パブ・ショック―『スコットランド人夫の日本不思議発見記』(18)

アルコールには、惜しみなくおカネを費やし、スポーツパブでは全員一丸となって盛り上がるのが当たり前のオーストラリア人やスコットランド人。

海外には、パーティーに集団で乗り込み、迷惑行為をする「パーティークラッシャー」(有名なのはイギリス・オランダ・オーストラリアなど)、サッカーの試合会場で大暴れする「フーリガン」(有名なのはイギリス・アメリカ・オランダなど)がいます。

今回は、そんな文化の中で育った夫と一緒にパブへ行った時の話です。

時は遡り2002年、結婚前の私と夫は、オーストラリアのシドニーに住んでいました。

その頃、ちょうど、「FIFAワールドカップ」が日韓で行われていて、ある日、日本戦があるということで、夫と私と日本人の友人との3人でスポーツパブへ行くことになりました。

スポーツパブは、試合前にも関わらず熱気に溢れていて、日本人もたくさん応援に来ていたことに、激しく興奮しました。

外国にいると、普段以上に愛国心が湧くものです。

いよいよ試合開始――対戦国がオーストラリアでなかったため、地元のお客さんはどちら側のサポーターに付くわけでもなく、ボールの行方を追っていました。

しかし、パブ全体がその試合内容に一喜一憂する様は、かなり気持ち良いものでした。

次から次へと夫が買ってくるビールを軽快に消費しながら、応援すること2時間――パブを出る頃には、私も友人もかなりの上機嫌でした。

そんな私たちに、夫は怪訝な顔を向け、こう言いました。

「日本人のサポーター...... アレだけたくさんいたノニ、とても静かでしたネ」

想定外の感想に、私と友人は苦笑いです。

「まぁ...... 日本人は、行儀がいいからね」

そう言った私に、夫は詰め寄り、

「アレ程静かにサッカーを観戦デキる人種は、日本人以外、他にナイ! 日本人は一体何で盛り上がるのデスカ?」

「いや...... 日本のパブでは盛り上がっているはずだ。ここはオーストラリアだからアウェーだと感じたのだろう。だから遠慮していたのだ」

いい具合に酔いが回っている夫の質問は止まりません。

「パブで飲まないって、ある意味スゴイデス」と、熱く語り始めた夫。

「日本人はケチなの? ミナサン、お金持ちだと思ってイマシタ!」

一体どこから仕入れた情報なのかわかりませんが、夫は「日本人は皆、金持ち」だと思っていたようです(だから交際前、私たちに声を掛けて来たのでしょう)。

私は夫の誤った知識にこう反論しました。

「いやいや、待ちたまえ。日本人が金持ちだったのはバブルの頃だ。それにここはオーストラリア。皆、留学生でおカネがない、とは思わないかね?」

試合中、日本人の生態を観察し続けていた夫の正論に、私はぐうの音も出ませんでした。

とりあえず「日本人の留学生たちにも、オーストラリアの喧騒を楽しませてあげてくれ」とだけ、頼みました――

アルコールには、惜しみなくおカネを費やし、スポーツパブでは全員一丸となって盛り上がるのが当たり前のオーストラリア人やスコットランド人。

そんな夫の日本人に対する最初のイメージが、「いかなる場面でも行儀良く、物静かな倹約家」になった出来事でもありました。

(終わり)

★コラム著者の4コマコミックエッセイ

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