シリコンバレーで成功する7つの秘訣:Scrum CEO Summit 2016 を振り返る

参考になりそうなポイントを「シリコンバレーで成功する7つの秘訣」としてご紹介したいと思います。

二週間前に行われた大統領選挙の衝撃の結果からまだ完全に抜け出せていない(というよりも本当の影響はこれから)シリコンバレーを抜け出し、Scrum Venturesは、東京で年に一回の大きなイベント「Scrum CEO Summit 2016」を開催しました。

今回は、投資先のCEO 6人、シリコンバレーで活躍されている日本企業のCVCの方々3人(参考:過去ポスト「VC投資全体の1/3」を占めるまでになった大企業によるCVC)、そしてトップアクセラレータであるY CombinatorからCOOのQasar Younis氏と10人もの豪華なゲストを迎えての開催となりました。

イベント参加投資先 CEO

パネルディスカッション二つ( Japanese CVCs in Silicon Valley / Inside Y Combinator )とスタートアップによるピッチを行いましたが、その中から、これからシリコンバレーに進出しようとされている企業の方々、そして現在活動中の方々にとって参考になりそうなポイントを「シリコンバレーで成功する7つの秘訣」としてご紹介したいと思います。

1 : 信頼関係づくりは「5つのGive」から。

1つ目のキーワードは、「Japanese CVCs in Silicon Valley」のパネルから。

まだシリコンバレー進出二年目ながら、Mobility向け通信のVeniam、Drone向けソリューションのPrecision Hawkなど興味深いスタートアップに投資を行っているヤマハのCVC、Yamaha Motor Ventures & Laboratyの西城 CEO(写真右)、最も歴史が長く100社を超える投資実績を誇るリクルートのCVC、Recruit Strategic Partnersの西条 President(写真中)、FinTechが日本で話題になる前からシリコンバレーに進出し、SquareStripeと有力FinTechスタートアップに投資実績のある三井住友カードの利田部長(写真左)というお三方にご参加いただき、シリコンバレーでの日常、投資案件の発掘方法、投資手法、注目分野などについてお話をお伺いしました。

月に20-25件のスタートアップと会う」というリクルートの西条さんは、その多くを現地の有力VCから紹介されているそうです。

どうやってそうした有力VCとの関係を築いていったのか、という質問に対しての答えがこのキーワードです。

日本の大企業の方々が勘違いしがちなのが、「大企業なんだからどんどん紹介してもらえるよね」ということ。日本の大企業でシリコンバレーで名前が通用するのは一握りですし、名前が知られているだけではいいスタートアップは紹介はしてもらえません。

西条さんは、「泥臭い営業マインド」で、有力VCと関係を築くために、いいディール(投資案件)を5回Give(紹介)して、それから初めてTake(彼らからの紹介)を期待するという姿勢でやっているということです。毎回まず5回ということではないと思いますが、Giveが最初に来る Give & Takeをベースにした信頼関係づくりが重要というのは間違いありません。

リクルートでは、それをCRMでしっかりと管理して運用しているそうです。さすがの徹底ぶりですね。

2 : ローカル採用は、能力だけでなくネットワークを持ってくる。

2つ目のキーワードは、CVCのメンバーに関して、ヤマハの西城さんから。

ヤマハのCVCのホームページを覗いてみると、メンバーのリストには日本人ではない方々が多数紹介されています。

本社から来ているのはトップの西城さんだけで、後の五人は全てローカル採用だということです。彼らはいずれも10-15年のCVC経験のあるローカルの人だということで、彼らが独自のネットワークでたくさんのディールを持ってくるので、立ち上げてからディールに困ったことはないということです。多くの日本企業が、シリコンバレーにオフィスを立ち上げたけど情報がないというのとは対照的ですね。

オフィスの共通言語は英語で、日本語が喋れることも条件にしていないということでした。

本社との関係、報酬体系、言語の問題など実現は容易ではないかもしれませんが、私も個人的にこのやり方をおすすめしています。Scrum Venturesでも、投資チームはローカルのメンバーが大きなパワーを発揮しています。

