「見るだけAlexa」の時代はいつ来るのか。カメラを再発明するSnap。

SnapChatは、8年間の間に積極的にスタートアップを買収し、技術を取り入れることで、フィルター、サングラスというヒット商品を生み出し続けています。

先週の木曜日、若者に人気のモバイルソーシャルメディア、Snapchatを運営するSnap社が、ニューヨーク証券取引所へのIPOを正式に申請(S-1)しました。

2011年の創業からティーンエージャーを中心に圧倒的な人気を誇るSnapchatですが、私自身はヘビーユーザではない(=トライしているが馴染めない。。)ため、これまで数回しかブログで取り上げたことはありません。

今回は、大型IPOにこぎつけた大学発スタートアップの歴史と今の数字、そして、自らを「Camera Company」と位置付けるSnapの特許情報から透けて見えるこれからのビジョンについて書きたいと思います。

今Alexaで大いに盛り上がっている「声」によるインターフェースですが、Snapの製品や特許から見えてくるのは次のインターフェースとしての「目(=カメラ)」の可能性です。

Sextingからフィルター、そしてStoriesでメディアへ

このブログを読んでいただいてる方々で、Snapchatを日々使っているという方はとても少ないのではないでしょうか(大丈夫です。私もです)。

そもそもSnapchatとはどんなアプリなのか。

口からレインボーが流れ出る写真や動画は見たことがあるのではないでしょうか。

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こういう写真や動画が日々大量に若者の間でやり取りされているのがSnapchatです。

元々は、Facebookが幅広い年代層に普及したことで、親とも繋がっているFacebookでは変な写真をアップできないという若者の悩みからスタートしています。

そこで、写真や動画を送っても「すぐに消える」から大丈夫というコンセプトで大流行したのがSnapchatです。

当初、Snapchatの代名詞ともなったのが「Sexting」という言葉です。SexとTextingの組み合わせですが、少しエッチな写真を送ってもすぐに消えるから大丈夫というわけで若者の間で大流行しました。

こちらはSnapchat公式の紹介動画です。

創業からIPOまでの8年間のSnapchatの歴史を簡単にまとめた記事があります。重要なイベントを並べてみると以下の様になります。

  • 2010年、CEOのEvan Spiegelと共同創業者のBobby Murphy、そして今回$157.5M支払って和解したReggie BrownがStanford大学で出会う。MurphyとSpiegelは、大学受験用のソーシャルメディアを立ち上げるべくFuture Freshmanという会社を起業するが失敗
  • 2011年4月、Brownが「この女の子に送ってる写真消えないかな」とSpiegelに伝え、Snapchatのアイディアが産まれる。当初の名称はPicaboo。有名な黄色いお化けのロゴはSpiegelが書いた。アプリは当初ヒットせず、Brownは喧嘩をしてチームを離れる。
  • 2011年9月、名称をSnapchatに変更。徐々にではあるが高校生の間で流行り始める。
  • 2012年春、ユーザ数が10万DAUに到達。LightspeedのJeremy Liewが最初の投資家として出資。そして、Spiegelは、Stanfordを中退する。そして4人になっていたチームは、LAのSpiegelの父親の家に移る。
  • 2012年末に、100万DAUに到達。Facebookが競合アプリ、Pokeを立ち上げる
  • 2013年2月、Reggie Brownが訴訟を起こす。
  • 2013年秋、24時間コンテンツが消えないStoriesを立ち上げる。そして、Facebookからの$3Bでの買収提案を断る
  • 2013年12月、ハッキングされ、400万アカウントのユーザ名と電話番号が流出する。
  • 2014年5月、大学時代のメールが流出してバッシングを受ける。チャット機能、Live Storiesなどを次々に立ち上げる。
  • 2014年7月、時価総額が$10Bに達する。
  • 2014年12月、AR技術のVergence Labsを買収
  • 2015年1月、メディア向けコンテンツDiscoverを立ち上げる
  • 2015年9月、顔認識スタートアップLookseryを買収。同社の技術を活用したフィルターが大ブームに。
  • 2016年11月、ARサングラスSpectacles発表。社名をSnapに変更。

Snapchatというコアのプロダクトは変わっていませんが、8年間の間に積極的にスタートアップを買収し、その技術を取り入れることで、フィルター、サングラスというヒット商品を生み出し続けていることがわかります。

売上$400M DAU 1.58億人 時価総額$25B超え

数字面も少し見てみたいと思います。ユーザ数や売上などは以下の通りです。

  • DAU 1.58億人(北米6800万人 / ヨーロッパ5200万人 / その他 3900万人)
  • 売上 $404.5M / 損失 $514.6M(TwitterはIPO時 $317Mの売上、Facebookは$3.7B)
  • ARPU $1.05
  • 社員数 1,859人

ユーザ数は、Facebookの12.3億DAUには遠く及びませんが、順調に成長しています(直近の伸びの鈍化は気になるところですが)。

$400Mに達している売上の内訳については、eMarketerがこちらの様な分析を出しています。売上の4割以上を占めるのがDiscoverです。

つい先日New York Timesもコンテンツの提供を発表しましたが、CNN、ESPNなどの大手メディアが、動画で毎日新しいコンテンツを提供するチャンネルです。

