幸福学と教育

人間は皆、幸せになるために学び・教えたいはずなのに、教員と生徒・学生は教育によって幸せになっているとは限らないという現状があります。

教育とは何でしょうか?様々な力を身に付けさせることによって、生きる力を伸ばすことでしょうか?

ところがこれまで教育は、どちらかというと個別科目の力を身に付けさせることに注力されがちで、総合的な生きる力の育成に向かっていたとは言えない面があるように思います。教育者として反省を込めて述べるなら「木を見て森を見ず」です。

その原因の一つとして、「総合的な生きる力の育成」が体系化されてこなかったことが考えられます。その結果、「総合的な生きる力の育成」が、かけ声だけに終わりがちとなっていた面があるのではないでしょうか?では、これを、いかにして体系化すればいいのでしょうか?私は、幸福学がキーになると考えています。

私は幸福学の研究・教育を行っています。すなわち、「幸せとはそもそも何か?(幸せのメカニズムの理解)」「人はどうすれば幸せになれるのか?(幸せのデザイン)」といった総合的な課題を明らかにするとともに、「人を幸せにする製品やサービスの開発とは?」「顧客や従業員を幸せにする経営とは?」「住民を幸せにする地域活性化とは?」などの課題を具体的に解決するための研究を行っています。

人間が行うすべての活動は、人間の幸せのためにあるべきであるにも関わらず、これまで「幸せ」が具体的に設計変数として考慮されてこなかったと考え、この研究・教育を始めました。教育問題も他の課題と同様です。「幸せになること」は「総合的な生きる力を育成すること」とほぼ同義であるにもかかわらず、これまで「幸せ」の重要性が見落とされがちであったように思います。

つまり、人間は皆、幸せになるために学び・教えたいはずなのに、教員と生徒・学生は教育によって幸せになっているとは限らないという現状があります。「幸せ」が教育のデザインの場での設計変数として考慮されてこなかったからです。幸せな人は、創造性が高く、パフォーマンスが高く、利他的で、友人が多く、多様性を育み、物事に感謝をし、自己肯定感や自己受容が高い傾向があり、成績がよく、性格も優れていることなどが、幸福学研究により明らかにされています。

つまり、先程も述べた通り、「幸せであること」イコール「総合的な生きる力があること」と言えるのです。このため、私は、幸福学を教育現場に取り入れることが、生徒の生きる力の向上や、教育の質の向上につながると考えます。

では、なにをすればいいのか。結論から言うと、総合的学習の時間や、道徳・倫理学の時間など、学校教育のなかに幸福学を取り入れることが有効だろうと考えています。また、教師のスキルアップのための学びの場にも、幸福学(幸せのメカニズムの理解と幸せな人生デザインの実践)を取り入れるべきだと思います。

少しだけ、私たちの研究の結果を紹介しましょう。幸せの4つの因子です。

私たちは、幸福学の全体像を体系化するために幸福の因子が何かを分析しました。まず、多くの研究者らによって得られた、幸せとの相関の高い多数の要因のうち、心的要因のみを抽出しました。心的要因のみを対象とした理由は、心的要因は非地位財(他人との比較とは関係なく幸せが得られるモノやコト)であることが多いのに対し、外的要因は地位財(金、モノ、地位のように周囲との比較により満足を得るモノやコト)である場合が多いためです。地位財による幸福は長続きしない幸福であるのに対し、自主性、自由、愛情などの非地位財は長続きする幸福であることが知られています。

私たちは、次に、幸せに影響する要因29項目87個の質問を作成し、インターネットで1500人の日本人に対してアンケート調査を行い、因子分析という手法を用いて分析しました。その結果、幸せに影響する以下の4つの心的因子を導きだすことができました。

第一因子 自己実現と成長(やってみよう因子):目標を達成したり、目指すべき目標を持ち、学習・成長していること

第二因子 つながりと感謝(ありがとう因子):多様な他者とのつながりを持ち、他人に感謝する傾向、他人に親切にする傾向が強いこと

第三因子 前向きと楽観(なんとかなる因子):ポジティブ・前向きに物事を捉え、細かいことを気にしない傾向が強いこと

第四因子 独立とマイペース(あなたらしく因子):自分の考えが明確で、人の目を気にしない傾向が強いこと

4因子をまとめると、幸せな人とは、「多様な者が助け合い尊敬し合い(第2因子)、前向きかつ楽観的に(第3因子)、自分らしく(第4因子)、それぞれの夢や目的を目指し、解決していく(第1因子)」ような生き方をしている人だということができます。まさに、「総合的な生きる力」のある人材だと言えるでしょう。

私は、総合的人間学である幸福学を各分野に広めることによって、世界人類皆が幸せで平和な世界の実現に微力ながら貢献することを天命だと思って日々活動しています。

今回立ち上げたティーチャーズ・イニシアティブにおいても、幸福学を生きた教育に取り入れるために全力で取り組む所存です。ともによりよい世界を創りましょう!

【一般社団法人 ティーチャーズ・イニシアティブ】

21世紀に必要な学びの実現を目指し、日々生徒に向き合う教師を社会全体で支援するために設立されました。

7月23日(土)に設立記念シンポジウム「シフトする教育~未来をつくる教師」を開催します。

また、8月より、教師向けに「21世紀ティーチャーズプログラム」を始動します。

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