3 : LP投資はシリコンバレーの「入園料」。

3つ目のキーワードは、投資の形態に関して、三井住友カードの利田部長から。

三井住友カードでは、CVCは持っておらず、「直接投資」と「LP投資」の二つを現在シリコンバレーで行っているそうです。

「直接投資」は、ファイナンシャルリターンは追わずに、基本事業開発が主な目的。日本でいかに一緒に事業を作れるかを目的として投資を行っているといいます。

一方で、現地のVCに投資をする「LP投資」は、情報ソース、ネタを効率的に集めるためのパートナーづくりとして行っているそうです。

初めてLP投資を行う際に参考にしたのが、当時オフィスが隣だったリクルートの西条さんからのアドバイスだったということで、今回のキーワードです。

私自身VCを運営しており、LP投資がシリコンバレーで活動を始めるためにマストな条件だとは思いませんが、前述の「Give & Take」を始めるためにも、ネットワークの入り口に立つ第一歩と位置付けることもできるのかもしれません。

最近シリコンバレーに事務所を構える日本企業の数は増えましたが、単なるリサーチの域を超えて、投資、提携などの実績を出している企業はわずかです。

今回の「Japanese CVCs in Silicon Valley」のパネルでは、日系企業の中でもシリコンバレーで大きな成果をあげている三者のキーマンにお話を聞くことができました。ここでご紹介したキーワード以外にも参考になる話が多数あると思います。ご興味がある方はぜひ動画もご覧ください

4 : Y Combinatorの強みは「多くのスマートな起業家の集まり」であること。

4つめのキーワードは、次のパネル「Inside Y Combinator」から。

Airbnb、Dropboxといった錚々たるユニコーン企業を生み出し続けているトップアクセラレータ Y Combinator。Scrum Venturesにとっては最大の共同投資相手であり、これまで約10社一緒に投資を行っています。

今回は、ファッションレンタルのLeTote、ウェアラブルデバイスのSpire、動画ライブ配信ソリューションのVidpressoというScrum Venturesの投資先である Y Combinator卒業生に、Y Combinatorでの経験、その強みなどについて話を聞きました。

今回モデレータを勤めていただいたFinancial Timeの稲垣記者からの、「Y Combinatorは何が特別なのか?」という質問に対してのSpireのJonathanの答えが今回のキーワード。

出資をしてくれたり、いろんな紹介をしてくれたりもするけれども、最大の価値は「Collection of very smart people」だと言います。LeToteのRakeshは、それを受けて「Smart Entrepreneur」だよねと付け加えました。

Y Combinatorのパートナーのリストがここにありますが、そのほとんどが「元起業家」です。代表のSam Altmanは、Looptというモバイルサービスのスタートアップの創業者だったし、今回CEO Summitに参加してくれたCOOのQasar Younisは、Talkbinというスタートアップの創業者です。同じバッチに参加をする起業家だけでなく、YCのパートナーも起業家なのです。

文字にするとすごく当たり前のことのように聞こえてしまうかもしれませんが、私も強く共感します。Demo Dayに参加してみると、他のアクセラレータよりも遥かに優秀な起業家が、たくさん参加していると感じます。2005年という早いタイミングからスタートし、初期にAirbnb、Dropboxといった成功例を生み出したことで、全米、世界中のトップの起業家たちがYCを目指してやってくるようになるという良いスパイラルが生まれたのだと思います。

他のアクセラレータなどとは異なり、小さな売り上げや確実なビジネスモデルなどではなく、大きなアイディア、社会に対するインパクトを重視する姿勢も世界中からタレントを集める要因になっていると思います。

シリコンバレーが50年を超える積み重ねの上になりたっているのと同様に、Y Combinatorもこの10年の歴史があって今があるということだと思います。

5 : パターン認識から生まれるピンポイントなアドバイス。

5つめのキーワードは、YCで受けたメンタリングの経験についてのRakeshの回答から。

Y Combinatorのパートナーたちは、自分たちが起業家であるということに加えて、毎年1,000という単位のスタートアップたちと会い、その成功と失敗のパターンをたくさん見ている。その経験から、スタートアップから相談を受けたときのアドバイスが、一般的なものではなく、実際の課題の解決に繋がるピンポイントなものが多い。

