6割が永住者に、デカセギに来た在日ブラジル人の今

1990年に入国管理法が改正され、群馬県大泉町など製造業がさかんな地域では、日系ブラジル人を積極的に受け入れました。

夏にリオ五輪が開かれるブラジル。日本の反対側にありますが、つながりが深い国です。在留外国人ではアジア以外で最も多いです。「日本の中のブラジル」といわれる群馬県大泉町を訪ねてみました。

リオ五輪開幕までの日をカウントダウンするブラジル料理店「ロデイオグリル」=どれも2015年12月、群馬県大泉町、猪野元健撮影

大泉町は群馬県でもっとも小さい町。50か国以上の人が暮らし、そのうちブラジル人が6割をしめ、町の人口約4万1千人のうち約4千人にのぼります。サンバコンテストを毎年開くなど、ブラジルの文化が感じられる町としてPRしています。

「オブリガード(ありがとう)」。ブラジル人向けのスーパーマーケット「タカラ」では、お客さんの陽気な会話も商品説明もポルトガル語が中心です。アマゾン流域でとれる種子「ガラナ」のジュースなど、ブラジルならではの商品が並びます。

五輪ムードが少しずつ高まっているお店もあります。タカラと同じ建物にあるブラジル料理店「ロデイオグリル」では、リオ五輪の開幕日(8月5日)までをカウントダウンし、ブラジルと日本のメダルを記録するボードも設置しています。

ロデイオグリル代表で日系ブラジル人の宮崎マルコ・アントニオさんは「五輪をきっかけに町を盛り上げたい」と意気込みます。その一方で「五輪を控えているのに経済が落ち込んでいて心配」と母国ブラジルに思いを寄せます。

ブラジル人向けには、スーパーや料理店以外に、雑貨屋や美容院、学校、旅行会社、教会などがあります。首都ブラジリアに本店があるブラジル銀行の車も走ります。

ブラジル人向けのスーパー「タカラ」。黄色の車はブラジル銀行の車で、中で行員が住民の相談に乗っていた

タカラの店内では店員も客も南米の人が多く、日本の普通のスーパーではみられないお菓子や野菜も多い

ブラジルで大人気というパンケーキ「パネトーネ」が山積みだった

町の中のファミリマートにもブラジルの国旗が飾られている

日系ブラジル人のサントス・アケミさん(37歳)は、母親のユリコさん(62歳)らと20年前に出稼ぎで来日しました。いまは町内のブラジル人学校の先生として働き、長女サユリさん(小5)、次女カオリさん(小3)の子育てにはげみます。

一家で飛びかう言葉はやはりポルトガル語。明るい家族で、笑いがたえません。アケミさんが腕をふるう食卓には、ミンチ肉でチーズやハム、トマトなどを巻いた「ホカンボーレ」や豆とベーコンなどを煮たシチュー「フェイジョン」などのブラジル料理が並びます。子どもたちが好きな和食のおにぎりやみそ汁もつくります。

日系ブラジル人のサントス・アケミさん(左から2人目)一家の食卓には、ブラジル料理が並んだ

子どもたちの大好物「ホカンボーレ」。ミンチ肉でチーズやトマトなどを巻き、オーブンで焼くと完成

豆を煮込んだ「フェイジョン」はご飯との相性が抜群

町では2008年のリーマン・ショックを機にブラジルに帰る人が相次ぎましたが、アケミさんは日本で生活することを選びました。「サンパウロにいる親戚と離れてくらすのはさびしいですが、日本は不景気になったとしても経済が安定している豊かな国。子どもが安心して暮らせることも大きいです」

サユリさんとカオリさんは、町立の小学校に通います。漢字の読み書きなど苦手な日本語も学校で特別に習っています。サユリさんはパソコンクラブに入り、「物語を書くのが楽しい」と話します。将来の目標はエンジニアです。カオリさんは「休み時間の鬼ごっこが好き」。目指すは学校の先生です。日本での夢が膨らみます。

1990年の入国管理法の改正で、日本で働ける「定住者」の在留資格が認められるようになり、大泉町など主に製造業がさかんな地域で日系ブラジル人を積極的に受け入れました。地域の経済を支えきた一方で、日本語の習得が不十分だと就労の機会が十分に得られないなど課題も抱えています。

全国で暮らす在日ブラジル人は17万3千人で、中国、韓国・朝鮮、フィリピンに続き4番目です。ピークだった2007年の31万7千人から半数近くに減りましたが、武蔵大学教授のアンジェロ・イシさんは「『永住者』の資格を取得した人々が急増している」と話します。

「定住者」の場合、一定の期間で在留するための更新が必要になりますが、「永住者」は無期限です。定住者が永住者の資格を得る場合、法律を守っているかや住んでいる期間などの条件を満たす必要があります。在日ブラジル人の永住者の割合は、10年前は3割ほどでしたが、去年6月には6割を越えました。

「日本での滞在を一時的なものと考えるデカセギ志向を見直す人、日本が住みよい国だと思う人が増えています。日本社会の一員としての自覚を持つ在日ブラジル人が多くなっています」とアンジェロさん。日本で自宅を購入したい人が増え、ローンを組む条件に永住者資格を取得する必要性を感じたり、定住の資格だと数年ごとの更新に手間や費用がかかったりすることも背景にあるといいます。

入国管理法では、日系2、3世とその家族までしか「定住者」の資格が認められていません。ブラジルでは日系4世にもその許可を与えるように日本政府に対して訴えるというキャンペーンをする人たちもいるそうです。

*朝日小学生新聞1月8日に掲載した記事に加筆し、写真を追加しました。くわしくは「ジュニア朝日」のウェブサイト(http://www.asagaku.com/)へ

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