私は法律の教師なので、権利は戦って獲得するものだという考えが前提で、これは法律家にとってあたりまえの考え方です。

権利のために戦おうとする姿を批判する人がいるのをみて、ある意味で欧米型のスタイルの運動とは違うスタイルを探していかないと、ゴールにはたどり着けないのかなと思いました。戦わないわけではなく、戦い方を考える必要性を感じました」。

2019年に向けて

最後に、2019年に向けて、LGBTを取り巻く社会について、それぞれの思いを語った。

杉山さんは「多様性の中にもある多様性を尊重しながら、年に1回のパレードはみんなでやろうよということで、コミュニティ全体として盛り上げてまた社会の雰囲気をつくっていきたいなと思います。

これまで『誰もが安心して集える場所をつくりたい』と思って飲食店やパレードをやってきましたが、それが特定の地域や年に1回のイベントだけではなく、いつでもどこでも安心して暮らせる社会にしていきたいと思っています。そのためには、飲食店やエンターテイメント、制度的なアプローチなど、あらゆる角度からできることをやっていくことが大事だと思っています。

こうあるべきという押し付けたいではなく、こうありたいというお互いの思いを応援できるような社会の空気感になっていくと良いなと思います」。

杉山さんと同じく「アプローチの方法はさまざまだ」と話す鈴木さん。

「基本をおさえることが大事だと思います。この社会は、LGBTを低く評価することを制度化していて、そのスティグマが構造化されています。それをやめさせたい、変えたいという目標を共有することです。そのための方法はひとつではありません。

私としては、来年はとにかく何らか(LGBTへの差別をなくすための)法律を通してほしいと思っています。『LGBTは価値的に低い人間ではないのだ』ということを法律に書いてほしい。スティグマをなくしていくための本当に初歩的な第一歩です。

同性間の婚姻はその次の段階だと思いますが、同じ価値を持っている人間であれば結婚ぐらいできなくてどうして同じ価値だと言えるのですかということになります」

Soshi Matsuoka
Year in Review 2018:LGBTニュースから振り返る2018年

LGBTに関する法律は現在、議員立法で法制化が進められている。通常全会派が一致しなければ議員立法は成立しない。

LGBT法連合会の共同代表の一人でもある藤井さんは「どの政党に対しても、私たちは当事者の状況を繰り返し説明し、熱量を持って政治家に考えてもらうよう促していきます」。

上川さんは、自身が初めて選挙に出た2003年を振り返り、LGBTを取り巻く社会のこれからについて語った。

「選挙に出る数ヶ月前まで、私は男性だったことを隠して生活しているOLでした。

かつての自分を振り返ると、こういうLGBTについての社会的な動きが顕在化してくると、ポジティブでない親戚や同僚の言葉をきく機会も増える。それに対して怯える当事者の気持ちもわからなくはないんです。

ただ、こうした議論の過渡期も経ていかないと、性は本来多様であることが当たり前だねと、LGBTは友人や同僚にも自然にいて、当然、平等な権利があるという望ましい理解の定着にも、なかなか繋がっていないのではないかと思っています。

多くの当事者が、自分が自分であることを受け入れることが難しかった社会から、さまざまな情報に接し、仲間に出会って、自分が自分であることを肯定できるようになってきています。

さらに、自らを肯定できるスタートラインに立つだけでなく、『私たちはもう黙らない』と、不当な発言に対しては抗議し、平等な権利も要求する。このマインドを持っている限り、社会は良い方向に変わっていくと私は結構、楽天的に見ています。ぜひみんなで変えていきましょう」

2019年も、LGBTをめぐる動きはさらに活発化していくだろう。来年は嬉しいニュースで溢れる1年になることを願う。

(2018年12月30日fairより転載)