また、卒業生やネットワークが大きいことから、同じような経験をしている起業家やアドバイザーに的確に紹介をしてくれるという。これも大きいですね。

Jonathanが、「Signal to Noise Ratio is very high」と付け加えました。シリコンバレーには投資家やアドバイザーが溢れており、スタートアップにアドバイスや意見をしてくれる人はとにかく多い。そんな環境の中、ピンポイントで本当に役に立つアドバイスができるかどうかが大事になってくるという意味でしょう。

6 :「トロイの木馬」。大きなビジョンを実現するためのニッチ戦略。

6つめ目のキーワードは、スタートアップの製品戦略について。

それぞれの個別のビジネスの話をする中で、「今の製品」と「将来な大きなビジョン」との関係についての議論となったときにJonathanから出てきたのがこのキーワード。

LeToteは、2012年に月額59ドルで洋服がレンタルし放題のサービスとしてスタートしました。

レンタルである、新品ではないなど通常のEコマースとの違いは様々ありますが、最大の違いはユーザのデータがどんどん溜まる、ということです。75%ものユーザは、商品を返すときに毎回フィードバックをしてくれる。その結果、レンタルのパターン、嗜好、生活スタイル、家族構成、などユーザに関する様々な情報が蓄積されていく。

LeToteは、当初は大きなブランドの洋服をレンタルしていましたが、現在はそれらのデータを活かすことで、独自ファッションブランドの製品の開発に力を入れています。ファッションレンタルの会社からスタートして、データを使った新しい形のファッションブランドへと変貌を遂げつつあります。

一方、Spireの究極の目標は、「人間のあらゆるヘルスケア情報を絶えず測定し続けること」だといいます。ただ、何も持たないスタートアップがいきなりその目標に向かおうとしても無理な話です。そこで現在は、「ココロの状態が測定できるウェアラブルデバイス」というユニークなアプローチのデバイスにフォーカスをして、着実に成長しています。

このように、シリコンバレーでは壮大なビジョンを掲げつつも、その実現に近づくためにまずは「Trojan horse(トロイの木馬)」戦略でスタートすることがよくあります。最近はやりのAIのように、応用範囲が非常に広い技術においても有用な戦略です。

7 : 「月に一社は買収する」。M&Aがうまくなる秘訣。

最後のキーワードは、Y Combinator COOのQasarから。

実は、残念ながら彼の飛行機が遅れたため、CEO Summitでは少ししか話を聞くことができませんでした。そこで、二日後に開催されたTechCrunchのイベントで、二人でやったKeynoteの中で彼が話したことから、一つキーワードを紹介したいと思います。

Qasarは、元々Mechanical Engineerとして、GMやBoschなど自動車業界で勤務をした後、2010年に自身でスタートアップを立ち上げ、Y Combinatorに採用、わずか10ヶ月後にGoogleに買収されるという経験を持ちます。

現在は、COOとして、年に二回開催されるバッチの応募企業の審査(毎回6,000-7,000社)、参加企業の審査、デモデーの運営など、アクセラレータプログラムの運営全体の責任者です。

今回のKeynoteでは、YCの現状、自動車業界のトレンド、大統領選挙、ベーシックインカム、YCの将来(MOOCS)など多岐に渡って話をしました。

このキーワードは、私が「どうやったら日本企業がスタートアップのM&Aで成功できるか」と質問したことに対する彼の答えです。

彼のスタートアップを買収したGoogleも、YouTubeやAndroidといった今や中核となっている事業の買収以外に、たくさんの失敗買収も経験しています。人の目利き、事業の目利き、PMIなど、経験してみないとわからないことが多くあるので、経験を積み重ねてノウハウを蓄積する必要があるというアドバイスです。

さすがに「月に一回」というのは難しいとしても、いざというときに未経験で一発必中で大型の買収をするよりも、経験を経てノウハウをためていくというのは、他の事業活動と同様、重要なことだと言えるでしょう。

最近、シリコンバレーのスタートアップに出資をするという事例はかなり見られるようになってきましたが、まだM&Aは多くはありません。今後、出資の次のステップとして、日本の大企業によるシリコンバレースタートアップのM&Aの事例が増えるといいなと思います。

注目記事