インターフェースが非常にユニークなので、下記の動画をご覧ください。

その他は、Facebookも力を入れいてるライブ動画の「LiveStories」が27.7%、LINEのステッカー広告の様な「Sponsored Lens」が21%、位置に連動したフィルターの「Sponsored Geofilters」が8.4%となっています。

今の所はほとんどが広告による売上となっていますが、昨年末にローンチしたARサングラスSpectaclesの様なハードウェアとそれに関連するビジネスが、今後どの程度売上に寄与して来るのかは楽しみです。

カメラを再発明する「Camera Company」

SnapのS-1の最初に、以下の文章が掲げられています。

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「Snap社は、カメラ会社だ。

カメラを再発明することに、人々が生き、そしてコミュニケーションをすることを、さらに改善する大きな機会があると信じている。

我々の製品は、自身を表現し、その時々を伝え、世界で起こっていることを知り、そして一緒に楽しむことを支援する。」

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旧来のカメラメーカーであるCanonやNikonの様に一眼レフカメラは作っていませんが、スマホカメラの新しい使い方をどんどん生み出している自分たちはカメラの使い方を再発明しているという自負でしょう。

そして、昨年にはSpectaclesという、既存のカメラメーカーからはひっくり返っても出てこない様なハードウェアを発売しています。

Spectaclesは、「カジュアルなGoogleグラス」 というとわかりやすいかもしれません。地図を見たり、情報を検索したり、複雑なことは全くできませんが、動画が撮影できます。

サングランスのフレームの上についているボタンを押すと、前面の黄色い枠の中にあるカメラから、10秒間の動画を撮影することができます。

その動画はすぐに自分のSnapchatにアップされ、友人に送ったり、Storiesにアップすることができます。

私は発売後すぐに入手をしてしばらく試しましたが、なかなか使い道が。。一方、20代の前半の若者にあげると、とても楽しい様で、いつも持ち歩き頻繁に動画を撮っている様です。

これがジェネレーションギャップというやつですね。。

こちらが公式の動画です。

Spectaclesは、まだ「Snapchatのための撮像デバイス」の域を出ませんが、Snapはまだまだ先を見据えている様です。

Spectaclesの先に、Snap社が何をしようとしているのか、その取得特許をまとめたこちらのポストによくまとまっています。過去5年間のSnapの特許取得の歴史です。

2014年からその数が急増していますが、新しいフォーカスが、主に「画像 / 音声認識関連(Object, Facial, Audio Recognition)」にあることがよく分かります。

このポストの中で、こうした認識技術を活用したアプリケーションの例として挙げられている主なものは、以下の3つです。

  • ビデオチャットコマース
  • 物体認識 / 検索
  • 3Dセルフィー

一つ目の「ビデオチャットコマース」ですが、文字通り、ビデオチャットをしている最中にショッピングができるというものです。

このアプリケーションは、2014年にSnapが会社として初めて買収をしたAddLiveの特許がベースとなっています。

Instagramなど動画を通したコマースは徐々に増えてきていますが、今後リアルタイムにビデオチャットをしながら買い物をするという世界が来るかもしれません。また、DeNAの人気サービスShowroomの様に、チャットをしている相手にお金を払う「投げ銭モデル」ももっと増えて来るでしょう。

二つ目の「物体認識 / 検索」は、見ているものを理解して、その情報を表示したり、関連する情報を検索するというものです。

この特許で書かれている図では、LiveStoriesで撮影している対象を認識し、それにあったフィルターを自動で表示しています。この場合、エンパイアステートビルを認識して、キングコングのフィルターが自動で表示されています。また、広告での利用も想定されています。

コーヒーが認識されると、そのコーヒーに対して広告枠を購入している企業の広告が表示されるというものです。先日、Google翻訳のリアルタイム翻訳機能が話題となりましたが、それが様々なオブジェクトに拡張されるイメージです。

最後は、「3Dセルフィー」です。

これは、 2016年6月に買収したSeeneが保有していた技術で、スマホのカメラを使って人の3次元の顔を認識して、簡単にアバターを作ることができます。ビデオチャットで話している相手をその場で3Dフィルターにして動画に乗せたり、なんだからいろんなことができそうです。

いずれもあくまで特許の情報であり、いつ製品として実装されるのかは未知数です。

ただ、今回IPOをして、$3Bと言われる資金を調達するだけに、これからのSnapの展開が非常に楽しみです。

1月のCES以降、Amazon Alexaの話題一色であり、「音声」のインターフェースが注目を集めるています。ただ、音声も万能ではなく、大勢がいる環境で使いにくいなどのハードルも存在します。

Snapの特許は、かつてGoogle Glassが目指した様な「見ただけで」色々なことができる、「画像によるインターフェース」の世界への期待を抱かせてくれます。

26歳の若者が率いる21世紀の「Camera Company」が、IPO後、どの様な展開を見せてくれるのか、今から楽しみです。

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