湘南のコメ

農家の所得を増やすためには農協も大切な役割を果たす。しかし、農協が今と同じことをやっていては農家の所得を増やすことはできない。
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農家の所得を増やすためには農協も大切な役割を果たす。

しかし、農協が今と同じことをやっていては農家の所得を増やすことはできない。

農家自身はもちろん、農協がより知恵を出すか、より汗をかくか、よりリスクをとるかしなければ、今よりも農家の所得を増やすことはできない。

今回の農協改革は、それができる農協をつくるための一歩だ。

JA湘南は、平塚市、大磯町、二宮町からなる。

JA湘南によれば、この一市二町でおそらく10万袋のコメが穫れている。

平成26年は、このうち24,170袋をJA湘南が集荷しているが、全体の約4分の1にすぎない。

ちなみに

一袋=30kg

一俵=60kg

一畝=30坪

一反=10畝=300坪

一町歩=10反=3000坪

日本全国では生産される850万トンのコメのうち全農が集荷分が250万トン、約3割。神奈川では15000トンの生産量のうち、全農に来る分は2500トン、6分の1。

JA湘南が集荷できない残りのコメのほとんどは自家消費及び縁故米で、JAを通さずに米穀商に出荷されているコメもわずかながらある。

JA湘南が年間に2万袋を集荷できたのは、過去に平成13年に20,286袋、それから10年は2万袋を切り、ようやく平成23年に21,872袋、平成24年に21,055袋、平成25年に22,265袋、そして平成26年に24,170袋とかつてない集荷量になった。

平成26年の集荷量が大きく伸びたのは、JA湘南が農家に渡す概算金が高く、JA湘南を通さずに米穀商に直接出荷するよりもお得感が強かったためで、これまで直接米穀商に出荷していた約30軒の農家がJA湘南に出荷した。

JAに出荷するためにはJAに持ち込まなければならないが、米穀商の場合、向こうから集荷に来て、検査も米穀商が一括してやるなど農家にメリットがあるため、1俵あたりJAが12,000円なら米穀商はおよそ11,600円で買い取ることができると言われる。

JA湘南の平成26年のキヌヒカリ一等米の概算金価格は、1俵たり12,800円で、米穀商はこの価格に対抗できなかった。

全農の全国の概算金と比較してもコシヒカリ魚沼産14,200円には負けるがコシヒカリ新潟県一般産12,000円を上回る価格になっている。

北海道のゆめぴりか12,000円、きらら397 10,000円、ななつぼし10,000円、福島産会津ひとめぼれ10,000円、富山県産コシヒカリ10,500円と比較しても高い。

こうしたコメの産地のコメは、生産コストだけでなく産地から消費地への運賃、1年かけて販売されるためその間の倉庫代、卸商へのセールスプロモーションのコストなどがかかるため、1俵当たりで2000円近いコストがかかるとも言われるが、神奈川の場合、地産地消になるため運賃はかからず、量も少ないため倉庫代も少なくて済む。一俵当たりのコストは米どころと比べ、はるかに安くすむため、都市近郊のJAはコメの買取りのための概算金を高くすることができる。

上記の価格は概算金で、1年後には精算されて確定金額との差額が支払われることになるが、上乗せされても1000円を超えることはまずないだろうという。

JA湘南は平成26年に集荷した24,000袋のうち、8500袋を自己責任で買取り、残りを全農に売り渡した。

神奈川県の場合、全農に売り渡したコメはほとんど給食用に使われる。神奈川県の場合、コメの地産地消を進めるために、給食米に買い取る場合、地元米にはプレミアをつけて高く買い取っている。

神奈川県が必要としている給食米は年間2200トンだが、全農が供給できる神奈川米は1700トン程度で、すべての給食米を賄うには神奈川のコメでは足りていない。

神奈川県の場合、全農は1俵12,000円で買取り、給食米として12,800円から13,000円で販売できるので、運賃や倉庫代などの経費を入れても多少の利益を出すことができる。

JA湘南は自己責任で買入れたコメ8500袋のうち5000袋を直売で販売する。

5kg玄米で1,550円、1俵あたり18,600円。ここから経費を差し引いても利益は全農に売り渡すよりも大きくなる。

神奈川県内のJAには、直売用のコメを自己責任で農家から直接買い取って販売するところと、集荷したコメを全農にすべて売渡し直売分を全農から買い戻して販売するところがある。

必要量だけ全農から買い戻して直売で販売すればJAのリスクは小さくなるが、利益も少なくなるので農家へ支払える金額も小さくなる。

JA湘南は直売分は自ら買い取って販売するため、新米が出るまでに売り切らないと売れ残りを抱えることになる。過去10年間に2回、そうした事態に陥っている。

平成25年は7月初めに売り切ったが、平成26年は8月のお盆まで売り切るのにかかった。

直売以外のものは業務米として、地元米に価値を見出してくれる飲食関係の企業、たとえば「みずほ野」や「富士キッチン」等に販売している。この業務米は直売ほど高くは売れない。

JAがリスクをとって自己責任で高くコメを売ることができれば農家への支払金額も高くすることができる。

JAの中には全農に売り渡すコメの概算金とJAが買い取るコメの概算金を二本立てにしているところもあるが、JA湘南では全農分と買い取り分を合わせた概算金を設定している。

JA湘南のコメへの取り組みを支えているのは、コメの地産地消に対する価値である。ほんの少しの価格の上乗せで、地域の農家を支え、地域の水田を守ることができる。

それだけではない。

JA湘南は、コメを買い入れるときにいくつかの条件をつけ、その条件を満たせば12,800円、条件に合わなければ金額が減らされる。

かつてはJA湘南は、生産調整を達成している農家と生産調整をやっていない農家に価格差をつけていたが、今後、生産調整が廃止されることを受けて、平成26年から生産調整を条件としなくなった。

JA湘南が条件の一番にしているのが、温湯種子消毒と種子更新だ。

温湯消毒とは稲の病気を防ぐために60度のお湯にきっちり10分つけて、冷水で冷やし、脱水乾燥させるというもので、これをやることによって農薬の使用量を減らすことができる。

これが評価されて、給食米用に湘南米が名指しされるケースが少しずつ増えている。

種子更新とは、前の年に穫れたコメを種もみとして使わずに、全量JA湘南が富山県などに委託して生産させた種もみをつかうこと。

直ダネとよばれる前年のもみを使う方法では、自然交配が起きている可能性があることから、100%キヌヒカリを保証することができない。100%種子更新をすることで品質を保証することができる。

JA湘南管内で栽培されているキヌヒカリは、温暖化の影響もあり、品質が低下してきているという。

またキヌヒカリには倒れると発芽する穂発芽しやすいという欠点もあり、こうした点を改良した「はるみ」という品種の栽培が始まっている。

はるみもキヌヒカリも早生系なので、両方を並行して栽培するのは難しく、どこかでえいやっと品種を入れ替える必要があるかもしれない。

一畝で一俵を収穫する「畝どり」ができれば一反で10俵収穫することができるが、平均すると8.5俵程度になる。

仮に畝どりできたとして、JA湘南の概算金で一反当たり128,000円。その反面、生産調整で飼料米をつくると交付金・助成金で92,000円というのが現状だ。

JA湘南では生産調整が廃止されたら給食米に転換できるように飼料米分としてもキヌヒカリを生産している。

地域が支える農業をJA湘南管内に根付かせるためにも、農家やJAだけでなく消費者に地産地消の価値を見出していただくことが必要だ。

(2015年4月12日「河野太郎公式ブログ ごまめの歯ぎしり」より転載)

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