ギリシャ問題と預金封鎖を理解するためのマメ知識

ドイツがギリシャに対してとても手を焼いているのは、上の動画でハミルトンが説明したような「力学」が、両国の間に生じているからに他なりません。

昨日、Facebookフレンドの矢澤さんから、下の動画を紹介頂きました。これはHBOのテレビドラマシリーズ「ジョン・アダムズ」の1シーンです。ジョン・アダムズは「米国建国の父」と呼ばれる、独立運動を始めたリーダーの一人で、第2代米国大統領を務めた人です。

この動画を紹介したかった理由は、お金の借り手と貸し手の間に生じる影響力を良く表現しているからです。

それまでバラバラに存在していたアメリカの各州は、独立戦争で大きな債務を負いました。その債務が返せなくなったとき、アレキサンダー・ハミルトンは「アメリカ合衆国財務省を作って、各州がこしらえた借金を全部一手に引き受けよう」と提案します。

上の動画の45秒以降の2分間の会話を訳します:

ジェファーソン(J):正直言って、ハミルトンさん、あなたの提唱する財務省とやらの目的が私にはいまひとつわからないのですが......まあ、そのうち経済が安定すれば財務省の値打も明らかになるでしょうけど。

ハミルトン(H):アメリカという国の将来の繁栄は、貿易にかかっていると思います。貿易が成功するかどうかのひとつのカギになるのは、他国がアメリカにお金を貸してくれるかどうかです。

J:それじゃあなたは国際的な信用を、いったいどうやって確立させようと言うのですか?

H:最初にやらなければいけないことは、国が借金をこしらえることです。借金が多ければ多いほど、信用の額も大きくなります。私が大統領と議会に対して合衆国銀行の設立を提唱したのはそのためです。これまでに各州がこしらえた債務を一本化し、合衆国の債務とした方が、信用力が増します。外国は、各州にはお金を貸したがらなくても、アメリカ合衆国政府に対してなら貸付をする気になるでしょう。

J:もし各州が連邦政府に借金を作るとなると、それは連邦政府の支配力を増加させることになりますよね?

H:その通りです。連邦政府の責任が重くなればなるほど、連邦政府の権威もそれに比例して大きくなります。

J:この国でお金があるところは北部ですよね。ということは連邦政府の国富や権力は、自ずと北に集まってしまうことを意味しませんか? 南部は、それで割りを喰うことになる。

H:もしそうなるのが必然なら、それも仕方ないでしょう。若し連邦政府をひとつにまとめようとするのならば。

J:もしバージニア州の農民がニューヨークの株屋に債務で隷属するようになれば、そしてそのニューヨークの株屋はロンドンの銀行家に隷属するのであれば、独立戦争を戦った意味が無いじゃないですか? それにそういうシステムは腐敗の温床になりそうですね。

H:若し人民がすべて天使の如き善人なら、そもそも政府なんて必要ないですよ。

この短い会話の中に、およそ国の信用というもののエッセンスがすべて詰まっています。よく「借りた者勝ち」といいますけど、たとえばドイツがギリシャに対してとても手を焼いているのは、上の動画でハミルトンが説明したような「力学」が、両国の間に生じているからに他なりません。

国を跨いだ投資や借金は、法律の枠組みが違う事をはじめいろいろな理由でリスクを伴います。だから「日本の借金は、日本人から借りた方が良い」という価値観があります。よく日本政府の債務を、グロス・ベースではなく、ネット・ベースで比較するのはこのためです。

なるほど日本人から借りれば、外国の気まぐれな投資家の心変わりに翻弄されることはありません。

でもここでわれわれは二つの事に気がつかないといけません。

第一に日本国債の大半が日本人だけによって持たれているということは、国際的な視点から考えると、JGBは世界の投資家の誰からも顧みられていないということ。これはそもそも利害が無いわけだから、何か起きたときも外国は日本に救いの手を差し伸べてくれないことを意味します。

第二に日本政府は日本国民から、しこたま借金しているということは、上のハミルトンの「力学」で言えば、日本政府は、パワフルすぎる借り手の立場から、やりたい放題出来るというリスクがあることを示唆しているのです。その横暴のひとつの発露が、預金封鎖なのです。

(2015年2月19日「Market Hack」より転載)

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