「9・11から3・11まで―21世紀の愚行について考える」ゲスト・池澤夏樹氏、百年の愚行展にて

21世紀となった現代においても9・11(米同時多発テロ)に始まり、日本が未曽有の大災害に襲われた3・11、そしてそれに引き続く福島第一原発事故を含め、人間の蛮行は止まることを知らない。

書籍『百年の愚行』が発表されたのは2002年のこと。当該書籍は二十世紀、百年に渡る人間の蛮行をまとめた一冊。100葉におよぶ蛮行を映し出した掲載写真は、見るものを釘づけにし、今この瞬間、そして日々この地球上で繰り広げられている事実を、平和ボケした日本人に突き付けた。

しかし21世紀となった現代においても9・11(米同時多発テロ)に始まり、日本が未曽有の大災害に襲われた3・11、そしてそれに引き続く福島第一原発事故を含め、人間の蛮行は止まることを知らない。そして2014年、新たにその十年間を切り取った書籍『続・百年の愚行』が発表された。前作の英文タイトルが『ONE HUNDRED YEARS OF IDIOCY』だったのに対し、本作は『ONE HUNDRED YEARS OF LUNACY』とされた。現代の人類の行いは愚行から狂気へとグレードアップしている...そんなメッセージ性を含んでいる。

そんなメッセージを伝えるべく、東京・千代田区外神田にある「3331 Arts Chiyoda」では「百年の愚行展」が行われている。戦争、環境破壊、経済格差、人間の尊厳を貶める様々な蛮行を眺め、自身を顧み、今後の考えを培う機会を提供している。

3331 Arts Chiyodaでは米同時多発テロからちょうど十四年を迎えた9月11日(金)の夜、同書の編集ディレクターである小崎哲哉氏が、作家・池澤夏樹氏を迎え、「9・11から3・11まで―21世紀の愚行について考える」と題するトークショーが開かれた。トークショーは予定時間を大幅に超過、2時間半にわたって様々な視点から、この10年の人類の、そして日本における愚行について語られた。

2003年3月に始まったイラク戦争について触れる中、池澤氏は2002年にイラクを訪れた経験を踏まえ「ブッシュは(イラク戦争について)退任時に(自分の判断が間違っていたと)弁明を述べたが、(アメリカを支持した)日本政府はいまだに反省しない。愚考とはいつもそうだ」と旗振り役だったアメリカ政府と追従しただけの日本政府の立場を指摘した。

当時の米大統領ジョージ・W・ブッシュは退任前「任期中の最大の痛恨時は、イラクでの情報活動の失敗」と弁明しいているが、日本政府からは立場を明確にした総括は出されておらず、現在の東京五輪を巡る新国立競技場白紙問題、五輪ロゴ撤回問題など日本の「無責任主義」につながっていることが理解できる。

原発についても、池澤氏自身が茨城県東海村の原子力発電所を見学した際、「パンフレットに『クリーンで安全で効率よく...』と言った売り文句が多く『危ない』と感じた」とし、作家として「形容詞が多く動詞が少ない文章は危ない」と会場の笑いを誘った。日本政府は経済政策を優先するあまり日本製原発セールスを積極的に展開、海外への商品見本のごとく、鹿児島県の川内原発を8月11日に再稼働させたばかりだ。

池澤氏は「(この14年で)よくなったことがひとつもない」との見方を示し、現在の日本の経済政策である「トリクルダウン理論」について「上からそうめんを流しても、下のほうには流れて来ない『流しそうめん』」とウイットに富んだ表現を披露。

そして最後に「(こんな世の中について)僕も含め、誰も妙案なんてない。でも、ダメだ、なんとかしなきゃと考える、考え続ける、不安に思い続ける...という提案です。今日は暗い気持ちで帰ってください」とトークショーを締めくくった。帰路、私自身かつては「ニュース・プロデューサー」という肩書を背負っていたにも関わらず世相も眺めず、ただの呑んだくれ稼業を営んでいることを酷く自省させられた。

なお「百年の愚行展」は9月27日まで行われている。人類の愚かさを顧みるためにも足を運ぶこと、もしくは書籍『百年の愚行』をお手に取ってみることをお勧めする。トークショーは登壇者を変え、18日(金)、25日(金)にも催されるので、ご興味ある読者は「百年の愚行」サイトで確認のほどを。

以下にいまは亡き文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロース氏が『百年の愚行』に寄稿したエッセイ、冒頭の二段落を引用する。

「私が授かった長い人生は、ほぼ20世紀全体と重なります。その20世紀が舞台となったさまざまの悲劇のなかでも私が第一に留意するのは、私が生まれた時点で15億だった世界の人口が、職に就いた時には20億、そして現在は60億に達しているという事実です。

人がこの地球上に現れて以来、これ以上の大規模な災厄が他の生命体に、そして災いの責を負う人類に降りかかったことはありません。この点こそ、ただひとつの真なる問題なのです。私たちの文明を脅かす諸悪の直接的、間接的原因を、個別の要因に求めてはなりません」。

(矢田部和彦訳)

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