加藤コミッショナー不問と三木谷オーナー不発

プロ野球界に自浄能力はあるのか...。それを問われている日本野球機構(NPB)において、オールスター前の恒例のオーナー会議が10日に開かれた。

プロ野球界に自浄能力はあるのか...。それを問われている日本野球機構(NPB)において、オールスター前の恒例のオーナー会議が10日に開かれた。昨年7月のオーナー会議において加藤良三コミッショナーの三選に反対した楽天からは、「コミッショナーのガバナンスを問う必要性から出席することになった」とオーナーである三木谷浩史楽天会長兼社長が出席し、各メディアから注目を集めた。結論からすると、250人ほど詰めかけたという報道陣は肩透かしを喰らった形だ。

球界の指針を定めるオーナー会議は、日本のプロ野球界における最高機関。三木谷オーナーは当初、統一球変更隠蔽問題において、その責任を追及されている加藤コミッショナーに辞任を迫ると目されていたものの、「第三者委員会からの報告待ってから」とやや静観という趣旨の発言に留まった。

今シーズンから統一球の反発係数に「補正」が施され、NPBの下田邦夫事務局長が選手会に「白状」した問題について、コミッショナーは会見まで開きながらも、「補正」に関する事実を「知らなかった」とし不祥事ではないと発言、批難を浴びている。元役人の感覚は、やはり一般の野球ファンとは乖離しているのだろう。部下の不始末(だとして)をトップが知らずして「問題ありません」と高らかに宣言し、責任問題を問われないとは、一般企業なら非現実的である。

戦後最長となる6年半にもわたり駐米大使まで務めた人物が、なぜそこまでコミッショナーの椅子にしがみつき、晩節を汚すのか...筆者の目には不思議に映る。そこで、実はこんなシナリオだったのではないかと想像力豊かに仮説を立ててみる。

まず、統一球は「飛ばない」とされ、ボールが飛ばないことで不満を抱えていたのは誰だったか。昨年のスポーツ報知において「飛ばないボールを作ったというのは本当にばかげた決定ですよ。今年は無理だけど、来年は変わるんじゃないですか。多少はね」と不満を口に統一球の「補正」も予言されている。コミッショナーの後ろ盾は、ある有力球団と囁かれている。すると、昨年の時点でなんらかの「補正」指示が、NPBの事務方に伝わっていたとしても不思議ではない。コミッショナーの会見にも同席していたNPBの井原敦事務局次長は、元読売新聞運動部長でもある。筆者としては、会見で「すべて私の責任」と、辞意を仄めかした下田事務局長が、独断で強権を発揮するとは想像しがたい。また、事務局長が責任を認めていながらも慰留されている点は、指示したのが「事務局長ではなかった」という裏付けにもならないだろうか。

こうした仮説に立脚し、本問題を眺めてみると、「補正」、「隠蔽」が世間に露呈したからと言って、コミッショナーに辞任を求めることは筋違いだ...球界ではそう考えられているかもしれない。

だからと言って世間からの責任追及には「ある程度」応えなければならない。コミッショナー留任側の筋書きは、第三者委員会でしっかり調査をした証跡を残し、しかし、コミッショナー責任については不問。そして、任期満了の来年6月を持って加藤コミッショナーが退任。声高に叫ばれている次期コミッショナーに王貞治氏が就任すれば、誰も傷つかず、そして選手会の要望も満たすことができるという筋書きだ。

この筋書きに対し「ガバナンス」をテーマに据え、コミッショナーの解任を目指すのが楽天なのだろうか。

しかし、各紙の番記者が知るように「オーナー会議」での議案は、会議前にすでに大勢が決していると表現しても過言ではない。最終的には多数決となるため、事前に根回しが行われ、決議の筋書きは会議前に「既定」されているケースが多い。三木谷オーナーの出席にも関わらず「肩透かし」だった10日のオーナー会議は、そんな事前調整の表れかもしれないのだ。

第三者委員会の報告が行われるのは、オーナー会議ではなく、その下層決定機関である12球団の理事会とされている。理事会における議論が、オーナー会議に上がり、そこでコミッショナーの処遇が決まるはずだ。はて、そこには一体どんな筋書きが用意されているのか。

ただし、経済界で繋がる各オーナーが、身内にとっての大団円を用意。理事会の内容によっては、コミッショナーの辞任問題について、第三者委員会の報告がなされるはずの「臨時オーナー会議」さえ、開かれないことも予見される。コミッショナーの選出方法についても「委員会設置」などの新提案がなされてはいるものの、果たして、どこまで制度化されるのか、次回のオーナー会議に向け興味は尽きない。

いずれにせよ、統一球問題が「知らなかった」ではなく、まったく「なかった」ことになっていなければ良いのだが。

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